「OpenUSDの未来」を見据えるNVIDIA “次なる野心”はメタバース?仮想空間には何が足りないのか

NVIDIAはメタバース開発向けのAIサービスを2024年7月に発表した。中々普及が進まないメタバースの市場に、NVIDIAはどのような変革を起こそうとしているのか。

2024年09月17日 07時00分 公開
[Esther AjaoTechTarget]

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 半導体ベンダーNVIDIAは2024年7月、コンピュータグラフィックスのカンファレンスSIGGRAPHで、同社のマイクロサービス群「NVIDIA NIM」に人工知能(AI)サービスを追加したことを強調した。同社が追加したサービスは、3D(3次元)コンテンツの設計や管理向けの標準規格「OpenUSD」(Open Universal Scene Description)に最適化されている。NVIDIAのこの新たな取り組みは、仮想空間「メタバース」の市場にどのような影響をもたらす可能性があるのか。

NVIDIAの次なる野心はメタバース? その焦点とは

 NVIDIA NIMを使えば、自社のプラットフォーム上でカスタムアプリケーションを開発し、メタバースに展開できるようになる。AIアシスタントや自動化ツールをワークフローに組み込むことも可能で、開発者は3Dデータをより簡単に扱えるようになる。

 OpenUSD に関するNVIDIA NIMのマイクロサービスは以下の3つだ。

  • USD Code NIM
    • OpenUSDに関する質問に答えたり、自然言語のプロンプトに基づいて「Python」ソースコードを生成したりする。ソースコードは、3Dデータの視覚化に用いられる。
  • USD Search NIM
    • 自然言語や画像を用いて、大量のOpenUSDデータや画像データの中から検索する。
  • USD Validate NIM
    • アップロードされたファイルが最新のOpenUSDバージョンと互換性があるかをチェックする。

 これらはいずれもプレビュー版が提供されている。他にもNVIDIAは、以下のようなマイクロサービスを今後提供する計画だ。

  • USD Layout NIM
    • テキストプロンプト(生成AIに入力する質問や指示)を基に、3Dモデルやオブジェクトを作成し、仮想空間内に配置する。
  • USD SmartMaterial NIM
    • 3Dモデルに自動的に最適な素材やテクスチャ(質感)を適用する。
  • fVDB Mesh Generation NIM
    • 現実世界をAI技術で仮想的に表現するための深層学習フレームワーク「fVDB」を用いて、3Dオブジェクトの複雑な形状を表現する。

メタバース市場の課題とは?

 急速なブームを巻き起こした生成AIとは異なり、メタバースはいまだに広く使われているとは言い難い。メタバースは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)向けのヘッドセットに依存している他、「デジタルツイン」(現実の物体や物理現象を仮想空間上にデータで再現したもの)など一部の産業用途でしか使われていない。

 このような状況下で、NVIDIAがNVIDIA NIMのマイクロサービスを拡充したことは何を意味するのか。「NVIDIAは生成AI分野に注力する一方、メタバースなどの仮想世界とロボティクスなどの物質的な世界の両方で野心的な目標を持っていることが分かる」。調査会社Forrester Researchでアナリストを務めるチャーリー・ダイ氏はこう説明する。

 ダイ氏によれば、ユーザーが仮想世界を構築できるツール「NVIDIA Omniverse」は、NVIDIAのメタバース戦略の中心であり続けている。NIMマイクロサービスは、その行程における足掛かりの一つに過ぎないという。

 メタバースに関する大きな課題の一つは、仮想環境向けのスケーラブルなインフラやコンピューティング、ストレージ、データなどを統合するための標準化が進んでいないことだ。そのため、OpenUSDのような3Dデータ交換フォーマット(複数のプラットフォームで3Dコンテンツを利用できる形式)を用いて仮想環境を統合することは、現在のインフラや技術では難しいとされている。

 NVIDIAはこの課題に立ち向かうため、メタバースやロボティクス、産業デザイン、デジタルツインなど幅広い分野に向けてNVIDIA NIMを提供するのが狙いだ。特にUSD Code NIMは、複雑な仮想世界の可視化やシミュレーションに役立ち、かつては開発が困難だった「仮想世界の実現」を推し進めているとダイ氏は話す。

 調査会社Constellation Researchでアナリストを務めるアンディ・トゥライ氏によると、NVIDIAにとって最大の課題は「普及の難しさ」だ。同社が対象とする産業分野は非常に広範で、それぞれ異なる独自の技術や標準規格を持っている。そのため、顧客に説得して採用してもらうのは極めて難しいとトゥライ氏は考えている。一方で、こうした取り組みを支援する動きも活発になっている。2023年8月には非営利団体「Alliance for OpenUSD」が設立され、メタバースをはじめとする先端技術の産業界への普及に取り組んでいる。

 NVIDIAは、生成AI市場の“減速”にも目を向けている。生成AIの試験導入には熱心だった企業も、本格的な採用にちゅうちょするケースが目立つようになってきた。「NVIDIAは、生成AI市場の減速が同社に与える打撃を見越しており、革新を起こすことで引き続き市場をリードしようとしている」とトゥライ氏は話す。

NVIDIAの提携企業も新サービスを発表

 2024年7月、デジタル素材を提供するGetty Imagesは同社の画像生成AIモデルのアップデートを発表した。モデルはNVIDIAのAIフレームワーク「NVIDIA Edify」上に構築されている。これは視覚デザイン向けの生成AIモデルを構築、展開するためのツールで、NVIDIAが提供する生成AI開発キット「Picasso」から利用できる。

 アップデートされたモデルは、Getty Imagesの画像生成AIサービス「Generative AI by iStock」に搭載されている。以下のように機能が強化されている

  • 画像生成時間が約6秒に短縮
  • 生成画像の精緻化
  • より長いプロンプトへの対応
  • 生成画像の撮影タイプや、被写界深度などの調整機能を強化
  • 画像生成だけでなく、既存の画像加工に対応

 他にもNVIDIAは、NVIDIA NIMを活用した「サービスとしての推論」(Inference-as-a-Service)が、AIベンダーHugging Faceから提供されることを発表している。これによって、Hugging Faceの大規模言語モデル(LLM)の推論のスピードや効率性が向上するという。

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