AI導入が一般化する一方で、投資が利益に結び付かない「AIプラトー(停滞期)」に陥る企業が急増している。技術を導入すれば現場が自発的に活用するという「魔法の思考」が、成果を阻む最大の要因だ。かつてのPC普及期と同様に、真の生産性向上を手にするために必要なデータ基盤、ガバナンス、そして企業文化の再設計を詳解する。
ここ数年、企業の間ではあらゆる形態のAIを導入する動きが熱狂的に進んでいる。しかし、それら多額の投資が成果に結び付いているという証拠は、現時点では乏しいのが実情だ。
実際、大半の企業が「AIのプラトー(停滞期)」に直面している。AI投資により一定の利益は得られたものの、生産性の向上は横ばいとなっている。
AIの導入自体は増加傾向にある。コンサルティング会社McKinseyの調査レポート「The State of AI in 2025」によれば、調査対象となった企業の88%が、少なくとも1つの業務機能でAIを利用しており、前年の78%から上昇している。しかし、この投資は少なくとも現時点では、目に見える収益にはつながっていない。
AI投資が収益性に影響を与えたと報告した企業は、全体の40%弱にとどまる。大半のケースでその影響は支払利息・税引き前利益(EBIT)全体の5%未満で、EBITに5%以上の影響があったと回答した企業はわずか6%だった。
同レポートによると、自律型AI(エージェンティックAI)の利用は拡大しており、62%の企業がAIエージェントの試用を進めている。そのうち23%は少なくとも1つの機能でAIエージェントを拡張(スケール)させていると回答しているが、「拡張済み、または完全に拡張済み」の割合が10%を超える機能は存在しなかった。
これら全てのデータが示唆しているのは、企業はAIを広く活用してはいるものの、まだ十分な成果を生んでいないという現実だ。
データ活用支援を手掛ける米DomoのCDO(チーフデザインオフィサー)兼フューチャリストであるクリス・ウィリス氏は、企業がAIの停滞期に直面している理由について、「技術的な導入は進めていても、変化による効果が目に見えるような方法で運用できていないためだ」と指摘する。
企業はツールを購入して導入さえすれば、変革は自然に成功すると信じ込んでいる。しかし、ウィリス氏によれば、企業の慣性やイノベーションを育まない文化など、変革を阻む「隠れた障壁」が数多く存在するという。
停滞期に陥る最大の要因の1つは、「誰もが天性のイノベーターで、これまで求められたことのない方法で自由に革新を起こせるはずだ」という誤った前提にあるとウィリス氏は述べる。
「リーダーたちは『従業員全員にツールを配布すれば、あとは自分たちで使い道を考えるだろう』と言うが、それは楽観的すぎる考えだ。彼らはそもそもイノベーターを採用したのだろうか。例えば会計部門の担当者は、既存の枠にとらわれない思考を好むからという理由で採用されたのだろうか」と同氏は問いかける。
こうした従業員が創造的または革新的な思考を持つ可能性はあるが、企業は本来、タスク中心の機能別階層構造で成り立っている。従業員はその中で働くために採用され、動機付けられているのだとウィリス氏は指摘する。
また、企業が「取り残されることへの恐怖(FOMO)」や問題解決へのプレッシャーから、解決すべき課題を明確に定義せずにAIを導入していることも停滞期を招く一因となっている。
「変革を試みるなら、1つのことだけでなく多方面に変革を及ぼさなければならない。意思決定のプロセスやワークフロー、そして責任の所在の在り方を再設計する必要がある」(ウィリス氏)
ソフトウェア投資会社米Banyan SoftwareのAI部門責任者、マイク・カズミール氏も、大半の企業がAIの停滞期に突き当たり、投資から価値を引き出すのに苦労していると話す。
AI活用プログラムが迷走する理由は2つあると同氏は指摘する。1つは、導入を統率し、それをビジネス上の優先事項として定着させるリーダーシップの欠如。もう1つは、真の変革に必要な柱のうち、少なくとも1つをおろそかにしていることだ。
