「ローコード」と「スクラッチ」、開発者はどう使い分けるべき?押さえておきたい「ローコード」の基礎知識【後編】

ローコード開発は、効率的で迅速なアプリケーション開発を実現する手法だが、全ての開発ケースに適しているわけではない。ローコード開発とスクラッチ開発それぞれが適するユースケースを解説する。

2025年04月14日 05時00分 公開
[Gerie OwenTechTarget]

 開発効率を向上させる技術として注目を集めている「ローコード開発」だが、従来のスクラッチ開発と単純に二者択一で考えるのではなく、両者の特性を理解しつつ、適切に使い分けることが重要だ。業務プロセスことに最適な開発手法を見極めることが成功への鍵となる。本稿は、ローコード開発とスクラッチ開発それぞれが適する具体的なユースケースを解説する。

「ローコード」と「スクラッチ」、どう使い分ける?

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 ローコード開発が有効なユースケースとして以下のようなものがある。

  • アプリケーションの統合
    • 外部ツールや環境との連携が求められるアプリケーションの統合を、ローコード技術を用いてスムーズに実施できる。特に、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)ベースの統合を必要とする場面で有効だ。
  • 比較的シンプルなWebサイトの構築
    • 静的コンテンツで構成されるシンプルなWebサイトの開発において、HTML、PHP、CSSを手書きでコーディングする必要はほとんどない。ローコード技術を活用すれば、効率よくWebサイトを構築でき、運用や更新の手間も削減できる。
  • BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの開発
    • ビジネス分析に必要なダッシュボードやレポートツールの構築において、ローコード開発ツールは非常に効果的だ。多くのERP(統合基幹業務システム)ツールにはローコード機能が組み込まれており、迅速な開発を支援する。
  • ビジネスプロセスの最適化
    • 顧客データの収集や契約の承認など、単純なビジネスプロセスを支援するアプリケーションの開発にローコード開発が適している。ローコード機能を備えたビジネスプロセス管理ツールを活用すれば、専門的な開発スキルがなくても業務アプリケーションを構築できる。

スクラッチ開発が向いているケース

 従来のスクラッチ開発が向いているユースケースは以下の通り。

  • 厳格なセキュリティが求められる場合
    • ローコード開発では、特定のセキュリティ基準を満たすことが難しい場合がある。特に、ソースコードが抽象化されているため、スクラッチ開発のようにセキュリティ監査を詳細に実施することが難しい場合もある。
  • 高いパフォーマンスが求められる場合
    • ローコード開発では、アプリケーションのパフォーマンスを最大限引き出すことは難しい傾向にある。高いパフォーマンスを実現するためには、ソースコードを手作業で精査および調整する必要があり、これにはスクラッチ開発が適している。
  • 保守性を重視する場合
    • ローコード開発ツールを提供するベンダーがサービス提供を終了した場合、そのツーを利用して開発したアプリケーションの長期的な保守が困難になるリスクがある。将来的な保守性を重視するプロジェクトではスクラッチ開発が適していると言える。
  • ベンダーロックインのリスクを避けたい場合
    • ローコード開発ツールに依存することで、特定の環境にしかデプロイ(配備)できない、もしくは異なる環境への移行が困難になる可能性がある。スクラッチ開発を採用すれば、環境選択の柔軟性が高まり、将来的な自由度を確保できる。

スクラッチ開発とローコード開発の境界線

 大半の開発者は、既に一部のワークロードにローコード技術を取り入れている。例えば、IDE(統合開発環境)のソースコード自動補完機能や、変数名の自動入力機能は、広義ではローコード技術と言える。外部モジュールやサードパーティーのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を利用して機能を統合する手法も、ローコード開発に近しい考え方だと言える。このように、スクラッチ開発に依存せずに、既存の技術を適切に活用することで、開発効率を高めることが可能だ。

 「WordPress」「Drupal」などのCMS(コンテンツ管理システム)も、ローコード開発とスクラッチ開発の境目を曖昧にする一例で、ほぼコーディングの必要なく基本的なWebサイトを構築することが可能だ。

 一方で、大規模なeコマース(EC:電子商取引)サイトやソーシャルメディアハブ(複数のSNSを集約したWebサイト)など、高度なカスタマイズが求められる場合では、スクラッチ開発が適している。

 開発プロジェクトの多くは、スクラッチ開発とローコード開発のハイブリッドアプローチが適している。近年、開発ツールはローコード向け機能を強調しているが、ローコード開発だけでは、企業のニーズを完全に満たすことは難しいと考えられる。

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