アプリケーションを刷新するための手段としてクラウドサービスへの移行は欠かせないものになっているが、それが新たな課題の原因になることもある。求められるのは「不要なものを捨てる」視点だ。
アプリケーションを最新化するための手段としてクラウドサービスへの移行を選択する企業があるが、それだけでは十分な成果を得ることはできない。そればかりか、単純なリフト&シフト(大きな変更を加えずにクラウドサービスに移行する手法)がシステムにさまざまな弊害をもたらすリスクもある。調査会社Gartnerによれば、まずは不要なアプリケーションを廃止することを含めて、アプリケーションの整理に注力する必要がある。
「古くて不要になったものは捨てる必要がある」。Gartnerのリサーチ担当バイスプレジデントのフィリップ・ドーソン氏はそう語る。Gartnerがバルセロナで開催したカンファレンス「Gartner IT Symposium/Xpo」で、ドーソン氏はインフラの将来見通しについて講演した。同氏が今後の鍵として挙げるのは、クラウドサービスを利用する場合のインフラの管理だ。
システムが複雑化する中では、アプリケーションの無駄を削減したり、使用をやめたりすることが重要になるとドーソン氏は指摘。重要なのは以下の2点だ。
「複雑な上にビジネス価値が低いものにコストを払う価値はない」とドーソン氏は強調する。この考え方は、クラウドサービスを利用する場合にも当てはまる。アプリケーションをパブリッククラウドに移行したとしても、パブリッククラウドのコンピューティング能力や各種機能をうまく引き出せるように設計されていなければ意味がなく、無駄なコストを生むだけだ。
オンプレミスとクラウドサービスを使い分ける分散型ハイブリッドインフラになる場合は、以下の要素をインフラに持たせることが重要になる。
自社保有のサーバルームでもデータセンターのスペースを借りるコロケーションでも、ネットワークの末端でありデータを生成する場所の近くであるエッジでもクラウドサービスでも、これらの特性を備え、かつ単一のコンロールプレーン(管理や制御を担う要素)で管理できることが求められる。
オンプレミスからクラウドサービスにまたがるインフラ管理を実現するサービスとその提供ベンダーの一例として、ドーソン氏は以下を挙げる。
IBMが2018年に買収したRed Hatは、仮想マシンとコンテナを運用するためのツール群として「Red Hat OpenShift」(以下、Openshift)を売り込んでいる。Red HatがOpenShiftの提供において重視しているのは「アプリケーションのモダナイゼーションをしたい企業に照準を合わせること」だとドーソン氏はみている。
Openshiftのようなツールは、アプリケーションがリファクタリング(ソフトウェアの振る舞いや機能を変えずに内部構造を変えること)されている場合に効果を発揮するのだとドーソン氏は指摘する。アプリケーションを仮想マシンから“ファットコンテナ”(アプリケーションの動作に必要なさまざまな要素を含んだコンテナ)に移しても、求めている効率化は実現しない。コンテナに移行する際は「アプリケーションの大規模なリファクタリングが重要になる」と同氏は語る。
一定程度のアプリケーションをコンテナ化するという目標を立てるとしても、モダナイゼーションを容易にはできない部分も残ることも考慮しなければならない。その結果として、プライベートクラウドやパブリッククラウドを含めてさまざまな稼働環境にシステムが分散し、構成が複雑になる懸念がある。「どのアプリケーションをリファクタリングし、どのアプリケーションをクラウドサービスに移行し、どのアプリケーションを最終的に廃止するかを見極めておくべきだ」とドーソン氏は推奨する。
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