セキュリティと負荷軽減を両立
富国生命が契約情報を「ファイル転送サービス」で送受信する理由
大容量ファイルを安全に送受信する企業向けファイル転送サービスを業務に利用する富国生命保険。サービス導入や選定の理由とは何か? 同社担当者に聞いた。
富国生命保険(以下、富国生命)は、企業/組織向けの団体保険、団体年金保険に関する契約内容や保険料、契約残高といった契約データの社内外のやりとりに、セキュリティ機能を備えた企業向けのファイル転送サービスを利用している。同社はファイル転送サービスの導入で、契約データの誤送信や紛失といったリスクを軽減しつつ、契約データのやりとりに伴う作業負荷を軽減しているという。
富国生命 事務企画部 副部長(システム企画担当)の澤 憲一氏と、事務企画部 システム企画グループ 調査役の石黒裕規氏に、企業向けファイル転送サービス導入の経緯と選定理由、導入効果を聞いた。
ファイル転送利用方法:保険文書の受け渡しに利用
富国生命で企業向けファイル転送サービスを利用するのは、団体保険や団体年金保険を担当する法人サービス部だ。顧客団体との間の加入者の名簿や契約データの受け渡しに活用する。
同社は日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のグループウェア「IBM Notes/Domino」を導入済みであり、そのメール機能も利用している。ただし、団体保険/団体年金保険の顧客団体と個人情報を含む契約データをやりとりする際は、標準的な転送手段として企業向けファイル転送サービスを利用する。
富国生命は、管理者があらかじめ指定したWebサイト/Webサービスのみを利用可能にするホワイトリスト制御を導入し、従業員の自席クライアントPCからのインターネットアクセスを制限している。企業向けファイル転送サービスについては、法人サービス部などの一部部署に限定して利用を許可する形を取る。
利用しているのは、NRIセキュアテクノロジーズ(以下、NRIセキュア)の企業向けファイル転送サービス「クリプト便」だ。クリプト便はファイルをやりとりする社内と社外それぞれにユーザーアカウントの契約が必要なため、社内ユーザー向けに約90個、社外ユーザー向けに約250個のユーザーアカウントを契約している。
ファイル転送導入の経緯:媒体の紛失リスクや安全性強化が目的
以前は契約データのやりとりに、フロッピーディスク、磁気テープ、CD、DVDといった磁気・光学媒体やメールといった手段を利用していた同社。だがそうした契約データのやりとりには、さまざまな課題があったという。
最も懸念していたのが、従業員の媒体紛失リスクだ。小型で可搬性のある磁気・光学媒体は、「紛失したり、間違えて廃棄してしまうといった可能性がある」(澤氏)。さらに磁気テープ装置の保守期限切れや、利用する媒体の多様化が進んでしまったことも対処すべき課題となっていた。
媒体の台帳管理にも改善すべき点があった。同社は、どの媒体をどこに、いつ送付したかといった内容を従業員が台帳に記入して管理している。こうした台帳記入の負担に加え、「上長が台帳の内容を即座に確認するのが難しいことも懸念だった」と澤氏は語る。
一方、メール添付での契約データのやりとりでは、送信側/受信側メールサーバの容量制限で大容量ファイルの転送が難しい場合があったり、メールアドレスの誤記による誤送信をしてしまうリスクもある。富国生命は、メールに暗号化やパスワード設定といったセキュリティ強化を施しているものの、「大容量データをセキュアに送信するには、メールだけでは不十分だった」と澤氏は語る。
こうした中、同社では2011年ごろに契約データの送受信手段を見直す議論が活発化。現業部門から、企業向けファイル転送サービスを標準的な契約データ転送の手段にしたいという声が上がり始めたという。現業部門では、既に2009年1月から部分的にクリプト便などの企業向けファイル転送サービスを先行利用していたことが、こうした声の高まりを後押しした。
現業部門からの声を受けて事務企画部は、全社展開を前提に企業向けファイル転送サービス導入の是非を検証。クリプト便の採用を決定し、エンドユーザーや管理者向けの研修を経て、2013年1月にまず法人サービス部で本格利用を開始した。
クリプト便選定理由:上長承認とグループ送信、サポートを評価
市場には多くの企業向けファイル転送サービスがある中、富国生命はなぜクリプト便を採用したのか。前述の通り、現業部門で既にクリプト便を利用しており、一定の支持があったことも大きいが、加えて「セキュリティを高める機能と、サポートがしっかりしていたことも選定の理由だ」と石黒氏は語る。
