JR西日本の「AIアプリ内製化」を支えた“ローコード開発ツール”とは?データ分析ニュースフラッシュ

企業は「生成AI」を人材不足解消にどう役立てているのか。JR西日本のAIアプリケーション内製開発や、北海道文化放送の「Amazon Bedrock」活用、静岡銀行のAIチャットbot導入などの事例を紹介する。

2024年06月28日 05時00分 公開
[梅本貴音TechTargetジャパン]

 テキストや画像を自動生成するAI(人工知能)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)の導入が幅広い業界で進んでいる。特に、業務に必要なスキルや経験を持つ人材の不足がますます深刻化する中で、業務の効率化やベテラン従業員の技術継承などの用途に大きな関心が集まっている。

 本稿は、西日本旅客鉄道(JR西日本)のAIアプリケーション内製開発、北海道文化放送の生成AIを用いた業務変革、静岡銀行のAIチャットbot導入など、生成AIの事例に関するニュースを紹介する。3社の取り組みから、生成AIを活用してビジネスの競争力を高めていくためのヒントを探る。

JR西日本が「AIアプリ内製化」に選んだツールとは?

 JR西日本は2023年7月、AIアプリケーション「MIRAI」を内製開発した。このアプリケーションは券売機など駅設備のトラブル発生時に、生成AIがその解決案を駅員に提示するものだ。Microsoftのローコード開発ツール「Microsoft Power Platform」(以下、Power Platform)とAIサービス「Azure OpenAI Service」(注1)で構築している。駅員がPower Platformにトラブルの内容を入力すると、生成AIがその内容からキーワードを抽出。ローコード開発で使えるデータベース「Microsoft Dataverse」でキーワードに関連するナレッジを検索し、要約した結果を出力するといった仕組みだ。2023年12月から一部の駅で実験的に導入し、初動やトラブル対処完了までにかかる時間を大幅削減した。JR西日本は現場主導型の市民開発(事業部門など非技術者による開発)に注力している。Power Platformを導入した2022年7月から2024年5月までで、アプリケーション作成者は900人、作成本数は1200本以上に上ると。Power Platformを選定した決め手として同社は、全社員が利用するMicrosoftのサブスクリプションサービス「Microsoft 365」のアカウントからすぐ利用できること、Microsoft製品との親和性が高いこと、学習情報が豊富だったことを挙げている。(発表:Microsoft<2024年5月30日>)

※注1 AIベンダーOpenAIのAIチャットbot「ChatGPT」と同じAIモデルが利用可能なクラウドサービス

北海道文化放送は「Amazon Bedrock」で報道業務をどう変革した?

 北海道文化放送の報道部門には、自治体や企業から毎月1000件以上の報道発表資料(プレスリリース)がFAXで届く。従来は届いた報道発表資料を複合機でPDF化し、報道部員が一通り目を通して取材対象を決めていた。報道部員数の減少と配信コンテンツの増加という問題に直面した同局は、2023年春にクラウドサービス群「Amazon Web Services」(AWS)のサービスを用いて業務自動化アプリケーションを構築した。FAXで届いた報道発表資料を自動でOCR(文字認識)処理した後、生成AIサービス「Amazon Bedrock」(以下、Bedrock)がタイトルと要約文を生成し、データベースサービス「Amazon DynamoDB」に格納する。従来は紙保存のため難しかったキーワード検索が可能となり、情報管理の効率化につながった。取材後は、取材内容のテキストや画像の他、必要に応じてプロンプト(命令文)をBedrockに渡すと3パターンの原稿が生成される。報道部員は生成された原稿を編集するだけでよく、原稿作成の負担が大幅に軽減したという。LLMは、費用対効果とマルチモーダル性(注2)に優れる「Claude3 Sonnet」を使用。LLMのコストは月に約12ドル(使用頻度で変動)。「実力は入社2、3年目の社員に相当する」と同局は評価する。Bedrockの選定理由については、プロンプトをシステムに組み込むことで出力の均一性を確保できる点、幅広いモデルを手軽に試せる点を挙げている。(発表:Amazon Web Services<2024年5月17日>)

※注2 数値や画像、テキスト、音声など複数種類のデータを組み合わせて、あるいは関連付けて処理できることを意味する。

「AIチャットbot」性能向上に向けた静岡銀行の取り組みとは?

 静岡銀行は各営業店で実施してきた事務作業の集約や、店舗の少人数体制への移行といった施策を進めている。それに伴い、行内から毎月3000件以上の問い合わせが発生し、対応に大きな負荷が掛かっていた。2023年7月、同行は業務自動化に向けてPKSHA TechnologyのAIチャットbot「AIヘルプデスク for Microsoft Teams」(以下、AIヘルプデスク)を導入。選定の決め手はAIチャットbotの回答精度の高さと、Microsoft製品との連携機能だ。行員がコラボレーションツール「Microsoft Teams」のAIヘルプデスクに問い合わせると、事前に登録したFAQ(よくある質問とその答え)を基にAIチャットbotが回答する。AIチャットbotでは回答できない難しい問い合わせは人が対処する。これによって問い合わせ対応のうち、3〜4割程度の自動化に成功した。静岡銀行は自動化率をさらに向上させるため「RAG」(注3)の導入を検討。社内文書を基に回答を生成できる仕組みの構築を目指した。同年10月から、AIヘルプデスクの「ドキュメント検索機能」の検証を開始。RAG向けにLLMを調整するPKSHA TechnologyのAI技術「PKSHA LLMS」とChatGPT、Azure OpenAI Serviceで構築し、問い合わせ対応の自動化率向上に貢献する機能だ。2024年より一部業務で本格導入を開始し、自動化率を5割に引き上げた。今後はFAQの充実化とRAGの調整でさらなる効率化を進めるとしている。(発表:PKSHA Technology<2024年6月4日>)

※注3 学習データ以外に外部のデータベースから情報を検索、取得し、LLMが事前学習していない情報も回答できるように補う手法。

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