組織の壁を壊せるかが課題に
AIエージェントの暴走を本気で防ぐ――Ciscoが買収で監視基盤強化
Cisco Systemsは、AI監視スタートアップGalileo Technologiesの買収計画を発表した。AIエージェントの判断根拠やリスクを可視化する狙いだ。一方で、導入は技術面だけでなく、責任分担など組織面の課題も浮き彫りにしている。
Cisco Systemsは2026年4月8日(米国時間)、人工知能(AI)監視スタートアップGalileo Technologiesを買収する計画であると公式ブログで発表した。Galileo Technologiesの技術を取り込むことで、AIエージェントが「何を根拠に」「どう判断し」「どんなリスクを出したか」を開発・テスト・本番の各段階で追跡できるようにする。
しかし、AIエージェントの挙動監視は従来のIT運用の枠を超え、企業内での「責任の所在」を巡る新たな火種を生んでいる。技術の統合以上に難しい「組織の壁」をどう乗り越えるべきか、現場の視点から考察する。
「責任の所在」「組織の壁」とは
2021年に設立されたGalileo Technologiesは、AIモデルと出力の評価、本番環境でのガードレール設置、そしてモニタリングやオブザーバビリティなど、AI管理の広範なカテゴリーにわたる製品を展開している。Cisco Systemsとの取引条件は公開されていない。買収はCisco Systemsの会計年度第4四半期(2026年4月25日から7月25日まで)に完了する予定だ。それまで両社は独立して運営を継続するが、買収完了後はSplunk Observabilityに統合される。
AIエージェントの暴走が招く「醜い結末」
AIエージェントの挙動を可視化できていないと何が起こるのか。
「財務レポートの空白を埋めるために、自社のAIモデルが捏造した数値を使用していたことが発覚したという話を聞いた。経営陣はその数値を信じて投資判断を下していた」。Informa TechTargetの調査部門であるOmdiaでアナリストを務めるトルステン・フォルク氏はこう語る。さらに、顧客への推奨リストに競合他社の製品を表示し続けた大規模言語モデル(LLM)の例や、成果をほとんど出さないまま、ひたすら無駄な通信を繰り返して膨大なコストを浪費するエージェント型ワークフローも存在するという。
現場の懸念は「ツールの乱立」
Galileo Technologiesの買収に対しては、期待だけでなく疑問の声も集まっている。
「現場の担当者にとっての懸念は、Cisco Systemsの実行力だ。Splunkのダッシュボード上でGalileo Technologiesのシステムをシームレスに使えるようになるのか。ダッシュボードがまた1つ増えるだけなのか」。フォーチュン50企業でプリンシパルAIオブザーバビリティエンジニアを務めるスティーブ・ケルピン氏はこう問いかける。「成功する買収とは、プラットフォームの中に消えていくものだ。後付けのツールとして残るものではない。どの企業も、既にダッシュボードが多過ぎて困っている」
組織の境界を壊せるか
AIエージェントの挙動に起因する不具合は、ITアプリケーションやインフラの信頼性とレジリエンス(回復力)だけでなく、ITセキュリティ、コーポレートガバナンス、そしてビジネス管理にも及ぶ問題を引き起こす。実際、Cisco Systemsのインキュベーション部門Outshift by Ciscoは、AIエージェント間の通信を管理するために、OSI参照モデルに「第8層」と「第9層」という全く新しい階層を設けることまで提案している。
「従来のIT運用担当者は、こうした問題の監視をどこから手を付ければよいのかさえ分かっていない。しかし、その責任を最も負わされているのは彼らだ」とフォルク氏は指摘する。
ケルピン氏の勤務先では、IT運用部門がAIオブザーバビリティを担当している。一方、「世に現れたばかりの新しいツールや機能を統制するのは難しい。特に、まだ新しく、十分に確立されていないプロセスが絡んでいる場合はなおさらだ」と指摘する。例えばServiceNowによるイスラエルのAIオブザーバビリティツールスタートアップTraceloopの買収(2026年3月)や、SnowflakeによるObserve買収(2026年1月)など、AIオブザーバビリティ買収のラッシュが企業内に混乱を招いていると指摘する専門家もいる。
「オブザーバビリティは、既存のモニタリングやテレメトリーの基盤の上にあるため、プラットフォームチームやDevOpsチームが担当することが多い」。グローバルコンサルティング企業でプライベートクラウドおよびAIプラットフォーム部門の責任者を務めるバルン・ラジ氏は述べる。「明確なリスクがある場合はセキュリティ部門が関与し、ガバナンス部門はポリシーレベルで関わってくる。しかし、単一の部署がエンドツーエンドで完全に所有しているケースはない」
企業のAI活用を成功させるためには、部門ごとに分断していた状態を、新しい方法で連携させる必要があるとラジ氏は強調する。
「システムがより相互に連結され、AIによる意思決定に依存するようになるにつれ、オブザーバビリティはプラットフォーム運用、セキュリティ、そしてガバナンスの架け橋にならなければならない。プラットフォームチームが計測手法を提供し、セキュリティ部門がリスク信号を定義し、ガバナンス部門がシステムの許容される挙動の境界線を設定する、という形だ」(ラジ氏)
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