CIOインタビュー:UPSのデイブ・バーンズ氏Interview

小口貨物輸送の最大手であるUPSのCIO、デビッド・バーンズ氏は、積荷担当からのたたき上げ社員。CEOや経営幹部と話をするには「ビジネス語」の習得が必要と語る。

2005年12月02日 15時24分 公開
[TechTarget]

 全世界200カ国以上で事業を展開するUPSは、自社のサプライチェーン技術の販売も行っている。同社にはCIOがITプロジェクトをCEOほか最高意志決定者に説明するための一元的組織「Program Project Oversight Committee」が設置されている。

 上級副社長兼CIOのデビッド・バーンズ氏は次のように語る。「CEOや経営幹部と話をする場合、それが純粋に技術的な話題だと、きちんと理解されなかったり、十分に受け入れられなかったりすることが多々あります。しかしビジネス上の問題、例えば、いかにして事業を拡大するかとか、新製品や新技術を市場に投入するにはITをどのように利用すべきかといった話をすれば、彼らは打って変わってCIOを仲間として迎えてくれるでしょう」

 デビッド・バーンズ氏は、全世界200カ国以上で事業を展開するUnited Parcel Service of America(UPS)の上級副社長兼CIO(最高情報責任者)である。同氏は積荷係のパート社員としてスタートして以来、UPSに28年近く勤務した後、約半年前に現在の役職に就いた。

 今日、UPSでは、目もくらむようなスピードで国境を越え、その都度担当者が変わるプロセスの可視性を高めるために苦労しているグローバル企業に、サプライチェーン技術を販売している。UPSの2005年第1四半期の売上高は98億9000万ドルに増加した。最近行ったメンロ・ワールドワイド・フォワーディング(Menlo Worldwide Forwarding)の買収も、アグレッシブな「UPSサプライチェーン・ソリューション」戦略の一環である。UPSでは、IT部門の上級管理職は戦略的ビジネスパートナーと見なされている。また、ITマネジャーらが経営陣に対してプロジェクトに関する説明を行うための一元的な組織として、「Program Project Oversight Committee」(PPOC)という委員会が設けられている。バーンズ氏によると、ITプロジェクトをスムーズに進める秘訣(ひけつ)は、技術者が収益の拡大や顧客サービスの改善について、ビジネス言語、つまり相手に正確に伝わる言葉を使って話せるように訓練することだという。

―― 自社のビジネスに貢献したいと考えているCIOに対して、何か実際的なアドバイスはありますか。

バーンズ 今日、ITとビジネスの連携ということが大きな話題になっているのは、興味深いことだと思います。それが話題になっているのには理由があります。そこに問題が存在するからです。UPSの場合、「当社ではビジネスがITを推進している」と言い切れるようになるまで、ずいぶん努力を重ねてきました。

 これが何を意味するかと言いますと、われわれはテクノロジスト(IT部門の上級管理職)のスキルを高め、技術的なベースだけでなく、ビジネス面でもしっかりとしたベースを持たせるのに成功したということです。いったんこの基盤を確立してしまえば、戦略チームの一員としてIT部門を活用するのは非常に容易でした。技術とビジネスの連携に必要な条件が整っているからです。

―― そのモデルに近づきたいと考えているCIOには、どんなアドバイスがありますか。多くのCIOは、CEOからあまり注目されていないのではないかと感じているようです。

バーンズ CIOは「ビジネス語」を話せるようになる必要があります。CEOや経営幹部と話をする場合、それが純粋に技術的な話題だと、きちんと理解されなかったり、十分に受け入れなかったりすることが多々あります。しかしビジネス上の問題、例えば、いかにして事業を拡大するかとか、新製品や新技術を市場に投入するにはITをどのように利用すべきかといった話をすれば、彼らは打って変わってCIOを仲間として迎えてくれるでしょう。つまり、経営幹部と同じ立場で会議に参加する必要があるのです。つまり、単に技術を導入する役割だけでなく、より広範なスケールでビジネスの成長の責任を共有しなければならないということです。

―― 技術の優先度をめぐって意見の対立が生じたとき、副社長兼CIOという立場ゆえに悩むことはありませんか。

バーンズ いいえ。意見が対立した方が仕事がやりやすくなります。わたしは2つの肩書きを持っています。1つは業務担当の上級副社長という肩書きであり、UPSの経営委員会にはその立場で出席します。その一方で、わたしはCIOという肩書きも持っています。両方の肩書きを持っているため、わたしは当社の戦略、ならびに実施に至るまでの戦略策定サイクル全体に深く関与しています。CIOという立場では、技術標準の策定や技術アーキテクチャなど、大規模なIT部門を運営するために必要な事項に関する技術委員会の責任者を務めています。自社が目指している戦略が何であるかをしっかりと理解していれば、この任務もやりやすくなります。

