京都府の若手職員による新たな挑戦、ジブンゴトとしての働き方改革とは地方自治体の働き方改革、実態は?

保守的で新規取り組みに消極的とみられがちな自治体。だが京都府は若手を中心にITツールの普及啓発などジブンゴトとして働き方改革を推進した。変革の波はどう起きたのか。

2018年05月24日 10時00分 公開
[ITmedia]

 「地方自治体における働き方」にどのようなイメージを持つだろうか。「ペーパーレス化が進まず、大量の紙仕事が残っている」「体制が厳格で、小回りが利かなさそう」「ITを活用できる職員が少ない」など、保守的で堅いイメージを持つ人も多いのではないだろうか。実際に、組織風土や職員の意識が変わらず、業務の効率化が進まないことを課題とする自治体も少なくない。

 京都府もそうした悩みを抱えていた。「日々の業務に追われ、働き方改革を意識する暇がない」という声も上がり、導入したITツールの活用も進まなかったという。しかし、若手職員がIT業界の先端を走る外資系企業の職場を体験し、そのワークスタイルに衝撃を受けたことをきっかけに変革の波が起こった。今ではテレビ会議に抵抗感を示していた幹部職員が「あれがないと仕事ができない」とまで話すという。若手を中心に激動する京都府の働き方改革とは。公民問わず参考にできる極意を紹介しよう。

外資系企業にカルチャーショック、若手が中心に意識と文化を変える

 若手職員による働き方改革が始動したきっかけは、民間企業への出向だった。京都府は2015年にシスコシステムズら3社と「ICT等を活用した地域づくり・スマートシティーづくりに関する連携・協力協定」を締結。ICTの製品やノウハウを持つ団体や企業と協働することで、新しい社会システムとイノベーションを創出しようという施策を立ち上げていた。

京都府 籾井隆宏氏

 そして、2016年にはこれらの施策を推進すべく、最先端の民間企業でIoTの事業戦略を学ぶために京都府商工労働観光部 文化学術研究都市推進課 計画推進担当 主事の籾井隆宏氏はシスコシステムズへ1年の期限で出向し、民間企業の職場を体験することになった。

 同氏は実際に働く中で、京都府での働き方とシスコシステムズでの働き方が大きく異なることに大きな衝撃を受けたという。テレワーク、フリーアドレス、裁量労働制――労働の効率性や迅速性など何もかもが違い、仕事の生産性も高い。「地方自治体にも働き方改革が急務だと実感した」と同氏は振り返る。

 1年後、京都府に戻った同氏は、早速庁内の研究制度を活用して働き方改革に関するアンケートを実施した。その結果、多くの職員が「働き方改革を意識する暇がない」「何から着手すればよいか分からない」と回答し、あらためて働き方に対する意識改革の必要性を痛感したという。

 「私たちのような地方自治体は、歴史も長く、組織も硬直化しています。ITツールを導入したり制度を整備したりするだけでは不十分で、職員の意識改革や組織風土の醸成も、一体的に取り組まなければならないと考えました」(籾井氏)

ありたい未来を描く「京都府庁働き方ビジョン2030」の策定

 同氏は意識改革と関連して、組織横断的に職員が知見やアイデアを持ち寄り、他人事ではなく「ジブンゴト」として働き方改革に取り組む姿勢も必要だと考えた。また、約10年後にはデジタルネイティブ世代の職員が府政の中核を担うことから、時代に沿った働き方の重要性を指摘した。

 2017年10月、同氏らは自主的に府庁の働き方改革をけん引する目的で「京都府庁働き方改革クロス・ファンクショナル・チーム(以下、CFT)」を結成。13人の有志職員が集まり、シスコシステムズら4社のサポートを受けて本格的に活動を開始した。間もなくCFTとして目指すべき「京都府庁働き方ビジョン2030」を策定。「いつでも、どこでも、誰とでも働くことができる」など6つのビジョンを描いた。

 CFTはビジョンの実現に向けて、中長期的な事業化計画を検討する他、職員の意識や組織風土を変えるためのインフルエンス活動、若手職員の主体性や自発性を強化するジブンゴト研修などの活動に注力する。

「京都府庁働き方ビジョン2030」《クリックで拡大》

テレビ会議で女子会も開催、業務効率化だけではない効果

 CFTの活動はどのようなものなのだろうか。印象的な取り組みの1つに、テレビ会議システムの活用がある。京都府では、2017年にテレビ会議システムが導入されたが、当初は「使いにくそう」という固定観念もあり、利便性が周知されておらず活用が進まなかったという。

 この状況に危機感を感じたCFTは、導入されたシスコシステムズのテレビ会議システム「Cisco TelePresence(以下、TelePresence)」を活用して早速「働き方改革クロスファンクショナル検討会」というワークショップを実施。本庁以外の拠点を含めて40人の職員を集め、テレビ会議を活用するためのアイデアを出し合うなど、京都府の働き方改革の進め方について意見交換を行った。

