人工超知能(ASI)はAIと何が違う? AGIとの関係は人間への影響は

人工知能(AI)に加えて、ASIというキーワードが登場した。ASIは何か。AIやAGIとはどう違うのか。

2025年05月31日 06時00分 公開
[Alexander S. GillisTechTarget]

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人工知能


 社会のさまざまな場面で人工知能(AI)の活用が広がりつつある。AIに加えて、汎用(はんよう)人工知能(AGI)や人工超知能(ASI)いうキーワードを耳にするようになった。ASIとは何か。AIやAGIとは何が違うのか。

AI、AGI、ASIの違いは

AIの特徴

  • 「狭義のAI」や「弱いAI」と呼ばれ、特定の目的のために設計されている
  • 実用化され、日常生活に広く活用されている
  • 人間の知能が必要とされるタスクを遂行するためのシステムやアルゴリズムの総称である
  • 翻訳や問題解決といった特定の用途に特化しているが、人間が持つ汎用(はんよう)的な知能は持たない
  • 機械学習アルゴリズムを実装するために、専用のハードウェアやソフトウェアが必要な場合がある

 AIの関連技術には以下がある。

  • 人工ニューラルネットワーク(ANN)
    • 人の脳の神経回路を模倣した機械学習モデル
  • 自然言語処理(NLP)
    • 自然言語をコンピュータが理解、分析し、人間とコンピュータが対話できるようにするための技術の総称
  • 音声認識
    • 人間の音声をコンピュータが処理するためのテキストに変換する技術
  • 画像認識
    • 画像や動画に存在する「モノ」や「パターン」を、コンピュータが識別したり理解したりする技術
  • ロボティクス
    • ロボットにAIを組み合わせて、ロボットが自律的な動作を実現する技術
  • ナビゲーション
    • 現実世界、仮想空間における目的地や経路の探索、移動を支援する技術

 応用例としては、以下がある。

  • AIチャットbot
    • テキストや音声を通じて自然言語で人間と会話するためのシステム
  • 翻訳ツール
    • 機械学習や深層学習を使って翻訳を支援するツール
  • バーチャルアシスタント
    • AIを使って業務や日常の作業を支援するシステム
  • エキスパートシステム
    • 特定分野の専門家の推論や判断を模倣するシステム
  • 自動運転システム
    • 自動車の走行における運転や判断をAIが担うシステム

AGIの特徴

  • 「強いAI」と呼ばれる
  • 理論上の存在であり、実現されていない
  • 人間と同等の能力を持ち、幅広いタスクを遂行できると考えられている
  • 自己認識、意思決定、問題解決、意識、社会性、空間認識能力、運動能力、感覚、知覚、創造性、自然言語理解といった、人間の能力を備えると考えられる
  • ASIを実現するためには、AGIを構築している必要があると考えられる

ASIの特徴

  • AGIと同様「強いAI」に分類される
  • 理論上の存在であり、実現していない
  • 人間の脳を模倣するだけにとどまらず、あらゆる面において人間よりも優れた能力を持つとされている
  • 人類が解決できなかった技術的、科学的課題を克服し、新たな発明や発見をもたらすと考えられる
  • 人間のあらゆる能力に加えて、自らの知能を改良する自己改善能力を備えることが期待されている
  • ASIの実現には、コンピュータサイエンス、スーパーコンピューティング、次世代AIの分野における大幅な進化が必要不可欠である
  • 一部の専門家は、ASIを適切に規制しなければ人類の存続を脅かす可能性があると警鐘を鳴らしている

ASIを実現するには

 ASIの開発に当たっては、まず人間と同等の能力を持つAGIを実現することが前提となる。記事執筆時点(2025年1月)では、特定分野において人間と同様の能力を持つAIは存在する。チェス関連のビジネスを手掛けるドイツの企業ChessBaseが提供するプログラム「Fritz」もその一つだ。しかし、あらゆる分野で人間の能力を超えるAIはまだ出現していない。

 人間の脳にはさまざまな機能が備わっているが、生物的な限界はある。ASIの目的は、そのような限界を超えることを目指すものだ。AIシステムの能力が人間の知性を上回るタイミングを、一般的にシンギュラリティ(技術的特異点)と呼ぶ。

 ASIは、さまざまな分野で人間の能力や限界を超えると考えられる。一方専門家からは、ASIの実現そのものに懐疑的な見方を示す声や、ASIが人類にとって脅威となる可能性を指摘する声が挙がっている。

 ASIの実現には、以下に記載する技術の進化が不可欠だとされている。

大規模言語モデル(LLM)

 NLPを活用し、人間の言語を再現する。OpenAIの「ChatGPT」やGoogleの「Gemini」が代表例だ。ASIがテキストデータの要約、人間との会話、原稿の執筆といったタスクを処理するうえで、LLMを必要とする。

マルチモーダルAI

 ASIは、あらゆる形式の情報を組み合わせる能力が必要になる。従来のNLP、「コンピュータビジョン」(画像処理を通じて対象の内容を認識し、理解する技術)、「音響信号処理」(音や音の信号を認識、分析、加工する技術)といった技術は、特定の形式のデータしか処理できない。そのため、テキストだけでなく、音声や画像など複数のデータ形式を扱える「マルチモーダルAI」の技術が不可欠だ。

ANN

 ANNは、複数の機能を並列に、あるいは階層的に処理し、運用する。人間の認知能力を超えるためには、ANNのさらなる進化が不可欠だ。

ニューロモルフィックコンピューティング

 「ニューロモルフィックコンピューティング」は、人間の脳の構造を模した計算技術だ。コンピュータはデータの処理と保存を別々に実行する。一方、ニューロモルフィックコンピューティングを使えばデータの処理と保存を1つのニューロン(人間の脳の神経細胞を模倣した電子回路や計算ユニット)で実行することが可能だ。専門家の中には、ニューロモルフィックコンピューティングの計算能力、可塑性、耐障害性が、AI技術の発展に重要な役割を果たすと指摘する者も存在する。

進化的アルゴリズム

 「進化的アルゴリズム」(Evolutionary Algorithms)は、進化論や自然淘汰を再現するアルゴリズムだ。複数のAIモデルを生成し、優れたモデルを選別して次世代に引き継ぐことで、AIを競争と淘汰の過程で進化させる。各モデルは、各選択期間の間に能力と性能を向上させ、最終的に競争を通じてASIへと進化することが期待される。

AIシステムによるプログラミング

 AIが自律的にプログラミングすることで、将来的により高度で知的なコード生成の進化が発生し、AIが処理できる分野やAIの能力を底上げすると考えられている。

マインドアップローディング

 人間の脳全体の構造をスキャンし、その神経接続をデジタルで忠実に再現する技術だ。人間と同等の知能を持つ「デジタル脳」の構築を目指している。

脳インプラントとハイブマインド

 脳インプラントは、脳に直接チップを埋め込む技術だ。イーロン・マスク氏が設立した医療系ベンチャー企業Neuralink Corp社などが開発する。人間の脳に外科的に埋め込まれたチップは、脳の構造と統合することで、機能、認知、知能、創造性といった領域を強化する。複数の人間の脳がネットワークを通じてつながる「ハイブマインド」という概念もある。これは、複数の個人の知識や思考がリアルタイムで統合することで、一人の人間では実現できない高度な知性を実現することを目的とする。脳インプラントとハイブマインドによって、人間同士の融合、人間とAIの融合が加速し、ASIを構築できると考えられている。

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