これからのクラウド戦略の選択肢【後編】
「クラウドファースト」も「オンプレミス回帰」も“真の正解”ではない?
企業のインフラ戦略としてはクラウドファーストやハイブリッドクラウド、オンプレミス回帰などが注目されるようになった。システム構成が複雑になる中で、インフラ戦略はこれからどう変わるのか。
クラウドサービスへの投資を優先する「クラウドファースト」を採用する企業がある一方で、クラウドサービスとオンプレミスインフラを併用する「ハイブリッドクラウド」を重視する企業もある。一部ではクラウドサービスからオンプレミスインフラに移行する「オンプレミス回帰」を戦略に据える企業もある。企業のインフラ戦略は、これからどう変わるのか。
「クラウドファースト」も「オンプレミス回帰」も答えではない?
併せて読みたいお薦め記事
連載:これからのクラウド戦略の選択肢
クラウドか脱クラウドか
ハイブリッドクラウドとクラウドファーストの戦略を比較検討する場合、既存のインフラと将来の目標を考慮する必要がある。判断材料になるのが、現在の技術的負債と投資済みのITインフラだ。
コンサルティング会社Lotis Blue Consultingのビジネストランスフォーメーションプラクティス担当パートナーであるジョン・キング氏は、「既に社内で稼働しているシステムが多いほど、ハイブリッドクラウドが最適である可能性が高くなる」と説明する。
大半の企業は、カスタマイズされ複雑化しているシステムとそれに精通した人材を抱えている。これらを刷新して新たにクラウドサービスを採用することは困難であり、莫大(ばくだい)な費用と時間が掛かる。
キング氏によれば、アプリケーションのカスタマイズが軽微で、ローコードまたはノーコードでアプリケーションを実行し管理できる場合、クラウドファーストが適している。
そうでない場合は、既存のアプリケーションを、機能や技術的な特性ごとに分割して、技術スタックのどのレイヤーがこれらの要件を満たすかを確認すべきだ。要件を満たすレイヤーはクラウドサービスを利用し、要件を満たさないレイヤーはオンプレミスインフラで継続して管理する。
クラウドファーストに移行する際、想定外の課題に直面する企業もある。企業がレガシーアプリケーションをSaaS(Software as a Service)に移行しようとしても、SaaSが機能不足やカスタマイズの制限があるなど成熟していない場合、苦労する。
キング氏は、クラウドサービスからオンプレミスインフラにシステムを戻す「オンプレミス回帰」を決断した企業を複数、知っている。だが、オンプレミス回帰は頻繁に起きる現象ではないという見方もある。キング氏によれば、大半の企業はクラウドサービスに不満があっても引き続き利用し続け、必要な人材を雇うことで対処する。「企業がオンプレミスインフラで担っていた役割を再配置または廃止した場合、社内でアプリケーションを管理することは難しくなる」(キング氏)
エッジコンピューティングはどのように考慮すればいいのか
小売業や製造業などでは、一部のユースケースで、オンプレミスインフラでアプリケーションを実行する必要がある。クレイマー氏によれば、それらの企業はハイブリッドクラウドに加えて、エッジコンピューティングを利用している。エッジコンピューティングはデータの発生源の近くで処理するアーキテクチャであり、リアルタイム性が求められるユースケースに適している。
例えば、ある百貨店では在庫管理システムと商品のレコメンデーション(推奨)システムはクラウドサービスを利用しているとする。その場合でも、顧客と従業員の会話を聞いてリアルタイムで商品をレコメンデーションするようなAI(人工知能)ツールを利用する場合には、クラウドサービスと連携しながら情報を処理するエッジコンピューティングが適している。
IoT(モノのインターネット)と「5G」(第5世代移動通信システム)の普及により、今後はエッジコンピューティングの需要が高まると予測されている。「アプリケーションがデータセンター、パブリッククラウド、エッジにまたがる、より分散されたハイブリッドモデルが登場する」とクレイマー氏は分析する。通信事業者は5Gと連携したエッジコンピューティングサービスを提供するため、クラウドサービスベンダーとの提携を進めている。
ハイブリッドクラウドとクラウドファーストの未来
クラウドサービスベンダーは近年、アプリケーションの構成オプションを増やし、より複雑な要件を満たせるようにしている。しかし、ほとんどの企業は、ミッションクリティカルなアプリケーションや独自仕様のアプリケーションをオンプレミスインフラで管理、運用し続けるだろう。
クレイマー氏は、クラウドファーストとハイブリッドクラウドの境界は曖昧になっていく、と考えている。ハイブリッドクラウドや、複数のクラウドサービスを併用する「マルチクラウド」で構成したシステムがますます一般的になり、そうしたシステムも今後はツールの普及でよりスムーズに管理できるようになる。
例えば、クラウドサービスの環境をオンプレミスインフラで実現するための製品をクラウドサービスベンダーが提供しており、次のような製品がある。
- Amazon Web Services(AWS)の「AWS Outposts」
- Googleの「Anthos」
- Microsoft Azureの「Azure Local」(旧称:Azure Stack)
他にも、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」はさまざまな企業が複数のクラウドサービスで利用している。
長期的には、「クラウドサービスが成熟を続け、さまざまな業界のニーズやユースケースに対応できるようになれば、徐々にパブリッククラウドへの移行が進む」とクレイマー氏は予測する。ただしそれはクラウドサービスのみが使われるようになるということではない。
「ハイブリッドクラウドはクラウドファーストに取って代わり、企業のデフォルトになる可能性がある」とクレイマー氏は述べる。「将来的には、企業はクラウドファーストでもハイブリッドクラウドでもなく、クラウドサービス、オンプレミスインフラ、エッジインフラの適切な組み合わせを選択するようになるだろう」(同氏)
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」攻略ガイド:効率的に落札するためのポイントを徹底解説 -
製品資料
[株式会社うるる] 入札情報に特化した「販路拡大」「効率化」のためのサポートツールとは? -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] 公共入札に成功する企業と失敗する企業の「5つの違い」 -
製品資料
[日本ビジネスシステムズ株式会社] 専門家が教える、Microsoft 365の「テナント統合/分離」を成功に導く秘訣 -
製品資料
[rakumo株式会社] Microsoft 365での情報埋没を防ぐ、社内ナレッジを資産化する情報ポータル活用
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
2
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
3
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
4
鹿島建設のDXを阻む「10年前のAWS」 安全性と自由度を両立したモダナイズ
-
5
「何から始めればいい?」 情報漏えい対策で悲鳴を上げる中小企業のリアル
-
6
Microsoft月例パッチ1400件超で過去最多 「限界点」を迎えたパッチ管理
-
7
みずほ証券が「液冷サーバ」を採用 1日3.6億件の計算を支えるための要件
-
8
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
9
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
10
「身代金を支払う」以外のランサムウェア対策は本当にあるのか?
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
7
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
8
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
9
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
-
10
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー