「Office 365」は導入しただけで業務が効率化できるものではない。その機能を最大限引き出すには、ちょっとした工夫が必要だ。
ビジネス現場の最前線で働く従業員の業務効率化、あるいは働き方改革の推進を実現するツールとして「Office 365」を導入した企業は少なくない。ただし導入企業の全てが、Office 365を十分に活用できているとは言い切れない。
メールのやりとりやドキュメント、プレゼンテーション資料、計算表の作成といった、以前からある「Microsoft Office」アプリケーションの機能を難なく使いこなしている企業は少なくないが、「その先」に行けるのは少数派だ。コミュニケーションやコラボレーションの分野だけでも、Office 365には多様な機能が搭載されている。これらの機能に関して「あまり知らない」「使うところまで到達していない」という企業は珍しくない。
これでは本当の意味でOffice 365を使っているとは言い難い。業務効率化への貢献も限定的になるだろう。このような状況を一変させる、Office 365の機能を生かし切る方法を紹介しよう。
ソフトバンク・テクノロジー(SBT)は2018年8月、クラウドサービスの利活用を加速させる新ブランド「clouXion」(クラウジョン)を立ち上げた。clouXionは、これまで大企業を中心に840社以上にMicrosoftの製品、サービスを提供してきたSBTの実績と知見に基づき、顧客企業の課題解決を目的に開発された各種機能群の総称だ。セキュリティ強化と業務効率化を実現する十数の機能で構成されている。
clouXionの企画を担当するSBTの山崎 優氏(営業統括ソリューション営業本部Cloud & IoTソリューション部 部長代行)は、このサービスについて次のように語る。「働き方改革の取り組みが進む中、既に導入済みのクラウドサービスをさらに活用することで、多くの企業の業務改革に役立てられるのではないかと考えている」(山崎氏)。クラウドサービスに精通している人材が少なく、どのように働き方改革に生かせばよいのか悩んでいる企業は珍しくないだろう。働き方改革で解決すべき課題は、企業によって異なる。必然的に、有効なツールを利用するためのベストプラクティスの確立は困難となる。こうした中で、山崎氏は「クラウドを最大限活用するため、当社が培ってきたノウハウをclouXionとしてサービス化した」と話す。
clouXionはMicrosoftの製品、サービスを補完する機能群で構成されている。山崎氏は「最近は特に、ビジネス現場の最前線で働く従業員や、工場、店頭など現場の第一線で働く従業員の業務効率化を目的とした、Office 365関連の機能群に対する引き合いが強い」と語る。
「オフィスワーカーの業務効率化を目指した取り組みが一巡し、次の施策として現場の最前線で働く従業員の業務効率化が課題になっているようだ」(山崎氏)。中でも、
の4機能に興味を示す企業が目立って増えているという。
OnePortal Modernは、Office 365の中核機能というべき「SharePoint Online」の最新のUI(ユーザーインタフェース)に合わせた、SaaS(Software as a service)形式のWebサイト展開ツールだ。社内ポータルサイトを構築するとともに、その利活用を促進する機能を集めている。これによって自社に最適な社内ポータルサイトを素早く構築できる。
「SharePoint Onlineで社内ポータルサイトを作るのは容易ではなく、時間もコストもかかります」(山崎氏)。OnePortal Modernを使えば、用意されているプロビジョニング(展開)用のWebサイトに、社内ポータルサイト構築に必要なWebパーツを選択、配置するだけで、自社が望む社内ポータルサイトが構築できる。
OnePortal Modernには、レイアウトに合わせて画像サイズを自動調整して情報発信できる「画像スライダー」、検索ボックスや階層表示の組織から従業員を検索できる「社内アドレス帳」、未読/既読の判別機能を備えた「掲示板」など、SharePoint Onlineの標準機能には備わっていない多彩なWebパーツが用意されている(図)。clouXionの機能開発を担当するSBTの田中敏朗氏(技術統括ITイノベーション本部エンタープライズソリューション統括部ビジネスコラボレーション部 副部長)は、「こうしたWebパーツは顧客企業の要望に沿ってSBTが独自に開発した機能を活用している」と語る。
これらのWebパーツを使えば「専門知識がなくても、わずか10分程度で社内ポータルサイトが完成します。テスト期間も含め、1週間もあれば、ビジネス現場の最前線にも展開することが可能です」(田中氏)。OnePortal Modernには「誰がいつ、どのページにどれくらいアクセスしているか」を把握するアクセス解析機能もある。これを基に社内ポータルサイトの改善につなげられる点も特徴の一つだ。
機能 | 説明 |
