10年使ったkintoneが“見えない資産”に 小岩井乳業のAI活用前夜AI導入するだけでは成果は出ない

小岩井乳業は、AI変革に当たってkintoneを活用したデータ基盤の再整備を進めている。ただし同社は、いきなりデータ基盤自体に手を加えるのではなく、上流工程から施策を進めている。具体的に何をしているのか。

2026年06月15日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 生成AIやAIエージェントの活用を進める企業が増えている。しかし、「最新のAIツールを導入すれば業務改革が実現する」とは限らない。AIが十分な価値を発揮するためには、AIが利用するデータが整理され、信頼できる状態で管理されていることが前提となる。

 小岩井乳業は、生産性向上と価値創造を柱とするデジタル変革を進める中で、AI活用を本格化するための土台として「kintone」を使ったデータ基盤の再整備に着手した。同社によると、再整備に当たっては以下2点の課題があった。

AI活用を阻む2つの課題とまず始めたことは?

 1つ目の課題は、kintoneのガバナンスが十分に整備されていなかったことである。10年以上利用してきた結果、組織変更や業務拡大に伴ってアプリケーションが増加し、「どこにどのデータが存在し、どのように利用されているのか」を正確に把握することが難しくなっていた。

 2つ目の課題は、部署ごとにデータの定義や用語が異なり、「共通言語」が存在していなかったことである。同じ言葉でも部署によって意味が異なれば、AIが参照するデータの整合性を保つことは難しい。高度なAIを導入しても、入力されるデータの品質が低ければ期待した成果は得られない。

 このため小岩井乳業は、まずkintoneのガバナンスを整備し、信頼できるデータ基盤を構築することをプロジェクトの出発点とした。

システム開発ではなく「上流工程」から支援

 小岩井乳業が採用した「キミノマホロ for kintone」は、単なるシステム開発サービスではない。特徴は、ガバナンスルールの策定という上流工程から伴走支援を実施している点にある。

 キミノマホロ for kintoneを展開するアールスリーインスティテュートによると、支援に当たっては小岩井乳業の業務内容を深く理解した上で、ベンダー側のノウハウと現場の実態とのギャップを埋めることを重視しているという。

 また、プロジェクトでは「発注者」「受注者」という関係ではなく、対等なパートナーとして議論を重ねているという。小岩井乳業が持つ「こう活用したい」という事業方針を尊重しつつ、必要に応じて厳しい指摘も含めて率直に意見交換を行う体制を構築している。

AI活用のスタートラインは「データ基盤」

 アールスリーインスティテュートによると、小岩井乳業への支援フェーズはガバナンスルールの骨子を固め、社内への展開・定着フェーズへ移行している。小岩井乳業の担当者は、「kintone設計のプロではない私たちの要望に対し、イコールパートナーとしてフラットに意見交換をしてくれる。時には耳の痛い指摘も含めて、対等に議論できる」と評価している。

 今後は、運用負荷を抑えながら継続的に回る仕組みを整備し、kintone上のデータをマスターとして適切に管理するとともに、部門間に散在するデータを解消することを目指すという。

 同社は、「それができて初めてAI活用のスタートラインに立てる」と考えている。将来的には、現場部門自らが改善提案を行い、自律的に業務改善が進むサイクルの実現を視野に入れている。

情シスが学ぶべきポイント

 この事例から分かるのは、AI活用の成否はAIツールそのものではなく、データガバナンスや共通言語の整備といった基盤づくりに大きく左右されるということである。

 情シスにとって重要なのは、新しいAIサービスを次々と導入することではない。まずは、どのデータが存在し、誰が管理し、どのようなルールで運用するのかを整理することだ。その上で初めて、AIは企業全体の生産性向上や価値創造に貢献する基盤となるのである。

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