ガバナンスの再設計が必要に
Claude Code生みの親は「コードを一行も自分で書いていない」――情シスはどう受け止めるべき?
「Claude Code」の開発者ボリス・チェルニー氏は、「モデルがコードの100%を書く状態」に到達したと語った。AIが現場部門によるソフトウェア開発を広げる中、情報システム部門はどのように備えていけばいいのか。
「AIでソフトウェア開発が変わる」と聞いても、多くの情報システム部門(以下、情シス)は、まだ“開発部門の話”だと感じているかもしれない。しかし実際には、既に現場部門がAIを使ってツールや業務アプリケーションを作り始めている。営業部門が自前で業務自動化ツールを作る、経理部門がAIにデータ処理をさせる、はたまた、AIモデルが社内ツールを構築する時代が来る可能性もある――。こうした動きが広がれば、「誰が作ったのか分からないシステム」が社内に広がる可能性がある。
問題は、インシデントや情報漏えいが起きたとき、最終的に説明責任を問われるのが情シスだという点だ。
こうした変化を象徴する発言が、Anthropic社のエンジニアであり「Claude Code」の“生みの親”であるボリス・チェルニー氏から飛び出した。同氏は、「自分はもう、コードを一切手で書いていない」と語る。
「AIが全部書く」時代に情シスはどう備えれば?
Claude Codeは、Anthropicが開発するAIコーディングエージェントだ。チェルニー氏は、2024年後半に「Anthropic Labs」という少人数チームでClaude Codeの開発を始めた。当初から、コードを補完するのではなく、「AIエージェントがコードを全部書く」ことを目標に据えていたという。
ただし、初期のClaude Codeは「半年間ほとんど使い物にならなかった」と同氏は振り返る。状況が大きく変わったのは、AIモデル「Opus 4」以降だ。モデル性能の向上によって、Claude Codeの利用が急拡大したという。
チェルニー氏は現在、「モデルがコードの100%を書く状態」に到達していると説明する。同氏自身、1日に数十件、多い日は150件以上のPull Request(PR)をAI経由で処理しているという。
もっとも、全ての環境で完全自動化できるわけではない。大規模で複雑なコードベースや、学習データが少ない言語では課題が残る。ただし同氏は、「多くの場合、次のモデルを待てば改善する」との見方を示した。
“複数AIエージェント”が同時に働く時代へ
チェルニー氏の開発スタイルも特徴的だ。PCだけでなく、スマートフォンから複数のAIエージェントを並列稼働させているという。通常でも5~10のセッションを動かし、その中で数百のAIエージェントが稼働する。夜間には数千規模のエージェントがバックグラウンドで動作することもあるという。
特に重視しているのが「loop」と呼ばれる仕組みだ。これは、AIエージェントが定期的にジョブを実行し続ける機能で、CI(継続的インテグレーション)の修復、PR管理、テスト失敗への対応、SNS上のユーザー動向の収集などを自動化している。
同氏は、「loops are the future」(ループこそ未来)と表現する。単発のAI利用ではなく、“常時動き続けるAIエージェント”が仕事を代行する世界観だ。
「ソフトウェアを書く人」が変わる
チェルニー氏は、AIによって「ソフトウェア開発者」の定義そのものが変わると見る。エンジニアだけでなく、会計士やデザイナー、プロダクト担当者など、ドメイン知識を持つ人材が直接ソフトウェアを作る時代になるという。
Anthropic社内では、エンジニアだけでなく、プロダクトマネジャー、デザイナー、データサイエンティスト、財務担当者まで「全員がコードを書く」状態になっていると同氏は説明する。
同氏は、この変化を「活版印刷」の普及になぞらえる。かつて読み書きは一部の専門家だけの技能だったが、印刷技術によって一般化した。同様に、ソフトウェア開発も“専門職だけのもの”ではなくなるという見方だ。
その結果、重要になるのは「コードを書く能力」ではなく、「業務知識」や「何を作るべきかを理解する能力」だ。同氏は、「会計ソフトを最もうまく作れるのは、エンジニアではなく優秀な会計士かもしれない」と指摘する。
情シスは何を考えるべきか
この変化は、企業の情シスにも影響を与える可能性がある。従来のように、「開発部門だけがコードを書く」という前提が崩れれば、現場部門やAIが独自ツールを開発するケースが増える可能性があるためだ。
その場合、情シスに求められる役割も変わる。重要になるのは、「AIエージェントを安全に使える基盤」「データ連携」「権限管理」「監査」「ガバナンス」を整備することだ。
実際、チェルニー氏はAnthropicで重視されているのは「モデルの性能ではなく、組織構造やプロセス設計」だと述べた。AIを単なるツールとして使う段階から、「AI前提」で組織全体を再設計する段階へ移行する未来像も遠くはない可能性がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 取引先のセキュリティをどう管理する? 「SCS評価制度」対応の勘所を解説 -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] SCS評価制度「★4」取得のカギ 最大の壁を突破する方法とは? -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 2026年度末から運用開始 「SCS評価制度」に備えて製造業がやるべきことは? -
事例
[ネットワンパートナーズ株式会社, アイビーシー株式会社] ハイブリッド環境の一元管理と快適な無線LAN環境、三井ホームはどう実現した? -
市場調査・トレンド
[TD SYNNEX株式会社] 調査で学ぶセキュリティ運用の実態 人を増やさず品質を維持する方法とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
2
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
3
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
4
IT製品の導入に関するアンケート「PC&デバイス」編
-
5
BMWも導入 78兆円市場に化ける「フィジカルAI」の衝撃
-
6
OpenAIがコスト半減のGPT-6新モデル投入 Claude猛追とOSS包囲網で激化する価格戦
-
7
【基本情報技術者試験】データを複数ディスクに分散する「RAID」の仕組みと特徴
-
8
【基本情報技術者試験】そもそもOSは何をしている? 「ジョブ管理」の仕組みを解説
-
9
AIがサイバー攻撃調査を拒否? セキュリティ企業が単一モデル依存から脱却する理由
-
10
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
2
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
3
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
4
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
5
5分で分かる Microsoft 365のデータ損失に備えるためのバックアップの仕組み
-
6
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
7
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
8
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
9
ソフトウェア開発の属人化と手戻りをどう防ぐ? 速さと品質を両立させる方法
-
10
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー