ハイパーコンバージドインフラ(HCI)は企業インフラの有力な選択肢だ。ハードウェアがコモディティ化する現在、注目すべきはソフトウェアだ。今注目のハイパーバイザーとは何か。ハンズオンセミナーからその特徴を探る。
ハイパーコンバージドインフラ(HCI)は、企業システムのインフラとしてスタンダードになりつつある。従来のサーバ、SANスイッチ、ストレージという3ティア(3層)構成の煩雑さを排除し、汎用(はんよう)機器を用いてコンパクトな仮想統合基盤を構築できる仕組みとして人気がある。
HCIを構成する要素のうち、中核を担うのは仮想化基盤ソフトウェア「ハイパーバイザー」だ。主なハイパーバイザーとしてVMwareの「VMware ESXi」(以下、ESXi)やMicrosoftの「Hyper-V」、Nutanixの「Nutanix AHV」(以下、AHV)などがある。
「Nutanix」はESXi、Hyper-Vなど複数のハイパーバイザーを選択できるため、人気があるHCIだ。それに伴ってNutanix専用に無償で提供されているAHVが注目を集めているという。
このAHVのハンズオントレーニングセミナーが2019年9月19日に開催された。そのセミナーで語られたAHVの特徴や人気の理由を紹介しよう。
HCIは、サーバ、SAN(ストレージエリアネットワーク)、ストレージの機能が統合された仮想化環境のための基盤である。こう語るのはSB C&Sの長濱歳也氏(ICT事業本部販売推進本部技術統括部第1技術部3課)だ。HCIの実態は一般的なx86サーバを複数台まとめてクラスタを形成したものだ。ストレージ機能を仮想ストレージソフトウェアで実現しており、複数のサーバに内蔵されたディスクを1つの共有ストレージとしてまとめている。「ホストを増設するだけ」でスケールアウトできるアーキテクチャを採用しており、柔軟性、迅速性、可用性、堅牢(けんろう)性についての評価も高い。
その中でも著名なのがNutanixだ。ESXiやHyper-Vなどからハイパーバイザーを自由に選択でき、さまざまなサーバベンダーからNutanix専用モデル製品も提供されている。そして無償で利用できる専用のハイパーバイザー、AHVを忘れてはいけない。
SB C&Sは、AHVを実際に操作できるハンズオンセミナーを開催している。セミナーの講師を務めるSB C&Sの長濱氏はAHVの特徴について次のように説明する。「AHVは他の製品とは異なり、HCIのために開発されたハイパーバイザーです。Linux KVMをエンタープライズ用途にカスタマイズし、セキュリティ機能を強化しています」
長濱氏によれば、他のエンタープライズ向けハイパーバイザー製品と比べても遜色なく、ライブマイグレーション、仮想マシンへの仮想CPUやメモリのホットプラグ(無停止でデバイスを認識する技術)、仮想スイッチ、HA(高可用性)構成、自動ロードバランシングなどの高度な機能を実装しているという。
2019年9月13日にNutanixの年次カンファレンス「.NEXT Japan 2019」が東京で開催されたが、そこでもAHVに注目が集まっていた。「最近は機能や性能が洗練されてきたこともあって、2018年にはNutanixのグローバルユーザーの約40%がAHVを採用しています」とニュータニックス・ジャパンの近藤 暁氏(シニアシステムズエンジニア)は語る。
同社は.NEXT Japan 2019に引き続き「X Tour」カンファレンスを大阪(9月25日)で開催しており、原稿執筆時点で名古屋(10月17日)、福岡(10月31日)、札幌(11月21日)での開催が予定されている。
長濱氏は、HCIの最大のポイントをストレージ仮想化技術、つまりサーバの内蔵ディスクを共有ストレージとしてまとめられる点にあると語る。AHVを利用することで、ハイパーバイザーとHCIが密接に統合され、設定項目が少なくシンプルに管理できるメリットもあるという。ではNutanixの各種要素について紹介しよう。
Nutanixは「分散ストレージファブリック」(DSF)技術で共有ストレージを構成し、可用性と性能を高めている。DSFは内蔵ディスクで読み書きするデータを、各ノードのCVM(コントローラーの役割を持つ仮想マシン)が互いに通信し、複製している。DSFとAHVは親和性が高く、「ストレージコンテナ」というオブジェクトを作成することで、従来の「ホストごとのマウント作業」をしなくても仮想マシンから共有ストレージを利用できる。
