AWSは反トラスト法(独占禁止法)違反の調査を受ける中で、企業がオンプレミスにアプリケーションを戻す動きがあると主張している。それに対して、AWSがオンプレミス回帰の脅威を誇張しているという批判がある。
英国競争市場庁(CMA)はクラウドサービス市場を調査し、公正な競争が阻害されている可能性があるとの疑いで、Amazon Web Services(AWS)などのクラウドサービスベンダーを調査している。AWSは、企業がアプリケーションやデータをクラウドサービスからオンプレミスインフラに戻す「オンプレミス回帰」の動きがあり、AWSはオンプレミスインフラと公正な競争をしている、と主張する。だが、オンプレミス回帰に関するAWSの主張を批判する声がある。
セキュリティコンサルタントでエンタープライズアーキテクトのオーウェン・セイヤーズ氏は以下の2点を踏まえると、AWSの主張は疑わしいと指摘する。
セイヤーズ氏によれば、英国で大規模なデータセンター投資をした企業は、近年はソーシャルメディア大手かハイパースケーラーしかない。「AWSが構築しているデータセンターは“城”や“データ宮殿”というべき規模なのに対して、他のベンダーや中小企業は地べたをはいずり回り、残りものを奪い合っている状態だ」(同氏)
調査会社Gartnerのバイスプレジデントで上席アナリストを務めるエド・アンダーソン氏は、セイヤーズ氏の意見を支持した上で「オンプレミス回帰がトレンドだとは考えていない」と述べる。企業がオンプレミス回帰を決断する事例は珍しい、とアンダーソン氏はみている。
「企業は自社のニーズに適したアーキテクチャを検討する。大抵はクラウドサービスとオンプレミスインフラを組み合わせることになる」(アンダーソン氏)
Gartnerはクラウドサービス市場とデータセンター市場の両方を調査している。「クラウドサービス市場の成長は、データセンター市場の成長を顕著に上回っている」とアンダーソン氏は解説する。「この結果は、企業がアプリケーションをクラウドサービスに配備し続けているという、われわれが把握している傾向と一致している」と同氏は語る。
アンダーソン氏は「クラウドサービス市場は順調に成長しており、トップを走るベンダーは、その成長のかなりの部分を自らのものにできる好位置にいる」と説明する。
アンダーソン氏と同じくGartnerのバイスプレジデントで上席アナリストを務めるリディア・レオン氏も、「企業のインフラ市場のトレンドとしてオンプレミス回帰は確認されていない」と述べる。その上で、「企業が既存のアプリケーションやOSに変更を加えずにクラウドサービスに移す『リフト&シフト』によるパブリッククラウドへの移行が増加傾向にある」と説明する。
「『クラウド移行からの反転』というトレンドはなく、むしろ逆だ。企業の間でリフト&シフトの検討に力が入っている」。レオン氏はそう分析する。
ただしリフト&シフトがどの企業にとっても最適な移行方法になるとは限らない。「過去の事例を見てもコスト削減につながっていないという見方が定着しているにもかかわらず、検討は進んでいる」(レオン氏)
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