屋外ゆえにIT化が進みにくい土木・建築の現場。その中でいち早くIT化を実現、会議も作業報告も「ここまで効率化できる」と自ら示して現場を変えた鹿島建設の実践を追った。
人材不足などを背景に、就労者の労働環境改善や業務効率化が急がれる業界の1つが土木・建築業だ。
現場での作業が多く、報告書や図面など、紙の文化が根強く残る業界においてIT化を積極的に推進する企業の1社が鹿島建設だ。従来、工数や手間がかかって当たり前と思われてきた業務を、まずはIT化。現場の人員が実際に使って、見せて、伝えることで、施主も協力会社をも巻き込んだ改革を推進している。
今では施主との打ち合わせにおいてもペーパーレス化が進んでおり、現場からスマホやタブレットで報告を受けたりすることも当たり前になっているという。“最先端の現場”の作り方を取材した。
都市部の渋滞緩和や物流の信頼性向上などを目指し、首都圏各地域では「首都高速道路中央環状線(中央環状線)」「東京外かく環状道路(外環道)」および「首都圏中央連絡自動車道(圏央道)」の整備が進められている。
このうち、松戸市小山から市川市高谷に至る約12.1キロの“千葉県区間”の外環道工事のうち、中央付近「市川中工事」は、鹿島建設・大林組・鉄建建設の3社による共同企業体によって、2010年ごろから工事が進められている。
市川中工事を担当する鹿島・大林・鉄建特定建設工事共同企業体 外環市川中JV工事事務所 古賀進一氏は、「この区間は学校や病院、商業施設などが多く、排ガスや騒音など環境への影響を考慮し、道路を地下化する構造を採用しています。真間川や京成本線を横切り、国道14号や市道0124号との交差もある他、一部区間では国道298号の地下化も行わなければなりません。そのため、さまざまな躯体構造を組み合わせているのも特徴の1つで、難易度の高い工事区間といえるでしょう」と説明する。
古賀氏によれば、計画当初(昭和44年)と比べて構造や工法が大幅に変化したのはもちろん、着工から現在までの約7年の工事期間中でも環境に応じて計画変更を行ってきたという。もちろん付随する工程全体の見直しも都度、発生する。
加えて1.5キロにも及ぶ工事エリアは、スーパーゼネコンに数えられる鹿島建設としても滅多に経験しないほどの巨大な現場だという。当然、工程も複雑で、関わる人員も膨大だ。工区は3つに分けられ、最大で120人の職員と800人の作業員が関わっており、互いに連携を取りながら作業を進めなければならない。当然、細かな“現場すり合わせ”は数え切れないほどに発生していたはずだ。
「最大の課題は、やはり情報伝達と共有にありました。関係職員や協力会社(職長)に連絡したい事項があっても、全員が1カ所に集まるタイミングなどありません。メールでやりとりすることもありますが、メールチェックは事務所に戻らなければできませんでした。そのため、連絡手段は電話をメインに使っていましたが、なかなかつながらずに時間がかかってしまうこともあります。さらに、一対一での音声だけのやりとりでは、“言った”“聞いていない”というようなトラブルになるリスクもあり、その調整に時間を割くことがあります。ただ、現場では『それが当たり前』だと思っていたのです」と、鹿島・大林・鉄建特定建設工事共同企業体 外環市川中JV工事事務所 工事課長の遠藤祐太氏は振り返る。
土木・建築の現場は、他の業種と比べてもIT化が遅れがちな領域だ。その中にあって鹿島建設は、もともと積極的にIT化を進めている事業者の1社だった。例えば、表計算ソフトでやりくりしていた工程管理を専門のツールに移行したり、3次元設計ツールによる3D図面を採り入れて作業をイメージしやすいようにしたりして、職員や作業員が業務を遂行しやすい環境作りを行っている。
「施策の1つとして、スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスの導入は、私たちの業務を大きく変えました。現場に分厚い図面や資料を持ち運ぶ必要もなく、写真も撮影できます。最も劇的な変化を生んだのは、そうしたモバイルデバイスの活用をさらに促進する『Cisco Webex Teams(旧・Cisco Spark、以降Webex Teams)』の導入だったと思います」(古賀氏)
Webex Teamsは、2018年2月ごろに鹿島建設土木管理本部土木技術部の紹介により、市川中工事の現場に導入された。まずは、古賀氏や遠藤氏など、一部の職員のタブレットやスマートフォンでもWebex Teamsアプリを利用できるようにした。加えて現場事務所では電子ホワイトボード「Cisco Webex Board(旧・Spark Board)」を設置、会議の効率化も図っている。
Webex Teamsの活用によって、現場の作業は一変した。例えば、道案内の看板などを設置するとき、どのような文言を書くか、どのような矢印の向きにするかといった内容を作業者に伝える必要がある。これまでは電話が中心であったため、うまく伝わらないことも多かった。
「タブレットなどのモバイル端末で現場を撮影した写真をWebex Teamsで受け取り、それに指示を書き込んで投稿するだけで、詳細に説明しなくとも意図が伝わります。作業後も、Webex Teamsに写真を投稿すれば状況が伝達でき、これ以上の完了報告は必要ありません。看板の設置などは、指示通りに完璧なものができるようになりました。Webex Teamsだと気軽にコミュニケーションが取れるので、メールを使う機会すら減りましたね」(遠藤氏)
現場での確認や作業も多い遠藤氏は、細かな注意点や気付いたことなどを記録する備忘録としても、Webex Teamsを活用しているという。情報がWebex Teams上に記録として残るため、後から検討したり指示したりしやすく、他のスタッフとも相談しやすいというわけだ。
また古賀氏の所属するチームでは、新しい工事の計画や手法などを検討する場面でWebex Teamsを用い、スタッフへの周知や議事の記録などに活用しているという。Webex Teamsを使ったディスカッションには、プロジェクトを管理するマネジャーも参加しており、古賀氏らの検討結果や進捗(しんちょく)などをチェックしている。メールなどに比べて過去の内容にアクセスしやすいため、スタッフの異動などがあっても情報を共有しやすいというメリットがある。
遠藤氏は、当工事の発注者である東日本高速道路(NEXCO東日本)とのミーティングでも、大画面に資料を映せるWebex Boardが大いに活躍するという。工事の進捗状況などを報告するために定例的に会議を開催している。以前は会議のたびに、来訪する6〜7人の担当者に対して、数十枚に及ぶ資料を印刷して渡していたとのことだ。
「Webex Boardは画面が見やすく、細かな図面や写真も簡単に拡大・縮小して細部を説明できるため、紙の資料よりも説得力があります。紙の資料と比べて、参加者を画面に集中させることができるというのもメリットで、会議が進めやすくなりました。最初は資料の部数を減らして渡していましたが、最終的には紙資料の配布なしでの会議を実現しました。紙の削減効果は、非常に大きいと感じています」(遠藤氏)
鹿島建設としても、「現場の従業員の働き方を変え、工事の品質とスピードを確実に向上するソリューションであることは間違いない」と、Webex Teamsを高く評価している。市川中工事での採用はまだテスト段階にすぎないが、これをモデルケースとして他の現場にも広めていくという意向だ。
2018年6月に開通を迎える市川中工事も、周辺の工事はまだ残されているとはいえ徐々に規模を縮小し、現場事務所に常駐していた設計スタッフなどが本社に戻っていくことになる。つまり、遠隔拠点とのコミュニケーションが困難になるということだ。
「一部のスタッフが現場から引き上げても、情報のやりとりがなくなるわけではありません。Webex Teamsの活躍する場面が、いっそう増えていくと考えています。より多くのスタッフを“巻き込んで”、Webex Teamsを使いこなしてほしいと考えています。また、私たちが便利に使っている姿を見て、他の現場や他の事業者が興味を持ってくれれば、事業全体の働き方改革につながるのではないかと考えています」(古賀氏)
外環市川中JV工事事務所では、よりモバイルデバイスを利用する際の利便性を高め、安全性対策や管理業務などを強化するため、工事現場での通信環境も整備する意向だ。キャリア回線に頼らずに自前でWi-Fiを敷設して、安全かつ十分な通信環境を整え、IT化の効果を最大化する狙いもある。現在、シスコシステムズのサポートを受け、機器の配置方法などを検討しているところだ。
最後に、鹿島・大林・鉄建特定建設工事共同企業体 外環市川中JV工事事務所の所長である奥本 現氏は「鹿島建設では、2017年4月に『鹿島働き方改革』を掲げ、労働環境の改善を進めており、職員や作業員が働きやすい環境を設ける手法を模索しています。Webex Teamsのような最先端のITには、現場の働き方改革を促進する可能性を感じています」とまとめた。
鹿島建設は、今後もさまざまな現場でITを活用し、土木・建築の現場で働き方改革を推進することだろう。シスコシステムズでは今後も引き続き同社の改革を支援する予定だ。
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