Windows 10サポート切れ後は「AI PCなど要らない」とは言えなくなる理由AI PCへの移行と新たな調達モデル【前編】

AI技術に対応した「AI PC」が登場し、企業のIT調達にも変化の兆しが見え始めた。AI PCの普及はこれから加速するのか。企業のIT調達における期待と、現実的な課題を整理する。

2025年07月22日 07時15分 公開
[Carmen EneTechTarget]

 PCは今、AI(人工知能)技術が浸透する中で新たな変革の入り口に立っている。AI技術の処理のための機能を標準搭載する「AI PC」が登場し、仕事に使われる一般的なPC像が再定義されようとしている。これは、われわれが過去に経験した幾つかの大きな変革期に匹敵するか、それ以上の大きな意味を持つ。

 例えば2010年代初頭に台頭したクラウドストレージは、データ管理を根本から変えた。物理的な資産だったデータは、誰でもすぐにアクセスしたり共有したりできる動的なリソースへと進化し、クラウドを基盤とするサービス中心の社会を支える存在となった。そして今、AI技術によってさらに大きな変革が進もうとしているのだ。

 2024年9月末、調査会社GartnerはAI PCの出荷台数が2025年に前年比165.5%増の1億1400万台に達するとの予測を発表した。この急激な普及は、企業のIT投資や調達戦略にも大きな影響を与えることになる。もちろん、AI PCの導入にはコストという大きな障壁があるが、実際にはAI PCに投資しないリスクもあり、普及は進むとの見方が強まっている。

AI PC台頭がこれから企業にもたらす現実

 Gartnerは前述の通り、2025年のAI PCの世界出荷台数が1億1400万台に達すると予測している。これは、2024年の約4300万台から前年比165.5%増という驚異的な成長だ。2025年にはAI PCが全PC出荷台数の約43%を占める見通しであり、大企業にとっては、実質的にAI PCが唯一の選択肢となる可能性もあるという。

 こうした急成長の予測がある一方で、企業がAI PCを導入するに当たっては、従来のPC調達とは異なる幾つかの課題と向き合う必要が出てくる。まずその点から整理しておこう。

 第一に、企業は他のプロジェクトへの投資を圧迫することなく、AI PCを導入できる財政面での余裕を確保することが必要になる。次に、エネルギー効率にも配慮する必要がある。AI対応の最新プロセッサについては、電力消費の抑制に積極的に取り組むベンダーも出てきている。環境への影響を重視する企業であれば、こうした取り組みを取り入れているベンダーを評価し、そうした評価の選択肢が少ないベンダーや、提供モデルが限られるサプライヤーは避けるべきだ。

 AIデバイスは大量のデータを扱うため、廃棄時にデータ漏えいが発生するリスクがあることも考慮する必要がある。こうしたリスクから自社や顧客の情報を守るには、AI PCのライフサイクル全体を追跡、管理することが不可欠だ。

 最後に、AI PCの導入はまだ初期段階にあり、手探りの状態だという点にも注意を払うべきだ。企業は導入したAI PCがどこで、どのように使われているかを正確に把握し、コストや所有状況をきちんと管理しなければならない。そうでなければ、無駄なリソースの消費や余分な出費を招き、AI PCへの投資効果を十分に回収できなくなるリスクがある。

Windows 10の終わりとAI PCへのシフト

 AI PCの導入に当たっては、上述のような幾つかの課題があり手探り状態になるとはいえ、企業がAI PCに移行せざるを得ない現実は確実に浮上してくる。その一因が、2025年10月に予定されているMicrosoftのクライアントOS「Windows 10」のサポート終了だ。仮にAI PCを「時代遅れにならないため」に導入するのであれば、それはハードウェアの刷新の判断だけでは済まされない。Windows 10から「Windows 11」への移行も戦略的に欠かせない材料になると言える。

 もちろん、AI PCやWindows 11へのアップグレードを進めるには、そのための予算確保が必要になることもあるため、財務面でも企業にとっては大きな負担となる。大量のデータを抱えた古いPCを、環境に配慮しつつ安全に廃棄することにも一定のリスクとコストが伴う。こうした課題はあるが、これは実はAI PCの導入が重要であることを支える材料にもなる可能性がある。

 とはいえ、そうした課題を抱えながらも、もはや“非AI PC”に投資し続ける合理性は薄れつつある。たとえAI PCの利点がまだ広く理解されていなくても、コスト抑制を重視する企業であっても、数年以内に時代遅れになるリスクがある従来の非AI PCには、もはや安心して資金を投じられない状況もあるのだ。重要なのは、企業がWindows 10搭載PCを廃棄し、AI PCへ切り替えるという判断はいま、極めて現実的な選択肢として浮上しているということだ。

 Gartnerは「企業にとっての問題は、AI PCを導入するかどうかではなく、どのAI PCを選ぶかだ」と指摘している。

 ただし、AI PCが近い将来により身近で現実的な選択肢になっていく可能性がある一方で、すぐに導入予算を確保したり、セキュリティを含めた体制整備を進めるのは容易ではないという現実もあるのは確かだ。AI PCがどの程度まで普及するかについては、現時点で断定することは難しい。


 次回は、Windows 10搭載PCの廃棄やAI PCへの投資の影響を踏まえて、新たに浮上する可能性のある選択肢を紹介する。

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