DSFのスナップショット機能は、仮想マシンのイメージバックアップとして利用できる。その他、Nutanixにはスナップショットをリモートサイトにレプリケーション(複製)できる「Async DR」機能もある。
「Async DRは仮想マシン単位で複製できるため、DR(災害復旧)に活用できます。シングルサイト(メインサイトとバックアップ用などのサブサイトという1対1の構成)であれば、追加費用のないStarterライセンスで利用できる点もメリットです」(長濱氏)
長濱氏はAHVのネットワークについて次のように説明する。
「AHVの物理ネットワークインタフェースは基本的に、10ギガビットイーサネット(GbE)を冗長化して、『VLANトランク』として利用します。管理ネットワーク用には1GbEのIPMIポートを利用します。仮想スイッチとしては『Open vSwitch』によるブリッジを構成し、仮想マシンやAHV、CVMなどの通信を束ねます(チーミング)。ブリッジを追加すれば、用途ごとに物理NICを使い分けられます」。
「Nutanix Files」はHCIに統合されたファイルサーバだ。共有ストレージの一部をファイルサーバとして利用できる。HCIの拡張性、可用性を生かしたファイルサービス構築が可能で、容量制限(クオータ)などの汎用(はんよう)的なファイルサーバに必要な機能も備える。
長濱氏はAHVにおけるSDN(ソフトウェア定義ネットワーク)について次のように語る。
「SDN機能を持つ『Nutanix Flow』によってマイクロセグメンテーション機能を利用できます。アプリケーション視点で仮想マシンごとにセキュリティポリシーを設定可能です。通信内容が分かりやすくなるように可視化されることもメリットです」。
同氏はデモンストレーションで、マウス操作だけでファイアウォールの設定を完了させる様子を披露した。
Nutanixには、ハードウェアへのAHVを含むNutanixソフトウェアのインストール、クラスタの作成などを一括して実施できる「Foundation」というツールがある。SB C&Sは、出荷前にこの作業を実施するサービスを提供しており、このサービスを使えば「電源を入れればすぐにクラスタを利用できる」状態でNutanixが届くという。
本セミナーのクライマックスは、AHVの使い勝手を試すハンズオンだ。受講者は、スクリーンショットを多用した分かりやすい手順書を読みながら、管理ツールである「Prism Element」で仮想マシンを構築し、ライブマイグレーションを実行するといった作業をした。
長濱氏によれば、AHVの仮想マシンの作成とゲストOSのインストールには少し注意点があるという。手順としてはまず、仮想ネットワークを作成する。次に「イメージサービス」を使ってOS(ISOのイメージ)を読み込み、仮想マシンを構築する。仮想マシンは「VirtIOデバイス」を利用するため、ゲストOSをインストールする際に「VirtIOデバイスドライバ」が必要になる点に注意が必要だ。
他のハイパーバイザーからAHVに移行したいというニーズもあるだろう。本セミナーではESXiからの移行を例として紹介した。ESXiからの移行パターンは大きく分けて2つ。
1つ目はエクスポートしたESXiの仮想ディスクファイル(VMDK)をインポートする手法。エクスポート時にサービスを止める必要があるため、長いダウンタイムが生じる。一方でこの方法であれば、移行元のESXi環境と移行先のAHV環境間のネットワーク接続性に依存しないというメリットがある。
2つ目は「Nutanix Move」を利用する方法だ。対象となる仮想マシンを稼働させたままデータ転送(シーディング)するツールで、ダウンタイムを最小限にできる。こちらは長濱氏のデモンストレーションによって、スムーズに移行される様子が紹介された。
Nutanixは、無償でありながらエンタープライズレベルで十分に活躍するAHVの存在によってますます注目を集めるだろう。SB C&Sは、今回紹介したハンズオンセミナーやNutanix初心者に向けた入門セミナーを定期的に開催している。また、AHVを活用したプライベートクラウドの構築や運用について解説した書籍『Nutanix Enterprise Cloud クラウド発想のITインフラ技術』をニュータニックス・ジャパンと共同執筆している。同社の技術ブログ「C&S ENGINEER VOICE」でもNutanixの技術情報を解説しているため、これらも参考にしてみてはいかがだろうか。
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