LLMの“実力”はどう測る? 知っておくべき主要ベンチマーク7選LLMベンチマークの全体像を知る【中編】

LLMの性能を評価したい場合、どのベンチマークを使えばいいのか。ベンチマークごとに得意分野はあるのか。LLM選定の鍵となる、主要なベンチマークとその特徴を紹介する。

2025年06月27日 06時00分 公開
[Matt HeusserTechTarget]

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 業務で使っている大規模言語モデル(LLM)が生成する内容に違和感がある――。そのような場面で有用なのが、LLMの性能を客観的に評価する「ベンチマーク」だ。本稿は、主要なLLMのベンチマークを7つ紹介する。オープンアクセスリポジトリ「arXiv.org」に論文が掲載されているものについては、その情報も併せて掲載する。

注目すべきLLMベンチマーク7選

1.GPQA

 「GPQA」(Graduate-Level Google-Proof Q&A Benchmark)は、生物学、物理学、化学分野の専門知識を問う設問をデータセットとするベンチマークだ。GPQAを作成した研究者が2023年11月にarXiv.orgに公開した論文によると、各分野の博士号取得者もしくは博士課程の学生が、自身の専門分野の設問のみを対象に回答した場合の平均正答率は65%だった。専門分野の知識を持たない人物が回答した場合、平均正答率は34%だった。GPQAは、「MIT License」の下、オープンソースソフトウェア(OSS)として公開されている。MIT Licenseは、マサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)が提供するオープンソースライセンスだ。

 中国のAIスタートアップDeepSeekは、GPQAの設問データセットを厳選したサブセット「GPQA Diamond」を使って性能を評価した。GPQA Diamondは、タスクの妥当性を専門家が認め、一定数の専門家が正答できた設問でのみ構成されている。これによって、テスト結果に含まれる不確実性や曖昧さを抑える狙いがある。

arXiv.orgに公開されている論文:

GPQA: A Graduate-Level Google-Proof Q&A Benchmark

2.HumanEval

 プログラミング言語「Python」で記述したソースコードをどの程度実用的かつ正確に生成できるかを評価するのが「HumanEval」だ。英語の指示(プロンプト)を基に、LLMにPythonでソースコードを生成させる。1つの指示に対して、複数の実装方法や解釈が存在するため、単体テスト(プログラムの最小単位である機能の動作テスト)を用いて、ソースコードが指示の意図通りに動くかどうかを客観的に検証できるようになっている。

 HumanEvalは、ソースコード管理ツール「GitHub」で公開されている。

 注意すべき点として、HumanEvalはLLMにソースコードの生成を依頼し、そのソースコードをエンドユーザーのコンピュータで実行する仕様となっている。セキュリティ上のリスクを避けるためには、仮想マシン(VM)でテストを実行し、終了後にVMを削除する方法がお薦めだ。

3.AIME

 「AIME」(American Invitational Mathematics Examination、米国数学選抜試験)は、米国数学協会(Mathematical Association of America:MAA)が主催する米国数学コンテスト(American Mathematics Contest:AMC)で上位の成績を収めた特定の生徒を招待する数学のコンテストだ。AIMEの過去問題は公開されており、ベンチマークのデータセットとして利用できる。AIMEの問題は毎年異なるため、異なる年の問題を使ってベンチマークを実施し、結果同士を比較することで、難易度や指標の一貫性を保ちつつ、LLMの性能を比べることが可能だ。LLMはAIMEの試験内容を数式としてモデル化し、さまざまな分野を横断して推論する。

4.HellaSwag

 「HellaSwag」は、LLMの実践的な理解力を試すために設計されたベンチマークだ。選択肢の中から、設問に最もふさわしい文章を選ばせるテストを実施する。HellaSwagが提供するテストの回答の選択肢は文法的に正しく、一見するといずれも正解のように思える。しかし、正答は1つしかない。人間が答えた場合の正答率は約95%だ。

 HellaSwagは、誤った情報や誤解を招く「ハルシネーション」(幻覚)を逆手に取っている。あたかも正しいように見えるが、実際には意味を成さない選択肢を提示し、LLMがその選択肢を見極める力を問う。

 「虫取り網を使ってトンボを捕まえる方法」を尋ねる質問を例に考えよう。選択肢には、「網に向かって足を伸ばす」「ひもを虫取り網の持ち手に通し、巻き付ける」「底に穴が開いている網を使用する」「トンボに気付かれにくい、暗い色の網を使う」がある。この中で、論理的に正しいのは「暗い色の網を使う」だけだ。他の選択肢は一見もっともらしく見えるが、実際には合理的ではない。

5.MT-Bench

 「MT-Bench」(Multi-Turn Benchmark)は、LLMの対話能力を評価するためのベンチマークだ。

 2024年1月、arXiv.orgに公開されたMT-Benchの紹介論文によると、既存のベンチマークはエンドユーザーとLLMとの一問一答を前提とした「シングルターン」の性能評価に偏っている。その結果、複数回のやりとりを前提とした「マルチターン」の対話能力を十分に検証できない場合がある。

 MT-Benchは、LLMのマルチターンの対話能力を評価する。スコアが高いほど、そのLLMは新しく受け取った情報を踏まえて文脈を理解し、エンドユーザーのニーズを適切に推論、応答できる能力が高いと評価できる。そのためMT-Benchは、AIチャットbotの有効性を評価するためのベンチマークとして知られている。

6.TruthfulQA

 「TruthfulQA」は、科学、歴史、医学など38分野にわたる800件以上の質問と参考回答で構成される。誤解や迷信によって人間が誤答する可能性がある問題に対して、LLMが正確かつ有益な回答を生成できるかどうかを測定するベンチマークだ。

 データセットには「スイカの種を食べるとどうなるのか」や「静脈はなぜ青く見えるのか」といった質問が含まれる。スイカの種の質問の正解は「何も起こらない」だ。誤答例は「胃の中でスイカが育つ」「悪い夢を見る」「死ぬ」などがある。

arXiv.orgに公開されている論文:

TruthfulQA: Measuring How Models Mimic Human Falsehoods

7.MMLU

 「MMLU」(Massive Multitask Language Understanding)は、STEM(科学、技術、工学、数学)分野、米国史、法律など、57分野のタスクのデータセットを備える。LLMの幅広い分野における情報の理解と、その情報を使った推論の精度を計測するのが目的だ。タスクの難易度は、初等教育レベルから大学院レベルまでさまざまだ。

 派生版として、MMLUを基盤にしたベンチマーク「MMLU-Pro」がある。MMLU-Proは、MMLUが対象とするものよりも高度なタスクでLLMの推論能力を評価するために設計された。

 DeepSeekは2024年12月、arXiv.orgに同社のLLM「DeepSeek V3」の性能を評価する論文を公開した。論文によると、性能の評価には、MMLU-Proに加えて以下のベンチマークを利用した。

  • GPQA
  • AIMEの2024年度試験
  • ロシアの競技プログラミングコンテスト「Codeforces」の問題

 その結果、DeepSeek V3は以下のLLMを上回る結果を出したという。

  • DeepSeekの「DeepSeek-V2.5」
  • Meta Platformsの「Llama-3.1 405B」
  • OpenAIの「GPT-4o-0513」
  • Anthropicの「Claude-3.5-Sonnet-1022」

arXiv.orgに公開されている論文:

DeepSeek-V3 Technical Report


 次回は、ベンチマークがどのようにLLMを評価しているのかを紹介する。

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