業務プロセス改善に“とりあえずAI技術”は危険 そのリスクと課題とはAI技術がBPMにもたらす変化【後編】

ビジネスプロセスマネジメント(BPM)と人工知能(AI)技術の組み合わせによって得られる価値は幾つもある。しかし運用に際しては注意が必要だ。リスクを正しく理解し、メリットを最大化するヒントを探る。

2024年04月10日 05時00分 公開
[George LawtonTechTarget]

 IT活用とともにビジネスプロセスの改善を目指す「ビジネスプロセスマネジメント」(BPM:Business Process Management)は、人工知能(AI)技術との組み合わせによって飛躍的な進化を遂げている。後編となる本稿は、AI技術のおかげでBPMのアプローチが変化した11個の具体例のうち、9〜11つ目を紹介。AI技術がもたらす価値や、導入時の注意点についても説明する。

9.プロセスマッピング

 プロセスマッピングは業務プロセスを可視化することで、その理解を助け課題を解決する手法だ。プロセスマッピングを自動化するだけでなく、改善や自動化が可能な要素を検出するのにAI技術を活用する事例は既に幾つか登場しているという。データ分析ベンダーDAS42のプリンシパルコンサルタント、ジェフ・スプリンガー氏によると、ある製造業はAI技術を使って生産ラインをリアルタイムで監視。潜在的なボトルネックや異常を特定し、オペレーターに是正措置を通知するようにしている。この結果、生産量が10%増加したという。

10.ビジネスプロセス分析

 ビジネスプロセス分析は従来、専門家による手作業の取り組みと見なされていた。しかしAI技術の登場で、以下の手法を通じた分析と意思決定の工程が加速する可能性がある。サイバーセキュリティコンサルティング企業S-RM Intelligence and Risk Consulting(S-RMの名称で事業展開)の米国事業開発責任者であるスティーブン・ロス氏は、そう説明する。

  • プロセスモデリング
    • 業務プロセスをワークフロー図に起こしプロセスをモデル化する
  • プロセスマイニング
    • システムからログを収集して分析することで業務プロセスを改善する
  • リスク管理とコンプライアンス(法令順守)
  • AI技術が異常やコンプライアンス違反をリアルタイムに検出する

11.チャットbot、バーチャルアシスタント、自然言語処理

 テキストや画像などを自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)と自然言語処理(NLP)の組み合わせによって、AIチャットbotやバーチャルアシスタントが登場した。それらをBPMに統合すると、以下のような業務を自動化したり効率化したりすることが可能となる。

  • 顧客からの問い合わせ応対
  • 従業員へ適切な業務プロセスの提案

 NLPは「顧客からのフィードバック」や「ソーシャルメディアの投稿」といった情報源の非構造化データを分析し、洞察を獲得するのにも役立つ。

AI技術がBPMを通じて業務にもたらす価値とは

 総括すると、AI技術が業務プロセスの改善にもたらす価値とはどのようなものなのか。AI技術活用を支援するGryphon Networks(Gryphon.aiの名称で事業展開)で製品管理のバイスプレジデントを務めていたブライアン・スティール氏は、コールセンターの業務を例に以下を挙げる。

  • 繰り返しの単調なタスクの特定と自動化
    • コールセンターの従業員は顧客とのコミュニケーションに集中でき、結果として顧客満足度が向上する
  • 適切な担当者や部署へ顧客を振り分ける
    • 通話の待機時間を短縮することで、顧客エンゲージメントが向上する可能性がある
  • リアルタイムな支援の提供
    • 顧客が抱える問題をより迅速に、効率的に解決する
  • データ分析による顧客の感情や流行、行動パターンの特定
    • 顧客体験の改善につながる

BPMにAI技術を組み合わせる――その前に

 ただし、BPMとAI技術の組み合わせには、以下のような課題やリスクもある。

  • 生成AIがBPMに具体的にどう役立つのか、具体的な見解はまだない
  • LLMが抱える以下の課題を解決する道筋は立っていない
    • データの精度向上やバイアス(偏見)の除去、再現性の管理、データのプライバシー、ハルシネーション(AIシステムが誤報やゆがんだ情報を生成する現象)
  • 質の低いデータをトレーニングと運用に使うことで何らかの問題を引き起こす可能性がある
  • データのサイロ化(連携せずに孤立した状態になること)
    • 組織内のさまざまな部門やチームが独自にAI技術の活用やデータの生成に取り組むことで、データの重複や整合性を確認しづらくなり、組織全体としてのAI技術やデータの活用が困難になる
  • 専門的なスキルを持つ人材の確保やトレーニングへの費用負担
    • AI技術の活用やBPMの実施には専門的なスキルや知識を必要とするため、新たな人材の登用や従業員のトレーニングが必要となる
  • 従業員の離職
    • 生成AIと自動化技術の導入により業務内容が変わることで、離職を考える従業員が出てくる恐れがある。離職を防ぐためには、その取り組みの中心に従業員を置く必要がある

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