元FBIのCIO、ダーウィン・ジョン氏が30年以上にわたるCIOとしての経験を振り返り、ITとビジネスの連携問題などについて、アドバイスを提供してくれた。
「ITは、業務でますます中心的な役割を担うようになり、あらゆる業務と切り離せない一部となるでしょう。CIOはその統合拠点になり、厳然とした規律を確立する必要があります。システムがダウンしたからといって、社内が混乱するようなことがあってはなりません」――元FBIのCIO、ダーウィン・ジョン氏が30年以上にわたるCIOとしての経験を振り返り、ITとビジネスの連携問題、「コラボレーティブCIO」という役割、組織におけるITの役割などについて、アドバイスを提供してくれた。
米連邦捜査局(FBI)の元CIOであるダーウィン・ジョン氏は、IT部門をスムーズに運営するこつを少しばかり心得ている。同氏は、ニューヨークで開催された「SIMposium 2003」カンファレンスにおいて「Finding a delicate balance in a CIO's world」(CIOに求められる絶妙なバランス)と題されたプレゼンテーションを行った。講演後のインタビューで、同氏は30年以上にわたる経験を振り返るとともに、ITとビジネスの連携問題、「コラボレーティブCIO」という役割、組織におけるITの役割などについて、CIOとIT幹部にとって大いに参考になるアドバイスを提供してくれた。
―― ビジネスとITの連携という問題は、IT幹部にとって最大の関心事です。ビジネスとITの連携を目指しているCIOに対してアドバイスはありますか。
ジョン この問題については、組織によって状況が多少異なると思います。つまり、ある意味では、企業固有の問題、あるいは企業独自の問題であると言えます。企業における重要な成功要因、つまりCIOにとっての成功要因は、経営チームの期待とIT部門の役割を理解して両者を結び付けることができること、そして経営チームに参加し、その一員となることです。多くの組織では、そういった機会はたくさんあると思います。組織の中枢部に入り込めるCIOであれば、ビジネスとITの連携が長期にわたってうまくいくと思います。それができなければ、連携がうまくいかなくなるという傾向があります。
―― 今回のプレゼンテーションでは、IT部門のトップという役職を1つに限定するという考え方に対して、「コラボレーティブCIO」の役割というアイデアを紹介していましたね。これは基本的に、「CIOオフィス」というようなものですか。組織ではこのようなタイプの構造が効果的だと考えているのですか。
ジョン そうです。企業はこのモデルに移行すべきだと確信しています。これこそが将来のモデルなのです。
―― ほかの部署のスタッフもそのオフィスに迎え入れるのですか。
ジョン それもいいでしょう。そうすることで体制を強化できるわけですから。日常的な業務を統括する能力に秀でたリーダーに加え、コンセプト志向のチームを統括する役割として、将来について考え、事物を視覚化する能力を持ったリーダーがいても構いません。また、迅速な顧客サービスを担当するリーダーを置いてもいいでしょう。CIOはこれらのあらゆる側面にわたってITの専門知識を持っている必要はありません。これは、ほかのタイプのリーダーをCIOオフィスに呼び込む機会にもつながります。
また、リーダーになる人は2つの要件を満たしていると考えています。まず、リーダーは特殊な能力、つまり専門知識を備えています。第2に、リーダーは信頼されています。その信頼の一部が人間関係であり、これはリーダーに有利に作用します(CIOオフィスに人々を集めるのにも信用がものを言います)。
新たに加わったスタッフが最新の技術に関して深い専門知識を持っているのであれば、ビジネスおよびキーパーソンを知っており、信用されているスタッフとチームを組ませればいいのです。別の言い方をすれば、「わたしの部下には、個人としてのヒーローはいないが、チームという形のヒーローはいる。この人のこういう能力を評価しており、あの人のああいう能力を評価しているからだ」といったような考え方です。
―― あなたのご子息も企業のCIOだと伺いました。これまであなたが対処したことのないような問題に彼が遭遇すると思いますか。
ジョン ええ、思います。IT分野は以前よりもはるかにダイナミックに変化しています。サイクルタイムはますます短くなっています。わたしはこの仕事に30年余り従事しましたが、当初はPCもない時代でした。ですから、技術の変化だけを考えても、非常に激しかったわけです。一方、30年前には成功に不可欠な基本的な事項が3つありましたが、これらは今日においても成功に不可欠であり、それらを軽視するとトラブルが起きます。3つの基本的な成功要因とは、プロジェクト管理、変更管理そして人材管理――つまり基本的な管理体制です。これらの基本を忘れてはなりません。これらが正しく機能していないと、ほかの業務も正しく機能しなくなるのです。