---|---|
画像スライダー | レイアウトによってサイズが自動調整される画像スライダー |
社内アドレス帳 | 検索ボックスや、階層表示の組織からユーザー検索ができる |
未読・既読掲示板 | 指定したお知らせの未読・既読の判別機能を備える |
タブ形式お知らせ | タブ形式でカテゴリー分けし、アプリを表示する |
新着表示 | 複数サイトからお知らせなどのリストを集約表示することが可能 |
階層型掲示板 | 階層表示が可能なディスカッション用の掲示板 |
Knowledge BOT | OnePortal に関するQ&Aを含め、問い合わせに答えてくれるAI機能を備える |
OnePortal Modernに備わるカスタム Webパーツ一覧 |
FlowはSharePoint Onlineで利用できるワークフローサービスだ。SharePoint Onlineで申請書を作成し、Flowでワークフローを設定するだけで、申請、稟議(りんぎ)などのワークフローシステムが構築できる。
SharePoint Onlineは標準のワークフロー機能を備えるものの、必要最低限の機能にとどまる。理想的なワークフローを実現するために、UIや操作性が異なる別のワークフローシステムを導入すれば、従業員に対してシステムに慣れるための負担をかけてしまう。Flowを使えばUIはそのままでワークフロー機能のみを強化できる。
導入システムを増やせば、ユーザー認証の点でもIT担当者の負担が増えてしまう。Office 365の一つの機能として動作するFlowならば、Microsoftのクラウド形式のディレクトリサービス「Azure Active Directory」(Azure AD)を使ってユーザー認証できるため、IT担当者の管理負荷も最小限に抑えられる。
Flowは現場の最前線で働く従業員の業務効率化にも役立つ。「Flowはデバイスを問わず利用できるように開発しています」と田中氏は説明する。例えばスマートフォンで運用するワークフローを作成し、どこにいても承認処理が実行できる仕組みを構築できる。MR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens」と組み合わせ、現場の作業員が備品を発注申請するワークフローも実現する計画だ。
Knowledge Botも、clouXionの機能として注目度が高い。Office 365のSharePoint Onlineや「Microsoft Teams」と組み合わせて使用でき、問い合わせ窓口の効率化が図れる。
山崎氏は「Knowledge Botは、ヘルプデスクやコールセンターの問い合わせ業務に最適です」と語る。Q&Aデータベースに質問や回答を登録、編集できる機能を備えており、同義語や表記揺れを事前に登録することで、検索結果のヒット率を高めることができるからだ。回答にたどり着かなかった質問の履歴を管理しており、管理画面で回答を追加し、即座にQ&Aデータベースに登録できるようにしている。
Knowledge Botは今後、音声認識や画像認識といった人工知能(AI)機能のサービス群「Cognitive Services」を利用する予定だ。Cognitive Servicesに組み込まれたAI技術のアルゴリズムを使うことで、高度なチャットbotに育て上げることが可能だ。またCognitive Servicesの機械翻訳サービス「Translator Text API」と連携し、外国語でもQ&A機能を利用できるようにする。管理者が日本語でQ&Aをメンテナンスすれば、さまざまな言語に自動的に翻訳してくれる。
2018年10月に追加された機能が、Provisioning Flowだ。この機能はクラウドサービスの利用申請などの承認フローを自動化できる。これによって承認の流れを効率化し、さらに承認後のクラウドサービスの設定を高速化できる。設定作業における管理者の業務負荷を軽減することに加え、人為ミスや処理漏れをなくし、ガバナンスが適切に効いた運用管理が実現できる。
田中氏によれば、SBTはID管理や各種リソース/権限の割り当てに関連する作業を、Excelとメールを用いて申請処理する方法を採用していたが、その中で管理者に作業負担がかかり過ぎていることが課題として浮上した。それがProvisioning Flowを開発するきっかけになったという。「今後はこの機能を使って自動化できる機能を継続的に増やしていく計画だ」と田中氏は説明する。
SBTは今後もMicrosoftの製品やサービス、とりわけOffice 365の利便性を向上させるツールの開発を継続し、clouXionのラインアップを拡充させる計画だ。なおSBTは、他社を通じてOffice 365を導入した企業に対してもclouXionを提供しているので、身構えることなく相談できるはずだ。
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