「AI PC」は何がすごい? PCユーザーなら誰もが喜ぶそのメリットAI PCの時代に備える【前編】

さまざまなベンダーが「AI PC」に関する戦略や製品を打ち出す中で、2024年は「AI PC元年」だと言える。AI PCの概念とは何か。企業にどのようなメリットをもたらし、業務をどう変えるのか。

2024年07月23日 08時00分 公開
[Andrew HewittTechTarget]

 2024年1月にラスベガスで開催された「Consumer Electronics Show」(CES)で注目を集めたのは、人工知能(AI)技術関連のタスク(AIワークロード)を実行可能なPCだった。Dell、Hewlett Packard(HP)、LenovoなどのPCベンダー、Intel、AMD(Advanced Micro Devices)、NVIDIAなどの半導体ベンダーは、「『AI PC』元年」とも言える年を迎えるに当たって、さまざまな革新的技術を発表した。AI PCとは何なのか。企業にどのような利益をもたらすのか。そうした疑問への答えを探る。

結局「AI PC」のメリットとは何か?

 2022年11月にAIチャットbot(AI技術を活用したチャットbot)「ChatGPT」が登場して以降、AI技術は企業の関心を集め続けている。企業の経営陣は、テキストや画像を自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)を活用して自社に利益をもたらす方法を模索中だ。IT部門と業務部門の責任者も、従業員の業務効率を上げるために、コンテンツ作成や会議の文字起こし、コーディングなどにおける生成AI活用に目を向けている。

 Web会議での映像の背景ぼかしや音声ノイズ除去といった機能に対するAI技術活用は、これまでもデバイスで実行されてきた。一方で大規模なAIモデルによる処理は、依然としてクラウドサービスで実行する必要があった。

 AI PCの登場によって、AIモデルの利用がクラウドサービスに限られていた時代は去り、任意のOSを搭載するローカルデバイスにもAIモデルが持ち込まれることになる。だがAI PCとは正確にはどのようなものなのか。Forrester Researchは「CPU、GPU(グラフィックス処理装置)、NPU(Neural Processing Unit)を使って、AIワークロードの処理速度を向上させるよう設計されたSoCやアルゴリズムを組み込んだPC」と定義する。

 市場には既にAI PCが出回っており、企業での実用化に向けて準備が整っているAIワークロード用SoC(統合型プロセッサ)も複数ある。AI PCは、クリエイターやデータサイエンティスト、開発者などの高いコンピューティング能力を必要とする職種に大きな恩恵をもたらすと調査会社Forrester Researchは考える。具体的にどのような恩恵があるのかを見ていこう。

ハードウェアとの連携

 クラウドサービスとして提供される生成AIツールをローカルPCで実行できるようになれば、生成AIツールとカメラやマイクなどのローカルハードウェアがより短時間で連携できるようになる可能性がある。こうした仕組みの実現は、ソフトウェア開発者やクリエイターにとってのAI PCの新たな利用例を生む機会につながる。

クリエイティブツールでの応用

 オープンソースの音楽製作ソフトウェア「Audacity」は、AI技術を活用しているクリエイティブなツールの例だ。AudacityはIntelの協力を得て、AI技術を活用したオーディオ作成機能を提供している。具体的には以下の機能を有する。

  • テキストからオーディオを作成する機能
  • 楽曲のボーカルや楽器別にパートを分割する機能
  • 音声のリアルタイム文字起こし

 別の例が、写真および動画加工用ソフトウェアを提供するTopaz Labsの取り組みだ。Topaz LabsはAMDのSoC「AMD Ryzen AI」を利用して、動画や写真を加工する機能をローカルPCで実行できるようにしている。

Web会議体験の改善

 AI PCは、Web会議の体験の改善にも貢献する。AIワークロード用SoCは、CPUやGPU、NPUといった異なる種類の処理装置にコンピューティングリソースを分配し、効率的に使用できるようにする。こうした処理は、以下の機能の処理速度向上に役立つ。

  • 映像背景のぼかし
  • 音声ノイズ除去
  • 視線補正
  • オートフレーミング
  • 照明調整
  • デジタルアバターの適用

パフォーマンスと寿命の最適化

 AI PCには、デバイスのパフォーマンスと寿命を最適化するメリットもある。これまでのPCでもAIモデルを実行することは可能だったが、バッテリーの寿命を急速に消耗する恐れがあった。NPUを搭載することによって、AIワークロードを処理し続けている間のバッテリー寿命を維持できるようになる。AI PCでは、デバイス内のAIアルゴリズムがクロック速度や冷却ファン、発熱などの監視データを基に、各部品のパフォーマンスを最適化する。こうした仕組みはデバイスの故障を減らす上で有効だ。ローカルでAIモデルを稼働させることは、クラウドサービス版のようにインターネット接続環境がなくても利用できる他、全体的な応答時間が短くなる可能性もある。

行動を学習した最適化

 時間の経過とともに、AI PCはエンドユーザーの好みや行動を学習する。例えばマイクを通じてアクセントや会話のパターンといった個人の特徴を通じて、より適切な返信メールを作成できるようになる。個人の行動を学習して、注意を散漫にするコンテンツをフィルタリングしたり、重要な見込み客からのメールを営業担当者に伝えたりといったことも可能だ。Forrester Researchは、エンドユーザーの生産性を向上させるために、AI PCが1日の最適なスケジュールを提案するようになると見込む。

健康の促進

 個人に合わせたPC体験を提供し、エンドユーザーの健康維持をサポートできる点もメリットだ。ブルーライトカット機能付きディスプレイ、体内時計に合わせた調光機能、有害光への露出を抑制する配色機能といった機能は既存のものだ。AI技術はこうした効果をさらに強化し、以下の機能を提供できる。

  • 会議時の姿勢に基づいて体の負担を軽減する調整を提案する機能
  • 休憩時間でのストレッチを推奨する機能
  • 聴覚に問題があるエンドユーザー向けの、音声を自動でテキストに変換する機能

 次回は、AI PCが企業に普及するかどうかの見通しを紹介する。

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