AIのおかげで業務プロセスが“劇的に進化しそう”なのは、あの分野AI技術がBPMにもたらす変化【前編】

IT活用と業務プロセス改善を組み合わせた手法「ビジネスプロセスマネジメント」(BPM)が、人工知能(AI)技術によって新たな展開を見せつつある。AI技術のおかげで劇的な変化が起きている分野とは。

2024年03月27日 05時00分 公開
[George LawtonTechTarget]

 「ビジネスプロセスマネジメント」(BPM:Business Process Management)は、IT活用によってビジネスプロセスの自動化を図るとともに、ビジネスプロセスそのものも見直して改善を目指す考え方だ。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支えてきたBPMは、人工知能(AI)技術の後押しで進化しつつある。

 「AI技術を使って、業務プロセスを効果的に検出したり、業務プロセスを自動化する仕組みを開発したりすることが可能になった」。データ分析ベンダーDAS42のプリンシパルコンサルタント、ジェフ・スプリンガー氏はこう話す。企業のシステムやセンサー、ソーシャルメディアなど、さまざまな情報源から取得したデータの利用が進み、人間だけでは識別することが難しい法則や“成功のパターン”をAI技術で識別できるようになった。

 どのような分野が、「AI技術のおかげでBPMのアプローチが劇的に変化した」のか。本稿は11個の具体例のうち、1~4つ目を紹介する。

1.フロントオフィス業務

会員登録(無料)が必要です

 カスタマーサポートや営業、マーケティングなど、顧客と接点を持つのがフロントオフィス業務だ。コールセンター向けのAI技術活用を支援するGryphon Networks(Gryphon.aiの名称で事業展開)で製品管理のバイスプレジデントを務めていたブライアン・スティール氏は、フロントオフィスの業務プロセスにAI技術を導入するメリットとして以下を挙げる。

  • 売り上げの増加
  • 顧客満足度の向上
  • 従業員エンゲージメントの向上

 例えばコールセンターでは以下のようなAI技術の活用が可能だ。

  • 顧客とのコミュニケーションの改善
    • FAQ(よくある質問とその答え)やマニュアルを状況に応じて提示する機能があれば、オペレーターは顧客との会話に集中できる
  • 自動応答機能を使用した、通話の待ち時間の短縮
  • 顧客の興味に合った商品の提案

2.プロセスマイニング

 システムからログを収集して分析することで業務プロセスを改善する「プロセスマイニング」は、BPMの重要な要素だ。非効率な業務を洗い出し、コスト削減の余地を見つけるのに役立つ。「AI技術がプロセスマイニングをより迅速に、より簡単にする」。プロセスマイニングツールベンダーCelonisの製品担当バイスプレジデントであるクリス・モンクマン氏は、こう説明する。

 ただし、大規模言語モデル(LLM)のトレーニングやハルシネーション(AIモデルが事実に基づかない情報を生成する現象)の問題に取り組む上では、構造化データや単語や文脈の解釈に使用する「意味的知識」のリアルタイムな改善が必要になる。

3.オブジェクトセントリックプロセスマイニング

 Celonisはドイツのアーヘン工科大学(Rheinisch-Westfalische Technische Hochschule Aachen)の協力に基づき、プロセスマイニングにAI技術を組み合わせることで業務プロセスをより深く理解しようとしている。その取り組みの一つが「オブジェクトセントリックプロセスマイニング」(OCPM)だ。これはビジネスプロセスにおける具体的なアイテムや概念を指す「オブジェクト」(発注書、請求書など)と、それにひも付いて相互作用する「イベント」(承認や受理といった業務の動き)をAI技術で分析するアプローチといえる。“注文書”や“請求書”などのオブジェクトがビジネスプロセスを移動したら、AI技術がそれを検知して予定納期を継続的に更新する。遅延が発生した場合にはアラートを送信して、問題解決のためのアクションに着手できるようになる。

4.大規模プロセスモデル

 SAPのBPMツール「SAP Signavio」は、業務プロセスの正確な理解を目的に、LLMで生成したラベルあり教師データを基に学習させた「大規模プロセスモデル」(LPM)を作り上げ、機能拡充を図っている。

 SAPはドイツのマンハイム大学(University of Mannheim)の研究者と共同で「SAP Signavio Academic Models: A Large Process Model Dataset」というLPMを発表した。これは同社が研究機関向けに提供しているビジネスプロセス分析モデル「SAP Signavio Academic Models」を通じて作成したデータセットであり、主な内容はビジネスプロセスモデリング表記法(業務フロー図を書く際のルール)を使って作成した数十万件のビジネスモデル集だ。SAPでSignavioグローバルマーケティング部門責任者を務めるディー・ホウシェン氏は、ベストプラクティスのレコメンデーションや業務プロセスの分析、コンテンツ作成やデータの増強といった場面でLMPが役に立つ、と説明する。


 中編も引き続き、AI技術を取り入れて進化を遂げているBPMの分野のうち、5~8つ目を紹介する。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

製品資料 株式会社ブレインパッド

DX推進を見据えた「データ活用人材」を社内で育てるための効果的な方法とは?

データ活用人材を社内で育成するためには、「DX推進者」や「分析実務者」などの役割に応じたスキル定着が欠かせない。効果的な育成を行う方法として、あるデータ活用人材育成サービスを取り上げ、その特徴や事例を紹介する。

製品資料 サイオステクノロジー株式会社

フリーアドレスのストレスを解消、快適なオフィス環境を作るツールとは?

フリーアドレスを導入したものの、新たな課題が生じた企業が少なくない。そこで導入が増えているのが座席管理システムだが、どのような点を重視すればよいのか。ITレビューサイトで高い評価を受けたシステムから、選定のポイントを探る。

事例 ServiceNow Japan合同会社

1年で顧客離脱率が20%低下、Lenovoは自社サービスの価値をどう高めたのか?

Lenovoでは、顧客デバイスのライフサイクル管理を支援するDevice as a Serviceを世界中に提供している。しかし、そのオペレーションは複雑であり、顧客エクスペリエンスを高めるために改善が必要だった。同社が採った改善策とは。

製品資料 ServiceNow Japan合同会社

災害や障害の発生時も業務中断を防ぐ、オペレーショナルレジリエンスの構築方法

昨今の企業は、自然災害やサイバー攻撃といった外的要因はもちろん、労働争議や技術障害といった内的要因など、多くの脅威にさらされている。これらによる業務の中断を予防しつつ、万が一中断が発生しても迅速に対応する、注目の手法とは?

製品資料 TDCソフト株式会社

企業の全体最適を実現、次世代プラットフォーム「ServiceNow」の特徴

多くの企業はさまざまなデジタルツールを導入しているが、これらの取り組みは「部分最適化」であるため、全体での情報共有がなされていない。そこで本資料では、企業の全体最適を実現する次世代プラットフォームを紹介する。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...