デンソーは、Oracle Fusion Cloud Applicationsの適用範囲をサプライチェーン管理(SCM)領域へ拡大する。SCM基盤を自前で構築してきた同社がクラウド移行を決断した決め手は。
自動車部品メーカーのデンソーが、グローバルなサプライチェーンの高度化に向けて一歩を進めた。同社の財務および人事部門が運用してきた「Oracle Fusion Cloud Applications」の適用範囲を、サプライチェーン領域にも広げる。2026年4月15日、日本オラクルが発表した。
各種自動車部品をグローバル規模で製造し提供するデンソーは、世界各地に187の拠点を持ち、約16万人の従業員を抱える。同社にとって、サプライチェーン管理(SCM)の仕組みはビジネスの根幹であり、自社の競争優位性に直結する極めて重要な領域だ。そのため同社は、自社の要件に合わせた独自のSCM基盤をスクラッチで開発・運用してきた。
Oracle Fusion Cloud ApplicationsでSCM基盤を刷新した背景は何か。2026年4月16日に開催された「Oracle AI World Tour Tokyo」に登壇したデンソーの城所幹人氏(執行幹部兼ITデジタル本部統括部長兼経営基盤プロセス改革部長兼ITデジタル統括部長)は、SCM基盤の「自前主義」が直面している限界を率直に明かした。
城所氏によると、変化のスピードはかつてないほど加速しており、生成AIなどの先端技術が次々と登場する中、自社開発のシステムに最新機能を取り込み、変化に対応し続けることは困難になっているという。「変化の激しい中でAIなどを最大限に活用するには、従来のスクラッチ開発ではスピードについていけない」と同氏は指摘する。
そこでデンソーは、Oracle Fusion Cloud ApplicationsをSCMにも採用するため、「Oracle Fusion Cloud SCM」を新たに選択。AIを含む新機能をタイムリーに取り込める体制へと切り替えた。調達、製造、納入といったサプライチェーン業務を、既存の財務・人事データと統合し、全社横断で可視化することで、迅速な意思決定やリスク低減、脱炭素への対応力強化を図る。
デンソーの戦略を支えるOracle側のテクノロジーも、進化している。セッションに登壇したOracle Fusion ERPM開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのロンディ・エン氏は、Oracle Fusion Applicationsの進化について説明した。同氏によれば、Oracleはこれまで、テキスト生成などを支援するAIから始まり、特定のビジネスプロセスをステップごとに実行するエージェントを1000以上開発してきた。
こうした取り組みは、現在「Fusion Agentic Applications」と呼ばれるコンセプトに発展している。従来のプロセス中心のシステムではなく、ビジネスの成果(アウトカム)を起点に設計されたアプリケーション群だ。取引や業務の記録を残すことが主目的だった従来のシステムとは異なり、実際の業績やキャッシュフローといった結果をどう高めるかに軸足を置いている。
ユーザーが自然言語で特定のKPIやビジネス目標、指示を入力すると、背後で複数の専門特化したAIエージェントが連携して動作する。売掛金の回収管理を例にすると、システムはどの顧客から優先的に回収すべきか、どのような割引戦略を提示すべきかを自ら推論し、最適なプランを提示する。
エン氏は、システムを単なる業務ツールとしてではなく、意思決定を支えるパートナーとして位置付けていると説明した。人間がデータを収集し分析することに時間を費やすのではなく、AIが提示した推奨事項や戦略的選択肢から、人間が最終的な決断を下すという役割分担だ。
さらにOracleは、ERP、人材管理(HCM)、SCM、カスタマーエクスペリエンス(CX)といった各アプリケーション群にAI機能を組み込み、エンドツーエンドのワークフロー自動化を進めている。Oracleのアプリケーション開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるスティーブ・ミランダ氏は、「サプライチェーン業務のスピードと複雑性が増す中で、AIを中核に据えた統合的な新たなアプローチが求められている」と説明する。デンソーは、こうしたAI搭載型の業務基盤を活用し、グローバルでの意思決定の質とスピードを高めていく考えだ。
デンソーとOracleの関係は、単なる製品の提供と利用にとどまらない。両社は、サプライチェーンのモダナイゼーションに向けて共同で取り組んでいる。AI活用に関する知見を構築・共有するための「AI Center of Excellence」(CoE:組織横断的な取り組みを実施する拠点を共同で設立し、経営層から現場まで足並みをそろえ、プログラム全体を通じてAIの実装を加速させる。
今後は、AIエージェントや「Fusion Agentic Applications」の活用も視野に入れる。調達、生産、物流など複数の業務プロセスをまたいでAIが自律的に支援することで、サプライチェーン全体のレジリエンス向上を目指す。
城所氏は「Oracle Fusion Applicationsにより、データの精度と鮮度を高め、AIを業務プロセスに組み込むことで、変化に対応しやすいサプライチェーンを構築していく」と展望を語った。自社開発からクラウドパッケージへと方針を転換したことで、今後はOracleが提供する四半期ごとのアップデートを通じ、常に最新のAI機能が業務プロセスに供給されることとなる。
セッションの最後、エン氏はAIプロジェクトを成功させるためのポイントとして、早期に開始し、まずは小さな成功を積み重ねることの重要性を説いた。デンソーの取り組みも、このアプローチに沿ったものだ。まずは財務・人事といったコア領域から始め、そこで成功体験とデータを蓄積してきた。現在は、その取り組みを企業の生命線であるサプライチェーンへと広げている。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「デンソー、Oracle FusionでグローバルSCM基盤を刷新」(2026年4月21日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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