NVIDIAの“GPU標準”に待った――CNCF「Kubernetesの再現を目指す」の真意CUDAに代わる“標準”を構想

オープンソースのリーダーたちは、標準化の歴史におけるコミュニティーの勝利を強調し、AI向けGPUのソフトウェアでNVIDIAに戦いを挑む。その勝算について、業界団体のCTOの発言をまとめた。

2025年09月01日 07時00分 公開
[Aaron TanTechTarget]

関連キーワード

人工知能 | GPU | OSS


 人工知能(AI)技術が普及する中、AIワークロード(処理やタスク)向けに、NVIDIAのGPU(グラフィックス処理装置)と、そのプログラミングに用いられる開発ツール群「CUDA」(Compute Unified Device Architecture)が事実上の業界標準となりつつある。オープンソースソフトウェアの管理団体Cloud Native Computing Foundation(CNCF)は、NVIDIAによるベンダーロックインを警戒し、CUDAに代わるオープンソースソフトウェア(OSS)が出現するとの見方を示した。

CUDA代替を生み出す――その自信の理由

 2025年6月10〜11日に香港で開催されたイベント「KubeCon + CloudNativeCon China 2025」での質疑応答において、CNCFのCTO(最高技術責任者)を務めるクリス・アニシュチク氏は、断固とした決意を次のように表明した。「単一のベンダーに縛られることをベンダー以外の誰も望んでいない。さまざまな組織の力を結集し、物事の進め方を標準化するのが“オープンソースの意義”だ。何者もこれを止めることはできない」

 アニシュチク氏は、CUDAに代わるオープンソースの有力な代替手段が現時点では存在しないことを認めつつも、コミュニティーの努力がいずれ結実するとの確信を示す。背景にあるのは、オープンソースのコミュニティーが、標準化された代替手段を生み出してきた歴史だ。

 「『Docker』が支配的だった時代、オープンソースコミュニティーは『Kubernetes』プロジェクトを通じてコンテナ技術の標準化を実現した。現在、AIワークロード向けのGPU最適化技術の標準化に取り組んでいる。一夜にして実現するものではないが、CNCFのプロジェクトが実現に向けて貢献できると信じている」と語る。

 アニシュチク氏によると、2015年の設立以来、CNCFは主にコンテナ仮想化技術の標準化に注力してきたが、今後10年間は特にAIに重点を置いた取り組みを強化していくという。

 AIワークロードは主にGPUで処理されるが、同氏はこれにも、堅牢(けんろう)なインフラが必要であることを強調し、この実現のために、CNCFの過去の取り組みが役立つと語る。「CNCFは、コンテナのセキュリティ、監視、スケールアウトに取り組んできた。これらの技術は全て、AIワークロードでも応用できる」

 質疑応答で、アニシュチク氏はCNCFが成し遂げてきた別の成功例を挙げた。オープンソースのアプリケーション観測ツール「OpenTelemetry」における、メトリクス(指標)、ロギング、トレース、分析といった、オブザーバビリティ(可観測性)の標準化だ。OpenTelemetryプロジェクトは、Kubernetesプロジェクトに次ぐ、CNCFで2番目に大きな取り組みだった。

 現在50社を超える主要ベンダーがOpenTelemetry標準に準拠していることを指摘し、同氏は「この取り組みは革命的だった。世界中の企業が標準化された方法で特定の技術を導入できるという素晴らしい成果を生み出した」と語る。

 アニシュチク氏はさらに、Kubernetesのコア技術である、「etcd」におけるCNCFの取り組みを引き合いに出す。etcdはキーと値(バリュー)をペアにした「キーバリューストア」形式の両方でデータを保存できるNoSQL(リレーショナルデータ以外のデータモデル)データベースだ。etcdプロジェクトでは、Google、Alibaba Cloud、Huawei Technologiesといった企業の“献身的な”技術協力を受け、スケーラビリティの大幅な向上を実現し、Kubernetesは以前よりもはるかに大規模なクラスタを管理できるようになった。

AIモデルのライセンス整理も

 質疑応答では他にも、インフラ用OSSの開発と普及を推進する団体Open Infrastructure Foundation(OpenInfra Foundation)がCNCFの親組織である業界団体Linux Foundationに加盟したことにも触れられた。OpenInfra Foundationのエグゼクティブディレクターであるジョナサン・ブライス氏は、「OpenInfra FoundationとLinux Foundationは、プライベートクラウド構築ツール群『OpenStack』プロジェクトやKubernetesプロジェクトを通してすでに長年に渡って協力してきた。今回の正式加盟により、中国、南米、アフリカといった市場でグローバルなコミュニティー構築が進むと考えている」と語る。

 米国と中国の政治的緊張の高まりについては、Linux Foundationのエグゼクティブディレクターであるジム・ゼムリン氏が、オープンソースプロジェクトへの影響はないとし次のように語った。「OSSは自由に利用できる公共財なので、輸出規制の対象外だ。CNCFのオープンソースプロジェクトでは、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Googleといったライバル同士が協力してきた。このグローバルな協力関係は今後も存続する」

 CNCFはAIモデルのライセンスの複雑さの解消にも取り組んでいる。アニシュチク氏とゼムリン氏は、Linux Foundationが策定中のライセンス「Open Model Definition and Weights」(OpenMDW)について次のように説明した。「OpenMDWの目的は、オープンソースAIのコンポーネントに明確さと予測可能性をもたらすことだ。OpenMDWによって、従来のようなソースコードベースではなく、データや重みなど、AIモデル内のさまざまなコンポーネントのライセンスをレベル分けして定義できる」

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

なぜクラウド全盛の今「メインフレーム」が再び脚光を浴びるのか

なぜクラウド全盛の今「メインフレーム」が再び脚光を浴びるのか
メインフレームを支える人材の高齢化が進み、企業の基幹IT運用に大きなリスクが迫っている。一方で、メインフレームは再評価の時を迎えている。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...