生成AIの普及やデータ活用の高度化を背景に、企業が保管するデータ量は急増している。長期保管コストやランサムウェア対策への関心が高まる中、LTO-10の登場を機にテープストレージが再評価されている。
生成AIの普及やデータ活用の高度化によって、企業が保管しなければならないデータ量は急速に増加している。同時に、ランサムウェア攻撃の高度化や法規制対応による長期保管ニーズも拡大しており、企業は「増え続けるコールドデータ(利用頻度の低いデータ)をどこに保存するべきか」という課題に直面している。
近年はクラウドストレージが主流となっているが、長期間にわたる保管コストやエネルギー消費、サイバー攻撃への対策を考えると、必ずしも万能ではない。そうした中で再び注目を集めているのが、テープストレージだ。
かつては「古い技術」と見なされていたテープだが、最新規格であるLTO(リニアテープオープン)第10世代(LTO-10)の登場によって、その位置付けは大きく変わりつつある。本稿では、企業のバックアップ/アーカイブ戦略においてテープが再評価されている理由を整理する。
企業がテープストレージを見直す最大の理由は、データ量の急増だ。
AIモデルの学習データや推論ログ、IoTデータ、映像データなど、保存対象は年々増えている。調査会社Demandsageは、世界全体のデータ量が2026年末までに221ゼタバイトへ達すると予測している。前年比22.09%増という高い伸び率であり、1日当たりでは数億TB規模のデータが新たに生成される計算になる。
こうした状況では、単にストレージ容量を増やすだけではなく、「どれだけ高密度に保存できるか」が重要になる。
LTOテープはこの点で大きく進化してきた。LTO-10は2025年にネイティブ30TB(圧縮75TB)で登場し、2025年11月にはアラミド技術でネイティブ40TB(圧縮100TB)の新カートリッジが発表された(2026年第1四半期出荷予定)。40TBはLTO-9比122%増に当たる。
さらに注目すべきは将来性である。LTOコンソーシアムはLTO-14までのロードマップを公開しており、最終的にはネイティブ365TB、圧縮時913TBの容量を目指している。
クラウドサービスでは数年後の価格体系やサービス内容が変化する可能性がある。一方で、テープは容量拡張の方向性が明確に示されているため、企業は数十年単位のデータ保管計画を立てやすい。これは金融機関や医療機関、製造業など長期間のデータ保存が求められる業界にとって大きなメリットになる。
近年のサイバー攻撃では、バックアップデータそのものを標的にするケースが増えている。
攻撃者は本番システムを暗号化するだけでなく、復旧を困難にするためにバックアップサーバやバックアップストレージまで侵害しようとする。そのため、「バックアップが存在する」だけでは十分ではなく、「攻撃者がアクセスできない場所にバックアップがあること」が重要になっている。
テープストレージの最大の強みは、物理的にネットワークから切り離せる点だ。
テープをライブラリから取り出して保管すれば、ネットワーク経由の攻撃を受けない「エアギャップ」を実現できる。ランサムウェアがどれほど高度化しても、オフライン状態のテープへ直接侵入することはできない。
さらにLTO規格ではセキュリティ機能も強化されてきた。LTO-3ではWORM(Write Once Read Many)機能が導入され、一度書き込んだデータを変更できなくなった。LTO-4ではハードウェア暗号化機能が追加され、不正アクセスや改ざんへの耐性が向上している。
こうした機能は、現在多くの企業が採用する「3-2-1-1-0バックアップ戦略」とも親和性が高い。3つのコピーを保持し、2種類の媒体に保存し、そのうち1つをオフサイトに配置、さらに1つをオフラインまたはイミュータブルに保管し、復旧テストでエラーをゼロにするという考え方だ。
テープの進化は、現在のサイバー攻撃対策だけにとどまらない。
近年、セキュリティ業界で注目されているのが量子コンピューティングによる暗号解読リスクだ。
量子コンピュータは、従来型コンピュータでは困難だった計算を高速に実行できる可能性がある。その一方で、現在広く利用されている公開鍵暗号を破る能力を持つ可能性も指摘されている。
特に懸念されているのが、「Harvest Now, Decrypt Later」(今収集して後で解読する)と呼ばれる攻撃手法である。
攻撃者は現時点で暗号化されたデータを盗み出し、すぐには解読せず保管する。そして将来的に量子コンピュータが実用化された段階で復号を試みる。
企業のバックアップデータには、顧客情報や研究開発データ、設計図面など数十年後でも価値を持つ情報が含まれている。そのため、現在は安全でも将来的な解読リスクを考慮する必要がある。
LTO-10は、この課題に対応するため、テープ規格として初めてポスト量子暗号(PQC)を前提とした鍵交換機能をサポートした。
量子コンピュータが本格普及するのはまだ先とみられるが、30年、40年と保管するデータを扱う企業にとっては、今から準備を始める意味は小さくない。
企業がテープを採用する理由は、セキュリティだけではない。コスト面でもテープには優位性がある。
特にアーカイブ用途では、アクセス頻度が低いデータを常時通電する必要がない。オフライン状態のテープはほぼ電力を消費しないため、大規模なデータセンターでは電力コスト削減効果が期待できる。
サステナビリティへの取り組みを重視する企業にとっても魅力的だ。
データセンターの消費電力は年々増加しており、AI向けインフラの拡大によってその傾向はさらに強まっている。バックアップやアーカイブ領域の消費電力を削減できれば、CO2排出量削減にもつながる。
LTO-10では保管環境の条件も緩和された。従来よりも高温・高湿度環境での保管が可能となり、空調設備への依存度を下げられる。長期間保管するアーカイブ施設では、こうした運用コストの削減効果も無視できない。
LTO-10にも課題はある。従来のテープ運用では、メディアを利用する前に初期化処理が必要だった。この処理には40〜120分程度かかる場合があり、大量のテープを扱う現場では運用負荷となっていた。
LTO-10ではこの初期化処理が不要になった。テープを装置へ挿入すればすぐに利用できるため、バックアップ作業やメディア交換作業の効率化が期待できる。
一方で、この改善には代償もあった。LTO-10はヘッドアーキテクチャを全面的に刷新した結果、従来世代との後方互換性を失っている。
これまでのLTO規格では、第7世代までは2世代、第8・9世代は1世代の読み込み互換が維持されてきた。しかしLTO-10ではLTO-9以前のメディアを直接扱えない。
既存のテープ資産を大量に保有する企業にとっては、移行計画やデータ移送の検討が必要になる可能性がある。
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