「あまりにも多くの企業が、テクノロジーを購入するだけですぐにリターンが得られると考えている。オペレーティングモデルの変更や従業員のスキル向上、そして何よりAIの燃料となる『データ』の整備に取り組んでいない」とカズミール氏は述べる。
停滞期を避けるためには、経営トップによる強固な戦略と、リスクを管理し価値を保証するための現場レベルでの堅牢(けんろう)なガバナンス体制の両方が必要だと同氏は付け加えた。
AI活用を推進するAI Foundations Groupの創設者、ファーン・ハルパー氏は、企業全体へのAI拡散のスピードが速すぎて、リーダーが管理しきれなくなっていると指摘する。
経営幹部には、AI化を迅速に進めるよう強いプレッシャーがかかっている。ハルパー氏は、リーダーはこの現実を認めつつ、企業やデータ、ガバナンスの準備状況に同時に対処しなければならないと述べる。
AIの変化の速さに、一部の経営陣はついていけるのか不安を感じ始めているという。一例として、米Coca-Colaのジェームズ・クインシーCEOがAI変革とデジタル成長のさ中にあった2026年3月に退任したケースを挙げ、そのプレッシャーの大きさを指摘した。
企業はAI変革への期待と現実のギャップに挟まれている。大半の企業が試行やパイロット運用の段階で足踏みしているのは、基礎となる土台について十分に考えてこなかったからだとハルパー氏は言う。
「データ基盤やガバナンス、スキルの基礎が整わないまま、使いやすいツールを導入しようとしたことで、それ以上の進展が見込めず、多くの企業が立ち往生してしまっている」と同氏は分析する。
コンサルティング企業米CXAmplifyの創設者であるダン・レイバ氏も、AIを他のITプロジェクトと同じように扱い、「導入完了」をプロジェクトの終着点と考えてしまうことが、停滞期の原因だと同意する。
「導入後の運用に責任を持つ者がいないことが最大の問題だ。データドリフト(質の変化)や上流データの変更などは、導入後に継続して監視しなければ気付けない」とレイバ氏は指摘する。「自律型AIが従来のITと大きく異なるのは、導入して終わりではない点だ。リリース後の継続的な監視が必要となる」
現在、企業がAI導入を成功させ、停滞期を回避するための方法を模索している。
Domoのウィリス氏は、前進するための1つの方法はテクノロジー導入の基本に立ち返ることだと述べる。価値が明確で内容がよく理解されており、既にガバナンスの効いたユースケースを数個選定することから始めるべきだという。
「個別の独立したツールを作るのではなく、既存のワークフローの中にAIを組み込む。そして、人間が得意とする『プロセスの判断』を人間が担当し続ける形にする。そうすれば、影響を測定し、その成果を再現できるか確認できる」と同氏は話す。
AIの課題は、「解決すべき正しい問題なのか」「そもそも解決する必要があるのか」を十分に検討せずに、いきなりプロトタイプの作成に飛びついてしまうことにあるとウィリス氏は指摘する。
「例えば自動化について、人々は『これを自動化すべきか』と自問していない。そのため、新たな問題を作り出したり、既に解決済みの事象で、わざわざ高価な新技術を投入したりしている」と同氏は言う。
ウィリス氏によれば、AIによる変革と生産性の問題は、決して新しい話ではない。
一世代前、企業が全ての従業員にPCを支給し始めたときも、生産性の劇的な向上が約束された。当時、ほとんどの人はPCで何をすべきか分かっていなかったにもかかわらずだ。
当時は企業側には多額の投資と熱狂、そして乗り遅れることへの恐怖があり、従業員側には大きな不安があった。しかし、企業が実際に生産性の向上を実感するまでには数年の月日を要したとウィリス氏は振り返る。
「今日、PCなしで仕事をすることは考えられない。しかし、テクノロジーだけでなく、その周辺にある要素を理解するには時間が掛かるものだ。不足している技術、文化、役割の定義、そして教育。これら全てをそろえて初めて、今起きている変化を真に活用できるようになる」と同氏は締めくくった。
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