 その後も、テレビ会議の利用を促進する目的でTelePresenceを使ったランチミーティングを開催し、12回(2017年11月〜2018年3月)で延べ160人が参加。「ぼっち女子撲滅!テレビ会議女子会」「管理職と若手のゆる〜い意見交換」「教えて!外資系企業シスコのカルチャー」「イクメン男子集まれ!テレビ会議でパパのお悩み解決」といった、これまで庁内では行われていなかったカジュアルなテーマで、テレビ会議の有用性や利便性、何よりも楽しさを体験できる場を作った。

京都府 小西 真唯子氏

 「TelePresenceはとても音質がよく画質もクリアで、遠隔地でも快適なディスカッションを楽しめます。ランチミーティングでは、ミーティング冒頭でウクレレサークルのメンバーに遠隔地から演奏してもらったこともありましたが、音がとてもきれいに聞こえました。テレビ会議というと業務効率化や交通費の削減などばかりに目が行きがちですが、働き方改革では職員の庁内生活を豊かにするような+αの効果が重要だと考えます。ランチミーティングなどを通して、引き続きテレビ会議システムの活用方法を探していきたいです」と京都府商工労働観光部 産業労働総務課 企画・地域戦略担当 主事の小西 真唯子氏は述べる。

「あれがないと仕事ができない」幹部職員がテレビ会議ロスに

 小西氏はテレビ会議普及活動を行うCFTメンバーの一人だ。職員のコミュニケーションを促し、業務を円滑化にするツールとしてもテレビ会議が浸透していると話す。

 「TelePresenceは高品質で、実際に会って話しているように感じさせます。他拠点の職員と電話でコミュニケーションを取っていたときには、相手の顔が見えないため『怒っているのかもしれない』と不安を感じることもありました。しかし、TelePresenceを使うようになり、安心して対話ができるようになりました」(小西氏)

 効果を実感した職員の間ではTelePresenceが「なくてはならないツール」として浸透しているという。庁内ではTelePresenceの試験導入と本格導入の間に一時期テレビ会議がない期間があったが「あれがないと仕事が進まない」という声が多く寄せられた。テレビ会議に抵抗感を示していた幹部職員やベテラン職員からも同様の声が上がり、上層部の意識が変化したことを感じたという。

自治体同士の横のつながりもテレビ会議で

京都府 山本智之氏

 テレビ会議の活用事例に見られるような、組織横断的な変化の波を作りあげることは容易ではない。2018年3月までシスコシステムズに出向していた京都府政策企画部企画総務課 主事の山本智之氏は、出向期間に総務省や経済産業省、その他の10を超える自治体と「働き方改革自治体ワーキンググループ」を開催し、テレビ会議を活用して働き方改革の情報共有やアイデアの交換を行ったという。

 「多くの自治体や公共組織において、トップダウンでツールの導入は進んでいますが、なかなか活用まで至っていません。働き方改革を推進するには、職員が中心になって変化の波を作ることが欠かせません。いずれの組織にとっても重要な課題でしょう」(山本氏)

「ペーパーレス化が足りない」率直な意見もランチミーティングだからこそ

 取材当日に開催されたランチミーティングでは、籾井氏、小西氏、山本氏の他、大手民間企業や他自治体への出向を経験したことのあるメンバーや、4月からシスコシステムズに出向している職員など計10人で開催された。

 昼食を食べながら、近況報告などの雑談を混ぜながらも、各メンバーが率先して働き方改革に関する意見を述べ、提案していく雰囲気が作り上げられていた。その中には「庁内のペーパーレス化が進まず、出向先で1年の間に印刷した紙の量をたった1日で消費した」といったリアルな意見も交わされた。固い雰囲気の会議ではこうした積極的な発言や柔軟な発想は難しいだろう。

 TelePresenceを使った遠隔ミーティングについて「遠隔地でも、その場にいるかのように会議に加われるのがよい」と、参加者は口々に述べている。「TelePresenceは非常に使いやすく、リモコンや画面タッチで直感的に操作できる。ITツールに不慣れでも困らない」と活用のハードルが低いことも普及につながると指摘した。

 「テレビ会議を通じて顔を見て会話をするという行為が、これほど業務や会議に影響するとは考えていませんでした。今ではテレビ会議システムが、働き方改革の重要なインフラだと捉えています。この有用なITツールを身近に感じてもらえるようにインフルエンス活動を続け、さらに利用を促進したいです」(籾井氏)

 例えば、現在は府庁のネットワーク内でしかテレビ会議ができないが、今後は民間企業との連携の中で手軽に遠隔会議ができるような環境を整えることも検討したい。「シスコシステムズや他の企業にご指導をいただきながら、さらに庁内の働き方改革を推進し、府民サービスの品質向上を目指したい」と山本氏は締めくくった。

定期開催されるランチミーティングの様子

提供:シスコシステムズ合同会社
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