「GDPR」をただの規則と思っていないか? 企業が問うべき“施行7年目”の意義データ保護法の真の活用法

「GDPR」(一般データ保護規則)が施行してから7年がたった。AIが普及する今、この7年を振り返り、ますます重要度を増すその価値と可能性について掘り下げる。

2025年09月24日 05時00分 公開
[TechTarget]

 欧州連合(EU)のGDPR(一般データ保護規則)が2018年5月25日(現地時間)に施行したことは、あらゆる規模の組織にとって、データ保護に取り組む姿勢を根本から見直すきっかけとなった。企業はGDPRを意識し、収集した個人データをより慎重に扱うようになり、扱い方について定期的に監査を実施するようになった。

 それ以来、7年が経過した2025年現在、企業は再びデータガバナンスの見直しを迫られている。企業が扱うデータ量が増大し、人工知能(AI)技術の普及により、AI特有のリスクに直面しているからだ。本稿ではGDPRが組織のデータ保護に対する姿勢をどのように変革してきたのかを振り返り、GDPRの意義と今後の活用法について考察する。

GDPRを単なる規則と錯覚していないか? 本当の意義とは

 GDPR施行後、企業のデータガバナンスへの取り組みは、それまでの事後対応型から、予防的かつ能動的なやり方へと明らかに変化した。データ保護は、法務部門の仕事から、役員会で議論される戦略的課題となった。大手IT企業がGDPR違反で高額な制裁金を課され、データプライバシーやコンプライアンス(法令順守)に対する甘い見方を誰もが改めた。

 GDPRが成し遂げたことは称賛に値する。しかし課題もまだある。GDPRを単に1回クリアすればよいハードルとして見なす企業があまりにも多い。このような近視眼的な見方は、企業をコンプライアンス上のリスクにさらすだけでなく、GDPRを十分に活用できていないことになる。ビジネスプロセスに組み込み、継続的に適用して初めて、企業はGDPRから真のメリットを引き出すことができる。

 GDPRは、正しく理解、適用すれば、単なる法的枠組みにとどまらない。責任あるデータ管理と運用、サイバーハイジーン(衛生管理の考え方を適用した基本的、日常的なセキュリティ習慣)の改善、消費者と企業からの信頼獲得に寄与する、明確かつ構造化された方法だ。言い換えれば、GDPRはイノベーションを妨げるものではなく、イノベーションを持続可能にするための基盤なのだ。

AIがもたらした新たなリスク

 現在、AIが大きな利益をもたらす可能性を秘めていることをほとんどの企業が認識している。Cisco Systemsが従業員500人以上を擁する組織のビジネスリーダーを対象に、2024年に実施した調査のレポート「Cisco AI Readiness Index」を見ると、95%が具体的なAI戦略を策定中、もしくは策定済みであると回答し、50%がAIに振り向ける予算について、IT投資全体の1〜3割を占めると答えている。

 一方で、同レポートでは67%がAI特有のリスクに関する理解が不足していると認めている。2000人を超えるセキュリティ専門家を対象としたSplunkの調査レポート「State of Security 2025」では、SOC(Security Operation Center)のミッションクリティカルな業務において、AIは十分に信頼できると回答したのはわずか11%だった。AIに関するガバナンスがまだ十分に行き届いていないことがうかがえる。

 AIには特有のリスクがある。例えば透明性の問題だ。AIには「ブラックボックス問題」と言われる、ある出力に至った過程や根拠が人間には理解が困難という課題が存在する。当然ながら監査も難しい。不正検知や信用スコアリングなどで問題が発生した際に、規制当局や消費者に詳細な理由を説明することは不可能に近い。

AIガバナンスにGDPRを活用する

 こうしたリスクを踏まえ、企業がAIを導入するに当たり、以下のような点を確認することが不可欠だ。

  • AIにどのようなデータを供給するのか
  • AIの出力結果にだれがアクセスできるのか
  • データの漏えいが発生した場合、GDPRの規定時間内に報告するためのプロセスを確立しているか

 このようなAIポリシーをまだ策定していない企業が少なくない。これはデータプライバシーとコンプライアンスのリスクに自社をさらし、深刻な結果を招く可能性がある。データ損失防止(DLP:Data Loss Prevention)は企業にとって喫緊の課題だ。

 ここで活躍するのがまたしてもGDPRだ。GDPRには、AIの評価に活用できる以下のような原則が含まれている。

  • データ最小化
    • 目的に照らして必要最小限の個人データのみを収集する
  • 目的制限
    • 個人データの収集は、特定の明示的また正当な目的のためにのみ行われる
  • プライバシーバイデザイン(Privacy by Design)
    • 設計段階よりプライバシー保護のための仕組みを組み込む

 以上の原則をAIの導入時より適用すれば、コンプライアンスに役立つ。GDPRをAI技術の利用に関する倫理規範として活用できるということだ。

GDPRをデータガバナンスの基礎とせよ

 GDPRの7年間を振り返って明らかなのは、その重要性は薄れていないどころか、AIの普及によって増しているという事実だ。GDPRを柔軟なアイデアで活用すれば、今も十分にメリットを引き出すことができる。

 今後企業に求められる姿勢は、規制当局の定めた規則に単に従うのではなく、データガバナンスの指針として率先して活用することだ。そうすれば企業としての信頼を築きつつ、イノベーションを継続し、市場競争において優位に立つことができる。

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)

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