SSD価格が上昇し、更新計画の見直しを迫られる企業やユーザーが増えている。HDDを再び選択肢に含める動きも出てきた。価格と性能の両面から、SSDとHDDの使い分け基準を整理する。
SSDの価格が上昇している。これまでの市場では、SSDは毎年のように値下がりが進み、大容量モデルや高速モデルでも手に届きやすい価格帯になっていた。だが最近の市場データが示すのは、こうした流れが転換点を迎えているという事実である。この変化は単なる一時的な調整ではない可能性がある。本稿では、SSD価格の現状と今後の予想、そしてHDD再評価についての考え方を示す。
SSDの1GB当たりの平均単価は2023年秋から2024年4月にかけて約26.7%上昇したとする分析がある。主にコンシューマ/SMB向け価格を集計したデータだが、短期間での大幅な上昇傾向を示している(出典:Flash drive prices grow quickly while SAS and SATA diverge )。
企業の調達価格にも変化が及んでいる。市場調査会社TrendForceは、2025年第3四半期(7〜9月)において、クライアント向けSSDの契約価格が前期比で3〜8%上昇、エンタープライズ向けSSDは5〜10%上昇になると予測した(出典:3Q25 NAND Flash Contract Prices Projected to Rise 5-10%;Weak Smartphone Demand Limits eMMC and UFS Growth, Says TrendForce)。小売価格と異なり、契約価格は製品選定や更新計画にも直結する。企業のサーバ刷新計画が影響を受けるのは当然だ。
価格変動の背景には、複数の要因が絡んでいる。負荷の高いワークロードに対応するために高速ストレージを求める動きが広がり、SSDの需要は急速に増えた。特にAI用途やデータ分析用途では、高速I/O性能を持つNVMe SSDの採用が広がり、これが供給を圧迫している。
一方で、HDDの価格はその動きが異なる。SSDが急騰する中で、HDDの価格は2025年、横ばいにとどまっているとする報告がある(出典:Why SSD prices have surged while HDDs stay put)。SSDとHDDの価格差が広がれば、用途に応じてHDDを選ぶ動きが改めて現れても不思議ではない。
特に、大量のデータを長期保存する用途では、SSDの価格上昇によってHDDが再び選ばれやすい環境が整いつつある。従来からHDDはアーカイブ用途で多く利用されてきたが、この領域はSSDの高騰によってさらに重要度が増した。企業は階層ストレージの設計を見直し、SSDの配置範囲を明確にする必要がある。
ここで整理しておきたいのは、SSDとHDDのどちらが優れているかという単純な話ではない点だ。SSDは圧倒的なI/O性能と低遅延を持つが、容量単価の面ではHDDに及ばない。HDDはシーケンシャル性能で十分な領域では依然として有効だが、ランダム性能ではSSDに大きく差をつけられる。用途ごとに必要な性能要件を定義し、その要件を満たす範囲でストレージを割り当てる考え方が重要になる。
企業にとって重要なのは、ワークロードごとに導入シナリオを検討することだろう。まずアーカイブ用途ではHDDを選ぶシナリオが再び存在感を増した。HDDは大量データを長期保存する用途に適し、SSDよりも低コストで容量を確保できる。コールドデータ領域をHDDに移すことで、SSDの利用量を最小化しコストを抑えることができる。この分離は階層ストレージの基本方針とも合致する。
企業サーバの更新に関しても、SSDの代替としてHDDを用いるのではなく、用途を分けて使う方法が現実的だ。OSやアプリケーション領域はSSDで維持し、データ領域をHDDに逃がすアーキテクチャが考えられる。I/O負荷の高い領域をSSDに集中させることで、性能を確保しつつストレージコストを抑える構成だ。
一般のPCユーザーにとっても、この状況は無関係ではない。SSDの値上がりが続けば、OS用の小容量SSDとデータ保存用の大容量HDDという構成が再び現実的な選択肢になるだろう。例えば、ゲーム用途ではロード時間に影響が出る場合があるが、すべてのゲームがSSDを必須とするわけでもない。NAS用途ではHDDの方が適している場面が多いだろう。
AIやデータ分析用途のワークロードでは、SSDが高速データアクセスに必要不可欠だ。しかし学習済みモデルやログ、アーカイブデータなどはHDDで扱うことができる。SSDを高速層として割り当て、その他をHDDに振り分ける階層化がコスト最適化につながる。
クラウド利用企業も例外ではない。SSDの高騰によってオンプレミスの導入コストが上がれば、クラウドとの比較が変わる。クラウドはIOPS課金があるため、単純な価格比較は難しい。両者の価格体系を比較し、ワークロードに応じてどちらが経済的か判断する必要がある。
SSDとHDDのどちらを選ぶかを考える際に重要なのは、性能要求とコストの両方を踏まえた判断軸を持つことである。SSDは依然として高速ストレージとしての価値が高く、特にI/O負荷の高い業務には欠かせない。一方で、容量単価の面ではHDDが有利である。ワークロードの特性を詳細に把握し、適材適所で割り当てる考え方が求められるだろう。
ストレージ市場は今後も変動を続ける可能性がある。特にAI関連の需要は一過性のものでなく、今後も高止まりする可能性がある。SSDの価格も短期間で大きく変動し得るため、継続的な市場動向の把握が必要になる。ストレージ調達は価格だけでなく性能や信頼性、供給の安定性も含めて総合的に判断するべき段階に入っている。
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