企業がLLMを活用する際の選択として、“パブリックLLM”ではなく、独自データを用いてトレーニングする「プライベートLLM」に関心が集まり始めている。その背景には何があるのか。活用事例と併せて解説する。
テキストや画像などのデータを生成するAI(人工知能)技術「生成AI」とそのベースとなる大規模言語モデル(LLM)は、ビジネスの競争力を高めるための強力な武器になる。特にこれから企業が関心を寄せる可能性があるのが、“パブリックLLM”ではなく、LLMを自社専用にカスタマイズする「プライベートLLM」だ。その背景と、企業のプライベートLLM開発事例を紹介する。
パブリックLLMは、パブリックデータ(一般公開されたデータ)に基づいてトレーニングされたLLMを指す。パブリックLLMを使用する際、企業は大きく3つの懸念に直面する。
開発者はクラウドサービスで簡単にパブリックLLMを試すことができるが、データ漏えいを防ぐためには注意が必要だ。入力データやトレーニングに使用したデータはLLM提供者のサーバに送信され、処理されることが一般的だからだ。
そのため、パブリックLLMを使用する際は、企業データや個人を特定できる情報を安易に使用しない方が賢明だ。LLMのトレーニングやテストを実施する場合、使用するデータが企業のデータポリシーに準拠しているか、データプライバシー規制に違反する可能性がないか確認する必要がある。
LLMを意思決定システムに使用する場合、開発者は「説明可能性」について考慮する必要がある。独自のLLMはブラックボックスのようなもので、推論エンジンがどのような経緯で回答を導き出すのか、読み解くのが難しいからだ。
LLMの回答精度は、トレーニングデータの質に依存する。トレーニングに使用されるデータセットが完全性や一貫性に欠けている場合、バイアス(偏り)や、LLMが不正確な回答を出力する幻覚(ハルシネーション)といった問題が起こる可能性がある。このような問題を防ぐためには、ハイパーパラメーター(機械学習モデルのトレーニングに使う変数)や回答のニュアンスを調整する必要がある。
パブリックLLMは膨大なパブリックデータに基づいて訓練されるが、企業の独自データにアクセスすることはできない。公開データに基づく推論エンジンは、業界特有のニュアンスや、ビジネスプロセスに関する情報を見逃す可能性がある。
これら3つの懸念から、パブリックLLMの使用を禁止または制限している企業は少なくない。
SAPの最高技術責任者(CTO)ユルゲン・ミュラー氏は、LLMの有用性を認める一方で、その制約がビジネスへの適用を難しくしていると指摘する。「特に、最新情報や企業固有データへのアクセスが欠如している傾向にあり、現場への導入については慎重に検討する必要がある」(ミュラー氏)
健全なLLM活用には、データ漏えい対策や、データの一貫性および完全性の確保が必要だ。このような事情を踏まえて、企業はプライベートLLMに関心を寄せることがある。パブリックLLMと企業独自のデータを組み合わせ、回答精度の向上や安全なLLM利用につなげることができる。
コンサルティング企業PricewaterhouseCoopers(PwC)は、プライベートLLMを構築した企業の一つだ。同社が開発した税務AIアシスタントツールは、判例や法律などの情報を基にトレーニングされている。同社独自の知的財産データと、各情報源を参照する。
税制の変更を反映するために、データは定期的に更新される。PwCは、「開発したLLMは一般的なパブリックLLMと比べて、税務領域における回答精度が大幅に優れている」と説明する。このLLMは参照元データの情報も提供するため、税務における透明性や正確性を確保できる。
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