メタバースが人気にならない原因はやはり“あれ”?メタバースのこれからを探る【前編】

世間の注目を集めてきたメタバースだが、いまだに広く普及しているとは言い難い。その原因はやはり“あれ”なのか。今後どのような展開が待っているのだろうか。

2025年01月13日 08時00分 公開
[Martin SchwirnTechTarget]

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 2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が発生したことを契機に、テレワークが急速に普及した。その状況下で、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を使ったものなどさまざまなコラボレーションツールが登場している。

 中でも注目を集めてきたのが仮想空間「メタバース」だ。メタバースは従来よりも効果的でインタラクティブ(双方向性があること)なコラボレーションを実現すると期待されているものの、当初の期待ほどには普及していないのが現状だ。その原因とは何なのか。

メタバースが人気にならない“あの原因”

 AR/VR技術は、直感的かつイマーシブ(没入感があること)な体験を提供し、物理的に離れた場所でもチームのコラボレーションを可能にする。例えば、現場での作業状況を、AR/VR技術を用いて遠隔地のチームとリアルタイムで共有し、的確な指示や判断を仰ぐことができる。

 こうしたAR/VR技術の活用方法に対する期待感は高まっているものの、日常生活やビジネスで広く普及するには、まだ時間がかかると見込まれる。書籍『The Metaverse: And How It Will Revolutionize Everything』(メタバースは万物にいかに革命を起こすか)の著者マシュー・ボール氏は、「土木、工業デザイン、実地訓練といった用途でXR(Extended Reality、ARやXRの総称)技術は既に活用が進んでいる」と話す。一方で、「今のところ、一般の人や企業がAR/VR技術を使いたいと感じるようなキラーアプリケーションはまだ存在しない」とも言及する。

 特に課題となるのがハードウェア面の制約だ。ヘッドセットのサイズや重量、バッテリーといった課題が、消費者への普及を阻んでいる。これらの懸念を補うほどのメリットを感じられないためだ。

 加えて、ヘッドセット使用時に酔いや目の疲れを感じる、いわゆる「VR酔い」も課題の一つだ。こうした症状は「輻輳調節矛盾」によって引き起こされる。つまり、現実世界では、物体を立体的に捉える目の動き(輻輳)とピント調整(調節)は自然に一致するが、仮想空間ではこれが一致しづらく、違和感や疲労を引き起こす。こうした課題を解消するために、バリフォーカル(可変焦点)レンズなどの新しいディスプレイ技術が開発されているが、実用化にはまだ至っていない。

 ヘッドセットの重さやバランスも課題だ。特に前方に重さが偏った設計では、長時間の使用が首や肩に負担をかけ、使用感を損なう。サイズの小型化、演算能力の強化、バッテリー持続時間の向上、発熱の抑制など、多岐にわたる技術的改善が必要だ。使いやすさや快適性だけでなく、コスト面への配慮も求められる。

 こうした課題が残る一方で、ヘッドセット技術は着実に進化を遂げており、より効果的で革新的なコラボレーションの実現に向けた貢献が期待されている。その具体的な進化は以下の通り。

  • 周囲の環境認識
    • ヘッドセット内蔵のカメラを通して、装着中も周囲の環境を把握できるようにする。これにより、使用中の事故や物損リスクを軽減できる。混合現実(MR)環境では、現地とオンライン両方から参加するチームメンバーの顔が見えるため、より自然なやりとりが可能になる。
  • トラッキング技術
    • 手と目の動きをより高度に追跡する能力によって、仮想オブジェクト(仮想世界における物体などの構成要素)をスムーズに操作できるようになり、共同作業での利便性が向上する。
    • 顔の表情やまばたきといった細やかな動きを再現し、メンバーの反応を可視化することで、より直感的かつ効果的なインタラクション(相互のやりとり)が可能となる。

 後編は、「空間コンピューティング」について解説する。

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