もう1つの大きな変化は、ほとんどの企業では、単に業務を運営するのにもITに依存するようになってきたことです。以前、FBIに入る前の職場で、そのことを思い知らされた経験があります。ある日、ネットワークがダウンしたのです。ある部署の責任者がわたしのオフィスにいきなり入ってきて、「仕事ができなくなった。社員を帰宅させるべきなのか? それとも会社に残しておくべきなのか? いつ復旧するんだ?」と言うのです。それは、ネットワークがダウンすると、従業員は仕事ができなくなるという現実でした。皆、座って待っているのです。そしてわたしは「どうしたらいいんだ? バックアップはどうなっているんだ? 復旧は? リスクはどうなのか? 従業員がデスクトップで行う操作がシステムをダウンさせる可能性があることを説明したのか?」などと自問していました。こういったことに関しては規律が必要です。システムがダウンしたからといって、「システムがダウンした。どうしてくれるんだ」などと、情報システム部門に言ってこさせないようにしなければいけません。情報システム担当者は、「許可されていない例のソフトウェアを入れたのは君たちだろう。忘れたのかい?」と言えばいいのです。
―― 以前、ウォーレン・ベニス氏(訳注:経営管理学教授でリーダーシップ論の権威)はコラム「The Julius Caesar Syndrome」(ジュリアス・シーザー症候群)の中で、「地面に耳を押し当てて、自分の周りで何が起きているのか知ろうとしなければ、トラブルがやって来る」と述べていました。CIOはこれをどのように実践すべきでしょうか。従業員に会うだけでいいのでしょうか。
ジョン 2つの基本原則があると思います。第1は、CIOは謙虚であることです。謙虚というのは、積極的に学ぶ姿勢を忘れず、自分がすべての答えを知っていると思わないということです。誰であれ、すべての答えを知っていると思った途端にごう慢になり、それがまさにアキレス腱になるのです。聴く耳と、学ぶ気持ちを持たなければならないのです。その人の話を聴くかどうかを、相手の地位で判断すべきではありません。
第2の原則は、どんな業務について知りたいのであれ、それに最も近い人間に聞くべきだということです。彼らが最も正確な情報を持っているからです。夜中であろうとも、データセンターに立ち寄り、「どんな状況か話してくれ。何を悩んでいるのか?」と質問すればいいのです。わたしはそうしてきました。また「ランチ持参ミーティング」もよくやりました。昼に会議室を予約しておき、部下に言うのです――「ランチを持って集まってくれ。一緒に食べようじゃないか」と。彼らの質問を聞くことで、彼らがどんなことで悩んでいるか分かります。この方式は、部下がわたしに接する機会も提供します。また、誰からボイスメールが来ても、24時間以内に返事をしました。耳を地面に押し当てていなければならないからです。
こういった姿勢が必要な理由はもう1つあり、ウォーレン・ベニス氏が午前中のカンファレンスでそれを示唆していました。同氏によれば、あなたのジョークに大笑いする人間、あなたの気に入ることしか言わず、決して批判しない人間で周りを固めてはならないということです。
リーダーにとって最大のリスクは、決して反論せず、望むことを言い、望むことをするイエスマンで周りを固めることです。あなたに食ってかかるような人間がいなければならず、それに対してあなたは管理者として対応する必要があります。つまり、「この点に関しては、わたしが間違っており、君の考えが正しい」と言えるようにすることです。そうすることで、あなたが部下に多くの自由を与えており、部下の意見に耳を傾けていることは、幹部スタッフにも理解されるでしょう。
―― 最後に、一番聞きたかった質問です。ウォーレン・マクファーラン氏(訳注:ハーバード大学経営大学院教授)の「IT does matter」(ITはやはり重要である)という意見に賛成ですか。
ジョン もちろんです。ITは、業務でますます中心的な役割を担うようになると思います。ITの周りに境界線を引き、これがITだと言うのは難しくなると思います。ITはあらゆる人々の業務と切り離せない一部になるからです。しかしその統合拠点は必要です。それは、わたしが作ろうとしている拠点の一部です。CIOがその統合拠点になるのです。そこには、新しくとも厳然とした規律が必要です。
(この記事は2003年10月20日に掲載されたものを翻訳しました。)
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