結局何が違う? 「ローコード」と「スクラッチ」それぞれの長所と短所押さえておきたい「ローコード」の基礎知識【中編】

ローコード開発とスクラッチ開発それぞれのメリットとデメリットを解説する。プロジェクトの特性や目標に応じて、最適な開発アプローチを選択するための参考にしよう。

2025年04月07日 05時00分 公開
[Gerie OwenTechTarget]

 「ローコード開発」は、従来のスクラッチ開発と比較して、開発者が記述するソースコードの量を大幅に削減できる手法だ。とはいえ、「ローコード開発とスクラッチ開発のどちらかを選ぶべきか」といった単純な問題ではない。

 ローコード開発とスクラッチ開発はそれぞれ異なる特徴と役割を持ち、同じ開発プロジェクトの中で両者を組み合わせることも一般的だ。本稿は、ローコード開発とスクラッチ開発それぞれの長所・短所を比較する。プロジェクトに最適なアプローチを見つけるための参考にされたい。

「ローコード開発」と「スクラッチ開発」それぞれの長所と短所

 ローコード開発の長所と短所は以下の通り。

長所

  • 開発スピードの向上
    • ローコード開発ツールは、事前に構築されたモジュールやテンプレート、自動化機能、ドラッグアンドドロップなどのビジュアルコーディング機能を備え、手作業によるコーディング量を削減し、アプリケーション開発のスピードを大幅に向上させることができる。
  • 開発コストの削減
    • ローコード開発で開発プロセスを効率化し、市場投入までの時間を短縮することで、全体の開発コストを削減できる。
  • 再利用性の向上
    • ローコード開発で使用するモジュールは再利用が可能なため、別のプロジェクトや他のアプリケーションでも活用しやすい。ただし、同じローコード開発ツール内での使用に限定される場合がある。
  • システム連携の容易さ
    • ローコード開発で使用するモジュールは、ERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客関係管理)などのSaaS(Software as a Service)製品と連携しやすいという特徴がある。これにより、機能の追加や変更などに迅速に対処できる。
  • ビジネス価値との整合性
    • ローコード開発ではソースコードの記述に割く労力を抑えることができ、よりビジネス要件に焦点を当てた開発が可能だ。

短所

  • パフォーマンスの低下
    • ローコードで開発したアプリケーションは、スクラッチ開発で最適化されたアプリケーションと比べて、性能や信頼性に劣る場合がある。自動生成されたソースコードは汎用性を重視して設計されているため、特定のアプリケーションや開発環境に最適化されていない。
  • カスタマイズ性の制約
    • ローコード開発ツールでは、アプリケーションの設計や動作のカスタマイズに制限があるため、特に複雑なエンドツーエンドのワークフローを持つレガシーシステムとの連携が難しい場合がある。
  • デプロイの制限
    • 一部のローコード開発ツールでは、特定のクラウドサービスにしかデプロイ(配備)できないといった制約があるため、柔軟なデプロイメントを求める企業には不向きな場合がある。
  • スキル不足のリスク
    • ローコード開発はノーコード開発と異なり、基本的なアプリケーション設計に関する知識や、最低限のコーディングスキルが求められる。特にローコードIDE(統合開発環境)は複雑な設定が必要であり、業務部門のユーザーでは扱えないこともある。その結果、外部のプログラマーや開発ベンダーの支援が必要になる場合もある。
  • 規制対応の難しさ
    • ローコード開発ツールのほとんどはSaaS製品であり、規制や要件を満たすために必要な情報へのアクセスが制限されている場合がある。これにより、開発、テスト、文書化のコンプライアンス要件をクリアすることが難しくなるリスクがある。

スクラッチ開発の長所と短所

 スクラッチ開発の長所と短所は以下の通り。

長所 

  • 高い制御性
    1. 開発者はソースコードの記述方法やアプリケーション構造を自由に設計できるため、細部まで制御が可能だ。特定の要件や複雑な機能にも柔軟に対処できる。
  • 柔軟性の高さ
    1. 使用できるプログラミング言語や開発プラットフォームに制限がないため、スケーラビリティ(拡張性)を確保しやすい。例えば、機能追加時にパフォーマンスが劣化するリスクを抑えることができる。
  • デプロイの自由度
    1. 開発者はアプリケーションを任意の環境にデプロイできるため、特定のプラットフォームに依存しない。特にモバイルアプリケーション開発では、複数のOSやデバイスに対応する柔軟性が求められるため、この柔軟性が重要になる。
  • 規制対応のしやすさ
    1. 連携するデータやシステムを自由に設定できるため、業界ごとの規制要件を満たしやすい。複雑かつ厳しいコンプライアンス要件を求められる分野でも、適切にカスタマイズすることが可能だ。

短所

  • 開発に時間がかかる
    • 手作業によるプログラミングは、ローコード開発ツールでソースコードを自動生成する場合と比べて、開発時間や労力がかかる。複数の開発環境に対応するようソースコードを調整したり、アプリケーションと他サービス間のインタフェースを構築する際にも時間が必要となる。
  • 専門人材が必要
    • 特定のプログラミング言語や開発ツールに関する高度な専門知識が求められるため、対応できる人材が限られる場合がある。特にレガシーアプリケーションでは、もともとの開発者が既に退職しているケースも多く、適切なスキルを持つ人材の確保が難しくなることがある。

 次回は、ローコード開発とスクラッチ開発をどのように使い分けるのか解説する。

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