―― PPOC方式について説明してください。

バーンズ CIOの監督下にポートフォリオマネジャーを置くという形でIT部門を編成しました。各ポートフォリオマネジャーには、それぞれ責任範囲が与えられています。これは、ほかの多くの企業のCIOの責任範囲に匹敵する大きさです。PPOCでは、重要なプロジェクトについて検討を行います。IT主導のプロジェクトもあれば、そうでないものもあります。1カ月に一度、すべてのプロジェクトをこの一元的組織に持ち込んで検討するわけです。これはいわば情報交換センターであり、プロジェクトを提案しているさまざまなグループが参加します。各プロジェクトが自社の戦略に沿っており、ROI(これが主要な指標となる場合)およびプロセス管理が適切であるかどうかを確認するのです。これらの点が会議で確認され、その後でプロジェクトが承認されれば(会議の直後にプロジェクトが承認あるいは却下される)、必要なリソースが利用可能になります。

―― CEOであるマイク・エスキュー氏と意見が対立することもあるのですか。

バーンズ マイクとわたしは非常に良い関係です。マイクは元々技術畑の出身ですので、話が早いのです。UPSには「建設的な不満」という言葉があります。われわれは常に、「今の状態がベストなのか? 改善の余地はないのだろうか?」と自問自答しています。不満といっても、「建設的」という言葉が付けば、非常に良い意味になります。この視点に立ち、マイクは常に努力しており、常に将来を見ています。彼は将来を構想し、その構想に向けてチームを組織する能力に長けています。

―― 上級レベルのITスタッフを採用する場合、UPSのビジネス幹部になる可能性があるテクノロジストを探すのですか、それとも技術的なバックグラウンドを持ったビジネスエグゼクティブを探すのですか。

バーンズ 上級ITスタッフを採用するにあたっては、1つだけのアプローチで臨むわけではありません。特に重視するのは、技術知識を吸収する能力を持っているかということです。これは絶対条件です。といっても、IT分野で20年以上の経験を持った専門家でなければならないということではありません。われわれが求めているのは、しっかりした技術的基礎と優れたビジネススキルを併せ持った人材です。言い換えれば、技術知識を学んで吸収する能力を持ったビジネス幹部に技術的な役割を担わせることもできれば、その逆も可能だということです。われわれは、高度なビジネススキルを持ったテクノロジストを育成することに努力を傾注しています。

―― UPSのサプライチェーン・ソリューション・グループは成長しつつあります。Webサービスを通じてUPSのサプライチェーン技術を提供することが、なぜ重要なのですか。

バーンズ Webサービスは1つのチャネルです。Webサービスは成長中の分野であり、UPSはこの分野に進出しています。例えば、われわれが数年前に提供したUPS OnLine Toolsですが、これらはXMLをベースとしています。その最初の形態は、Webサービスとしての要件を備えたものではありませんでした。しかしこれらのツールはWebサービスへと移行しました。顧客自身がその方向に移行したからです。ただし、Webサービスを利用していない顧客や、XMLを求めていない顧客もたくさんいます。彼らは、純粋なEDI(電子データ交換)やカスタマイズされたEDIを必要としており、フラットファイルを求めています。UPSはこれらすべての分野で大きな強みを持っています。

―― あなたもRFID(無線ICタグ)が世界を変革すると考えているのですか。

バーンズ 世界を瞬時に変革する技術であるという立場は取っていません。多くの人々が、RFIDがバーコードに取って代わるのかと質問します。そんなとき、わたしは歴史的な視点から眺めるようアドバイスします。バーコードが出現したとき、すぐには普及しませんでした。しかし今日では、バーコードが商取引で重要な役割を果たしていることは明らかです。この技術が、今日のような存在になるまでには約20年間の歳月を要したのです。RFIDでも同じくらいの時間がかかるでしょう。問題は、RFIDは多岐にわたる影響をもたらすということです。この問題で最大のカギは、RFIDはこれまでと同様、急速に進化することを忘れてはならないということです。そこで最も重要な要素が標準です。われわれがRFIDの標準化団体EPCglobalのメンバーになっているのも、それが理由です。

(この記事は2005年5月20日に掲載されたものを翻訳しました。)

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