売り上げ分析にAIエージェントを活用するコクヨ BIコスト“7割減”の衝撃AIエージェント開発に「Snowflake Intelligence」を採用

従業員のデータ活用を推進するときに課題となるのが、データ分析スキルの不足とBIツールのコスト増加だ。コクヨはこれらの課題を解消するために、AIエージェントを構築した。同社のAIエージェントの活用方法とは。

2025年12月15日 11時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 文房具やオフィス家具の製造販売を手掛けるコクヨのビジネスサプライ事業本部は、オフィス用品通販サービス「カウネット」の運営を運営するほか、コクヨグループ内でデジタル活用を主導するITビジネスを担う。同社はAI(人工知能)エージェントの開発と利用を通して、データ活用の拡大とBI(ビジネスインテリジェンス)ツールのコスト削減に取り組んでいる。

従業員のデータ活用では「スキル」と「コスト」が課題に

 コクヨのビジネスサプライ事業本部は以前から、データ分析のためにカウネットの基幹システムや業務システム、Web行動データ、各種スプレッドシートなどのデータを一元管理するために、Snowflakeの同名DWHサービスに集約している。こうしたデータはAmazon Web ServicesのBIツール「Amazon QuickSight」といったデータ分析ツールに送り、売り上げ分析や在庫、受注の確認に利用する。

 データの利活用を推進する中で課題となっていたのが、データ分析の専門知識を持たない従業員のデータ活用だ。コクヨは“全員参加型のデータ活用”を目指しているが、一般のデータユーザーにとってBIツールやSQL、Pythonといった専門スキルの習得はハードルが高く、トレーニングを実施してもなかなか定着しないという課題があった。

 もう一つの課題がデータ分析ツールの利用コストだ。BIツールのライセンスを従業員全員に配布したとしても、中には閲覧のみであったり、数カ月に一度しか使わなかったりするエンドユーザーもいる。費用対効果の観点から、全従業員分のライセンス料金を支払うことは非現実的だった。

自然言語で利用可能なデータ分析エージェントを開発

 そこでコクヨが進めたのは、Snowflake Intelligenceを用いてカウネットの売り上げ分析エージェントを開発するプロジェクトだ。Snowflake IntelligenceはSnowflakeの機能として提供されるAIエージェント開発サービスで、自然言語によるユーザーの問いかけに対し、Snowflakeで管理する構造化データと非構造化データに基づいた分析結果や抽出結果を回答する機能を備える。コクヨのビジネスサプライ事業本部でAIエージェントの開発やデータ分析体制の整備を担当する夛名賀 寛(たなか ひろし)氏は、「自然言語で利用できるチャット形式のインタフェースであれば、従業員のデータ分析スキルの習得がほぼ不要で、データ活用に消極的な従業員でも利用しやすいのではないかと考えた」と話す。またBIツールの利用頻度が低いユーザーをSnowflake Intelligenceへ移行させることで、BIツールのライセンス数を7割削減することが見込めたという。

 コクヨがSnowflake Intelligenceを用いてはじめに着手したのは、カウネットの売上情報を、商品軸や顧客軸で分析できる売り上げ分析エージェントの開発だ。「直近の売り上げを分析して」「この商品の売り上げの低迷要因を教えて」といった自然言語での問いかけに回答する機能や、エンドユーザーが持っている担当商品リストをCSV形式でインポートして、特定の商品群の販売状況や販売実績の分析を実行する機能を備える(図)。

図 図 売り上げ分析エージェントの利用イメージ(出典:コクヨ資料)

 夛名賀氏は売り上げ分析エージェント導入後の成果として、「データの民主化」を挙げる。「中には『そもそも何を分析していいか』が分からないエンドユーザーもいる。売り上げ分析エージェントは『こういう分析ができる』と提案する機能を備えているため、データ活用の“最初のステップ”の役目を果たしている」と同氏は言う。

 AIエージェントの内製化が可能になった点が、Snowflake Intelligenceの利点だという。売り上げ分析エージェントはソフトウェアエンジニアではない担当者が、約2カ月間で開発した。「データの整備さえできていれば、ビジネスの課題を感じている当事者自身が、プログラミングの知識がなくてもAIエージェントを開発できるようになった」(夛名賀氏)

 今後の課題は回答精度の向上だ。Snowflake Intelligenceのモニタリング機能を通して、回答結果に対する利用者のフィードバックを収集してエージェントの改善につなげている

夛名賀氏はAIエージェントの精度について、「数字の処理といった定量的な判断や自然言語の解釈といった定性的な判断の精度や、体感では8〜9割」と話す。同氏は「前年度比の売り上げの算出方法」といった業務知識や、企業名を入力した際に「サプライヤーと顧客のどちらか」を確認させる仕組みを、AIエージェントに組み込む作業を進めている。コクヨは今後、受注分析エージェントや在庫分析エージェントなど、新たなサプライチェーン関連のエージェントを開発する計画だ。

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