機能面で評価したのは、ファイル送信時に上長による承認フローを設ける上長承認機能だ。事務企画部は、「ファイル転送の仕組みそのものがセキュアでも、担当者のミスによる情報漏えいリスクを考慮すると、送信前後の運用まで含めて見直す必要がある」(澤氏)と考えており、クリプト便のバージョンアップで上長承認機能がオプションとして加わったことが採用を後押しした。
加えて、特定の相手だけにファイルのやりとりを制限できる送信制限機能も評価したという。クリプト便の送信制限機能を使うと、社内ユーザーと顧客団体のユーザーを1つのグループとして指定し、ファイルのやりとりの範囲をそのグループ内のみに制限できる。「誤送信を防止する上で、この送信制限機能はメリットだと考えた」(石黒氏)
サポート面では、特に現業部門からは「研修の手厚さを評価する声が多い」と石黒氏は語る。富国生命は、クリプト便の導入前となる2012年の秋口から、NRIセキュアによる有償研修サービスを受けていたという。
企業向けファイル転送サービスは、インターネット経由で社外のデータセンターにファイルを一時保管することになる。このことについては、クリプト便のサービス基盤であるデータセンターがNRIセキュアによってセキュリティ対策に配慮して運用されていることに加え、通信路暗号化機能やIPアドレスによるアクセス制限といったクリプト便の機能を利用することで、「特にセキュリティレベルが落ちるとは考えていない」と澤氏は語る。
導入効果:作業工数の減少が高評価
クリプト便の導入で、「契約データ送付に伴う作業工数は相当減った」と、澤氏は効果を説明する。「以前は台帳の記入だけでなく、媒体にデータを記録したり、媒体の中身と貼り付けたラベルの記載内容が合っているかどうかを確認する作業が発生して大きな手間が掛かっていたが、こうした手間が解消されたことが大きい」(同氏)
従業員のセキュリティに関する意識が向上したことも、副次的なメリットだ。例えば、送信プロセスに上長承認の過程を明示的に入れることで、「自分の判断だけで契約データを送付してはいけないルールになっている」ということを従業員があらためて確認するきっかけになる。上長承認機能の導入で上長の作業負荷が高まることが考えられるが、現在のところ、特に不満は上がっていないという。
グループ作成の煩雑さが課題
クリプト便を利用する中で、見えてきた課題もある。中でも管理者にとって「意外と負担となっている」(石黒氏)のが、上述した送信制限機能で利用するグループの作成だという。富国生命は、顧客団体ごとにグループを作り、顧客団体の窓口担当者と、その団体を担当する社内担当者をユーザーとして登録している。ここで問題になるのが、作成すべきグループが多岐にわたることだ。
例えば、ある団体が3種の保険を契約している場合、団体の窓口となるユーザー1人と3種の保険に関するやりとりをするケースもあれば、窓口のユーザーが3人いて、それぞれが1種ずつの保険のやりとりをするケースもある。1つの顧客団体ごとに1つのグループを作成するのがシンプルだが、「団体年金保険の加入者と団体保険の加入者とを誤って認識しまう可能性が否定できない」(石黒氏)。そのため、同社はケースに応じてグループを変えているのだという。
現在、同社が作成したグループは約200種に上り、全てを手作業でメンテナンスしている。「送信元と送信先の数に応じたテンプレートが用意されれば、管理者の手間が軽減されると考えている」(澤氏)。NRIセキュアは、明確な時期は確定していないものの、こうした機能を追加する努力をするという。
今後の展開:システム連携も考慮
クリプト便は、業務システムとデータ連携するCUIアプリケーションが利用可能な有償オプション「オートパイロットオプション」など、業務システムが出力したファイルを自動送受信する仕組みを用意する。富国生命は、現在はこうした機能を利用していないものの、「自動化できるところは、連携機能を利用した方が従業員の負担を軽減できる」(石黒氏)との考えから、今後の検討課題だと考えているという。
「送信前に従業員が加工しなければいけない契約データもあるが、手を加えないでよい契約データであれば、自動化の仕組みを検討する価値はある」と、澤氏は考えている。契約データは、日立製作所のメインフレームから出力している。実際に連携の仕組みを構築する際には、富国生命の情報システム子会社であるフコク情報システムが、必要に応じて日立製作所と協力しながら進めることになる。
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