AI関連のタスクをデバイス内で実行する「AI PC」に関するさまざまな発表が続いている。エンドユーザーや企業のIT担当者は、AI PCの価値をどう受け止めるべきか。
PC市場では「AI PC」という用語が至る所で使われるようになった。AI PCとは、AI(人工知能)技術のタスクを実行するためのプロセッサを搭載し、ローカル(エンドユーザーのデバイス内)でAI関連のコンピューティング(演算処理)を実行するPCのことだ。
“AI PC元年”の夏を迎えるに当たり、筆者はAI PCの有用性を分析した。AI PCを使ったところで、クライアントOS「Windows」搭載の普通のPCよりも生産性が上がるわけではない――。これが出した結論だ。そう判断するしかなかったのには、もちろん理由がある。
PCベンダーやプロセッサベンダーは、AI関連の演算処理用に設計されたプロセッサ「NPU」(Neural Processing unit)を搭載するAI PCの売り込みを強化している。筆者は、AI PCで幅広く応用できるような用途を探してみた。エンドユーザーの手元のPCでAI技術用の演算処理をする“ローカルコンピューティング”の真価を知りたかった。
PCベンダーがAI PCについてどれだけ衆目を集める派手なデモンストレーションを実施したとしても、それだけでエンドユーザーがAI PCの購入を決意できるわけではない。結局のところ、AI PCは一般的なPCに比べて高額になる。そのPCが普及するかどうかを左右するのは、どれだけ派手な機能を利用できるかではなく、エンドユーザーにとっての実用的な価値が本当にあるのかどうかだ。
AI PCによるローカルコンピューティングを真っ先に形にした機能の一つがMicrosoftの「Windows Studio Effects」だ。これはMicrosoftが発表したWindows搭載AI PCブランド「Copilot+ PC」のPCで利用できる。内蔵のカメラやマイクなどの機器を使う際に、
といった効果を提供する。これはPCでAI技術を利用する際に期待されるほとんど最低限の機能だと言っていい。あればうれしいが、そのために予算を費やすほどの機能ではない。CPU(中央演算装置)に負担を掛けずに背景をぼかせることはうれしい機能だが、わざわざAI技術を使うほどのものではない。
音声や映像の機能を強化することは、企業にとってどれだけ価値のあることなのか。それで生産性は上がるのか。何らか特定の機能を活用するためにAI PCを購入したとして、総コストは下がるのか。それとも必須ではない機能に、以前よりも高額なお金を支払うだけになるのか。筆者から見れば、これまでに出ているAI PCの機能は、AI PCに予算を投じる根本的な理由になり得るものではない。あればうれしい副次的な効果を期待できる程度のものに過ぎず、一定の投資が無駄になってしまう懸念さえある。
IntelのNPU搭載ノートPC向けプロセッサ「Core Ultra」を介して利用するアプリケーション「OmniBridge」にも同じことが言える。OmniBridgeは、AI技術を使って手話をリアルタイムで翻訳する機能を提供する。これは使う人によっては人生を変えるほどの可能性を秘めた画期的な技術だ。それは確かだが、それを必要とする人は限られている。人によっては投資する価値があるものだが、AI PCの普及を促す存在にはならない。
AI PCが提供する機能としては、他にもコミュニケーションに関連する興味深い機能があるし、コミュニケーション以外の分野の機能もある。だがビジネスを進める上でAI PCがどうしても必要になるような“キラーアプリケーション”は、まだ登場していない。
次回は、セキュリティの観点を踏まえてAI PCの真価を探る。
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