Amazon.comのフルフィルメントセンター「BRS2」では、ロボットやAI技術を活用し、倉庫作業の自動化が進んでいる。具体的にどのような技術を活用しているのか。
英スウィンドンに位置する「BRS2」は、Amazon.comの物流拠点「フルフィルメントセンター」(FC:Fulfillment Center)だ。FCの内部ではロボットやAI(人工知能)技術を活用した自動化が進んでいる。どのような取り組みをしているのか紹介しよう。
トラックから商品が降ろされると、物流システムベンダーVanderlande Industries製の自動化設備が稼働を始める。伸縮式のコンベヤーに載せられた商品は、3階のロボット主体のフロアか、有人の「受け入れライン」に運ばれる。
Amazon.comのサプライチェーンの要となるのがFCだ。大手消費財メーカーや小規模事業者から商品を受け取り、商品を保管、ピッキング、梱包した後、必要に応じて英国各地の配送センターに送る。
受け入れラインの従業員は、商品を黒いトートボックスに入れ、コンベヤーで上階の「収納ステーション」に送る。収納ステーションの従業員は、システムの指示に従って商品を「ポッド」と呼ばれる保管場所に入れる。各商品の収納位置は、システムによって指定される。
ポッドは、注文があるまで在庫を保管しておく場所で、自動誘導ロボット(AGR:Automated Guided Robot)の上に設置される。AGRは、必要に応じて商品をピッキングできる位置に移動するようにプログラムされている。AGRは常時稼働しており、充電が必要になると自動的に充電ステーションに戻る。
Amazon.comは2012年、ロボットメーカーKiva Systemsを買収した。AGRは、Kiva Systemsの技術を活用している。Amazon.comが「ヘラクレス」と呼ぶAGRは、1台で数百kgの荷物を持ち運びでき、床面に貼られたQRコードを頼りに施設内を移動する。
各フロアには複数のエンジニアがおり、AGRを管理する担当者と機械全般の担当者に分かれている。ポッドが配置された区画に入るには、専用のベストを着用しなければならない。ベストを着用したエンジニアがAGRが接近すると自動的に停止する仕様だ。Amazon.comは、敷地内でのフォークリフトの使用を最小限に抑え、FCの安全性を確保する取り組みもしている。
FCではさまざまな雇用形態の従業員が働いている。BRS2の総支配人であるデイビッド・ティンダル氏は「自動化によって、倉庫内の作業はより安全で快適になる」と述べる。ティンダル氏によると、こうした技術を導入した結果、従業員はより専門的な仕事に従事できるという。
ティンダル氏が注目する技術は「ソーター」だ。商品を次の配送先に向けてコンベヤーから適切に振り分ける装置のことだ。さらに革新的な技術として、画像処理を通じて対象の内容を認識し、理解するAI技術「コンピュータビジョン」も導入した。コンピュータビジョンを活用し、出荷前に商品や梱包の不具合をチェックする。
BRS2では、物流プロセスの自動化を手掛けるSICK製のセンサーをコンベヤー上部に設置している。このセンサーによって、商品を出荷していいかどうかを自動的に判断したり、問題が発生する前に懸念点を特定したりすることができる。
このシステムは2023年5月、米国のAmzon.comの施設で導入が始まり、英国ではBRS2で初めて導入された。ティンダル氏によると、テープの剥がれなどの梱包の不備や、プリンタの不具合によって起きるラベルの異常などを効果的に検出できる。
「チェックをしなければ、梱包に不備のある商品が顧客の手元に届く可能性があるが、こうした技術によって、人手を介さずに問題を防げる。問題の原因を特定することも可能だ」(ティンダル氏)
この技術は、Amazon.comの迅速かつ信頼性のあるサービスを支えている。BRS2では、週に数百万個の荷物を処理している。ティンダル氏は具体的な数字は明かさなかったが、2024年のブラックフライデーからクリスマスまでのピーク期間中、処理された荷物の個数は過去最高を記録した。
BRS2の従業員は、AIに対してどのような姿勢を取っているのか。ティンダル氏は「AIは実質的に『見えない存在』だ」と述べる。「スタッフにとって重要なことは、システムが円滑に動作することだ」(同氏)
ティンダル氏は、全てのマネジャーに対し、生成AIなどの新しいAI技術を試すよう奨励しているという。「全員がAIの基本を知ることで、AIをより活用できるようになる」と考えているためだ。同氏は「AIの長所と短所を学ぶことで、どのような業務で役立つかを見つけやすくなる」と主張する。
ティンダル氏は、BRS2の自動化とAI技術の活用について、「生産性を向上させる画期的な出来事」と評する。顧客への迅速な配送を約束する上で不可欠な技術だという。こうした技術とプロセスは、従業員のフィードバックに基づいて改善されている。
「Amazon.comの強みの一つは、最適なシステムを開発するためにコストを投じることができ、それらを世界中の物流拠点に展開できることだ」(ティンダル氏)
ティンダル氏は、従業員に正確な基準を順守させながら、改善のためのアイデアを生み出す余地も残すという「難しいバランス」についても言及した。同氏は従業員の起業家精神を歓迎しており、筆者が見学中も、同僚たちと頻繁に会話を交わしていた。
商品が、BRS2内の最終工程である梱包ステーションに到着すると、システムが梱包担当者に必要な段ボールの種類を指示する。追加の包装が不要な商品の場合、梱包ステーションの画面に警告が表示される。
Amazon.comは他の小売業者と同様に、過剰な包装による廃棄物について、定期的に批判を受けている。同社は材料の使用を最小限に抑え、商品のサイズに合った包装をするように注力している。
BRS2では導入の計画はないが、Amazon.comは将来的に、英国北東部でドローンを活用した配送を始める見通しだ。ドローンによる配送は、他社も試験的に取り組んでいるが、商用目的に限れば、英国とアイルランドでは初めての取り組みだ。
Amazon.comの発表によると、英国民間航空局(CAA)からドローンの飛行許可を取得する必要がある。許可が下り次第、ドローンによる配送を担う従業員の採用を始める計画だ。
Amazon.comはCAAと協力し、英国での商用ドローン配送を実現するための規制の枠組み作りを進めることを約束している。英国北東部の顧客は、Amazon.comのアプリケーションやWebサイトから特定の商品を注文し、ドローン配送を利用することが可能になる見通しだ。
FCでの自動化やドローン配送といった事例は、Amazon.comが長らく歩んできた自動化の取り組みの一歩に過ぎない。
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