開発者のためのLLM入門【後編】
「パブリックLLM」を使いたくない企業の“切実な事情”とは
企業がLLMを活用する際の選択として、“パブリックLLM”ではなく、独自データを用いてトレーニングする「プライベートLLM」に関心が集まり始めている。その背景には何があるのか。活用事例と併せて解説する。
テキストや画像などのデータを生成するAI(人工知能)技術「生成AI」とそのベースとなる大規模言語モデル(LLM)は、ビジネスの競争力を高めるための強力な武器になる。特にこれから企業が関心を寄せる可能性があるのが、“パブリックLLM”ではなく、LLMを自社専用にカスタマイズする「プライベートLLM」だ。その背景と、企業のプライベートLLM開発事例を紹介する。
なぜ企業は「パブリックLLM」を使いたくないのか
併せて読みたいお薦め記事
連載:開発者のためのLLM入門
生成AIのリスクを解説
パブリックLLMは、パブリックデータ(一般公開されたデータ)に基づいてトレーニングされたLLMを指す。パブリックLLMを使用する際、企業は大きく3つの懸念に直面する。
1.データプライバシーの懸念
開発者はクラウドサービスで簡単にパブリックLLMを試すことができるが、データ漏えいを防ぐためには注意が必要だ。入力データやトレーニングに使用したデータはLLM提供者のサーバに送信され、処理されることが一般的だからだ。
そのため、パブリックLLMを使用する際は、企業データや個人を特定できる情報を安易に使用しない方が賢明だ。LLMのトレーニングやテストを実施する場合、使用するデータが企業のデータポリシーに準拠しているか、データプライバシー規制に違反する可能性がないか確認する必要がある。
2.透明性の懸念
LLMを意思決定システムに使用する場合、開発者は「説明可能性」について考慮する必要がある。独自のLLMはブラックボックスのようなもので、推論エンジンがどのような経緯で回答を導き出すのか、読み解くのが難しいからだ。
3.回答精度の懸念
LLMの回答精度は、トレーニングデータの質に依存する。トレーニングに使用されるデータセットが完全性や一貫性に欠けている場合、バイアス(偏り)や、LLMが不正確な回答を出力する幻覚(ハルシネーション)といった問題が起こる可能性がある。このような問題を防ぐためには、ハイパーパラメーター(機械学習モデルのトレーニングに使う変数)や回答のニュアンスを調整する必要がある。
パブリックLLMは膨大なパブリックデータに基づいて訓練されるが、企業の独自データにアクセスすることはできない。公開データに基づく推論エンジンは、業界特有のニュアンスや、ビジネスプロセスに関する情報を見逃す可能性がある。
これら3つの懸念から、パブリックLLMの使用を禁止または制限している企業は少なくない。
SAPの最高技術責任者(CTO)ユルゲン・ミュラー氏は、LLMの有用性を認める一方で、その制約がビジネスへの適用を難しくしていると指摘する。「特に、最新情報や企業固有データへのアクセスが欠如している傾向にあり、現場への導入については慎重に検討する必要がある」(ミュラー氏)
プライベートLLMでパブリックLLMのリスクを回避
健全なLLM活用には、データ漏えい対策や、データの一貫性および完全性の確保が必要だ。このような事情を踏まえて、企業はプライベートLLMに関心を寄せることがある。パブリックLLMと企業独自のデータを組み合わせ、回答精度の向上や安全なLLM利用につなげることができる。
コンサルティング企業PricewaterhouseCoopers(PwC)は、プライベートLLMを構築した企業の一つだ。同社が開発した税務AIアシスタントツールは、判例や法律などの情報を基にトレーニングされている。同社独自の知的財産データと、各情報源を参照する。
税制の変更を反映するために、データは定期的に更新される。PwCは、「開発したLLMは一般的なパブリックLLMと比べて、税務領域における回答精度が大幅に優れている」と説明する。このLLMは参照元データの情報も提供するため、税務における透明性や正確性を確保できる。
Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術
米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」攻略ガイド:効率的に落札するためのポイントを徹底解説 -
製品資料
[株式会社うるる] 入札情報に特化した「販路拡大」「効率化」のためのサポートツールとは? -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] 公共入札に成功する企業と失敗する企業の「5つの違い」 -
製品資料
[日本ビジネスシステムズ株式会社] 専門家が教える、Microsoft 365の「テナント統合/分離」を成功に導く秘訣 -
製品資料
[rakumo株式会社] Microsoft 365での情報埋没を防ぐ、社内ナレッジを資産化する情報ポータル活用
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
2
「Microsoft 365」が乗っ取られる MFAを破る“本物の画面”の恐怖
-
3
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
4
世界のデータセンター容量は5カ国に69%集中、電力消費「5%の壁」が招くものとは?
-
5
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
8
Claude利用8割のGMO、AI人材の評価軸が「トークン管理」に変わった
-
9
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
10
AIをデータ保管場所の近くに置くと安全で経済的 それでも残る“破滅的リスク”
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
7
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
8
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
9
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
10
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー