現代の開発においてKubernetesは欠かせない存在だ。一方で、その導入や運用には幾つかの落とし穴が潜んでいる。Kubernetes導入のベストプラクティスとワーストプラクティスを紹介する。
アジリティ(俊敏性)とスケーラビリティ(拡張性)を重視する現代のアプリケーション開発において、コンテナ管理ツール「Kubernetes」は欠かせない存在となりつつある。一方で、Kubernetesの運用には一定の複雑さが伴う。企業はそのメリットだけでなく、運用上の課題についても理解する必要がある。
本稿は、Nutanixでアジア太平洋および日本担当の最高技術責任者(CTO)を務めるダルユーシュ・アシュジャリ氏のインタビューを基に、Kubernetes運用において陥りやすいワーストプラクティスと、それを回避するためのベストプラクティスを整理する。
Kubernetes導入における代表的なワーストプラクティスは以下の通り。
コンテナの大きな利点は「移植性」だが、特定のクラウドベンダー固有のサービスや構成に依存してしまうと、移植性――ひいてはKubernetes導入のメリットが損なわれる。移植性を実現するには、設計段階からの工夫が必要だ。
「特にマイクロサービスは、移植性を前提に設計されていない場合、複数クラウド間でシームレスに稼働させるのは難しい」とアシュジャリ氏は指摘する。マイクロサービスは、クラウドサービスの中核として、セキュリティや可観測性(オブザーバビリティ)などの重要な機能を担う。ただし、クラウドベンダーが提供するマイクロサービスは独自仕様が多く、他クラウドサービスへの移行時にリファクタリング(再設計)が必要になるケースが多い。
近年、コンテナ化されたワークロード(特定のシステムやアプリケーションに関するタスクや処理)をプライベートクラウドやオンプレミスシステムで運用する傾向が企業の間で強まっている。背景には、データ主権(データの制御や管理に関する権利)、セキュリティ、管理権限の確保といったニーズの高まりがある。
企業はまずパブリッククラウドでKubernetesを導入する傾向にあるが、その際に特定のサービスや構成に依存してしまうと、パブリッククラウドからプライベートクラウドへのワークロード移行が非常に困難になる。
導入当初の構築や展開(Day1)に比べ、運用開始後の管理(Day2)を軽視するケースも少なくない。一度コンテナ化されたアプリケーションを本番環境にデプロイ(展開)した後は、特に大規模なマイクロサービス群の場合、継続的な監視、アップデート、スケール(拡張)が求められる。
Day2の準備が不足していると、運用コストの増大やパフォーマンス低下といった問題に直面する恐れがある。
モダンな開発環境では、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)経由でリソースを即時にプロビジョニング(立ち上げ)できることから、「開発が簡単なら運用も同様に簡単だ」と誤解されがちだ。
しかし、開発と運用では求められる視点と責任範囲が異なる。開発者がアプリケーションを迅速に作る一方で、インフラチームはその基盤の安定性と可用性を担保しなければならない。この役割の非対称性が、本番運用時に摩擦を生む要因となる。
モダンアプリケーションは多数のコンポーネント(部品)で構成され、それぞれに独立したライフサイクルが存在するため、ライフサイクル管理の難度は極めて高い。このため、プラットフォームエンジニアリングチームによる横断的な管理体制とリソースの確保が不可欠となる。
個人開発者が独自に構築したコンポーネントに過度に依存すると、保守性や将来的な引き継ぎで大きな課題を抱えることになる。これは、特に金融や医療といった高いコンプライアンスが求められる業界で大きな懸念となる。
アシュジャリ氏は「技術選定にはレガシー時代と同様に保守性、移植性、依存性の観点を重視すべきだ」と強調する。そのためにも、プラットフォームエンジニアリングの知見を早い段階から取り入れることが重要だ。
Kubernetesの課題を克服するためのベストプラクティスは以下の通り。
「Kubernetesが普及したとはいえ、従来型のオンプレミスシステムを捨ててクラウドネイティブ環境に完全移行した企業はほとんどいない」とアシュジャリ氏は話す。既存のソフトウェアは安定して稼働しており、運用ノウハウやコスト・リスク管理体制も確立されている。そのため大半の企業は、既存のレガシーアプリケーションを引き続き利用する傾向にある。一方で、KubernetesやDockerといったコンテナ管理ツールの「移植性」「柔軟性」「オープン性」といった現代的なメリットも取り入れたいというニーズが高まっているのも事実だ。
アシュジャリ氏は「レーシングカー」になぞらえて、必要に応じて最適な機能や環境を自由に組み合わせられる柔軟性を持つことの重要性を強調する。つまり、全てのパーツを自ら選んで組み立てる方法もあれば、完成車を購入する方法もある。シャーシ(車体の骨格)だけを購入して、自分に合った最適な部品を組み合わせるという選択肢もある、ということだ。
システム開発でこのシャーシに該当するのが、Nutanixが提供する統合管理基盤だ。レガシーアプリケーションとモダンアプリケーションの両方を一元的に管理できるコントロールプレーンを提供し、オンプレミスシステムとクラウドサービスを併用するハイブリッド環境へのスムーズな移行を支援する。既存のアプリケーションをリファクタリングすることなくパブリッククラウドにデプロイ(配備)したり、そこからストレージやセキュリティなどの管理機能にアクセスしたりすることも可能だ。
モダンアプリケーションで成果を上げている企業には、ある共通点がある。それは、コンテナ環境におけるライフサイクル管理の重要性を深く理解していることだ。アシュジャリ氏によれば、Kubernetes導入を成功させるための鍵は、「ライフサイクル管理をいかにシンプルにできるか」にある。
このライフサイクル管理の最適化を支援する技術の一例が、Nutanixのハイパーコンバージドインフラ(HCI)だ。同社が提供する「ワンクリックによるライフサイクル管理機能」は、運用の負荷やダウンタイム(停止時間)を抑えながら、インフラスタック全体をアップデートできる点が特長だ。これにより、IT部門は複雑な運用プロセスから解放され、リソースをより戦略的な領域に集中させることができる。
従業員のスキルアップも重要な要素だ。クラウドネイティブ世代のエンジニアは、APIやCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)といった開発手法には精通している一方で、ネットワーク構成、ストレージ、データ管理などの基盤技術の経験に乏しいことがある。
一方で、従来型のアプリケーション開発に長年携わってきたエンジニアは、こうしたインフラ領域に深い知見を持つ。この知識は、プライベートクラウドでモダンアプリケーション展開を効率化し、実装時間を短縮する上で役立つ。その結果、予算超過のリスクも軽減できる。
アップスキリングは単なるスキル強化ではなく、組織内に蓄積された暗黙知を生かし、変化の速いクラウド時代においても競争力を維持する手段でもある。
従来型のアプリケーションに精通したエンジニアは、ビジネス価値や投資対効果(ROI)への意識が高い傾向にある。一方で、クラウドネイティブエンジニアは、迅速かつ柔軟な開発環境に慣れ親しんでおり、スピード重視の視点を持っている。この2つの視点をバランスよく組み合わせることで、技術とビジネスの両面から最適な成果を引き出すことができる。
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