コスト統制と創造性を両立
AIの”課金地獄”を回避したアゴダの最適解 「エンジニアを遊ばせない」とは?
トークンの上限を決めれば費用の目途が立つ。だが、上限に達しない範囲でしかエンジニアが働かなくなる――。この課題に取り組み、コスト最適化とエンジニアの創造性を両立させたAgodaの取り組みを紹介する。
Agoda International(以下、Agoda)CTOのアイダン・ザルツベルグ氏は、「もはや社内の誰もコードを書いていない」と述べる。さらに同社は、AI基盤を運用する上でのコスト最適化とエンジニアの創造性発揮を両立できているという。何をどうやっているのか。同社の取り組みを紹介する。
どうやってコストと創造性を両立させたのか
「PythonやJavaを人が書く時代は終わった」。ザルツベルグ氏はこう話す。さらに、従来の手作業によるプログラミングは事実上終わりつつあると指摘した。急増するコード生成に対応するため、同社はAIによるコードレビューも導入し、現在はコード変更の50%以上を自動処理、開発者満足度は92%に達しているという。
さらに、AIエージェントに社内データや運用ルールを組み込む独自基盤を構築し、人間のエンジニアのように動作させている。一方で、ガバナンスやセキュリティの観点から、OpenClawのようなオープンソースのAIエージェントの利用は禁止している。
特に注目すべきは、トークンコスト管理の革新性だ。同社はトークンコストを管理するために、開発者へ一律の月間上限を設定する方法は採用していない。この方式では、予算を使い切った開発者が作業を停止する恐れがあるためだ。そこで、用途別、モデル別の動的配分で制御している。高性能モデルは重要プロジェクトに限定し、実験や個人プロジェクトでは低コストモデルを無制限に利用できるようにする。
オープンソースの大規模言語モデル(LLM)の人気が高まる中でも、Agodaは用途に応じて小規模な独自モデルを選択できるようにしている。これにより、オープンソースと同等のコスト効率を実現できる場合もある。ただし同社は特定の方針に固執しない。適切な場合にはオープンソースモデルも活用する。「自社GPUで動作させることで、コストを90%削減できた事例もある」とザルツベルグ氏は述べる。
この設計により、コストの抑制と開発者の創造性発揮を両立させることができている。ザルツベルグ氏は「上限を固定すれば、上限に達した際にエンジニアは遊びに行ってしまう」と指摘する。これにより、創造性を発揮せず、小さな挑戦を繰り返すだけになる。通常の予算管理で生じる「予算意識による挑戦の萎縮」を排除し、開発者が「何を創れるか」に集中できる環境を構築した。
開発環境もポイントだ。ローカルPCから同社のプライベートクラウドへ移行する計画だ。これにより、AIエージェントが安全に動作できる「ソフトプレイグラウンド」を構築する。高性能ノートPCの購入が不要になるため、インフラコストの増加は相殺される見込みだ。
Agodaはシステムのほぼ全てを自社インフラで運用している。膨大なCPUコアを稼働させ、日々14ペタバイトのデータを処理する。これは最大で毎秒5000万件、総計4兆件のメッセージ処理に相当する。
AI活用は社内にも広がり、従業員の85%以上が週次でAIツールを利用している。マーケティングではAIにより大量の多言語コンテンツを生成するなど、従来不可能だった規模の施策を実現した。
今後、エンジニアはコードの記述から、AIへの指示設計や検証環境の構築、アーキテクチャ設計へと役割を移す。Agodaは「コストを足かせにしないAI活用文化」を確立し、AIと人間の協働によって、旅行体験と開発の両面で革新を進める方針だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 取引先のセキュリティをどう管理する? 「SCS評価制度」対応の勘所を解説 -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] SCS評価制度「★4」取得のカギ 最大の壁を突破する方法とは? -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 2026年度末から運用開始 「SCS評価制度」に備えて製造業がやるべきことは? -
事例
[ネットワンパートナーズ株式会社, アイビーシー株式会社] ハイブリッド環境の一元管理と快適な無線LAN環境、三井ホームはどう実現した? -
市場調査・トレンド
[TD SYNNEX株式会社] 調査で学ぶセキュリティ運用の実態 人を増やさず品質を維持する方法とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
3
「ノートPC派」は損をしている? Dellと考える“自作PC”のメリット
-
4
「業務改善とツール活用」に関するアンケート
-
5
「GitHub Copilot」3000人に配布も基本機能しか使われない 保険大手が得た教訓
-
6
年収700万超エンジニアに共通するスキルと「もっと勉強すべきだった分野」
-
7
業務用プリンターの老舗が挑むAI活用に向けた開発基盤変革を伴走支援
-
8
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
9
“Intel CPU”搭載PCを危険にさらす「UEFIファームウェア」の脆弱性とは
-
10
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
2
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
5分で分かる Microsoft 365のデータ損失に備えるためのバックアップの仕組み
-
9
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
10
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー