「AI PC」に関する戦略や製品が市場を沸かせている一方、企業がAI PCを採用するには幾つかの課題が残っている。AI PCの普及に関する予測と、実際の業務における課題を考察する。
人工知能(AI)技術関連のタスク(AIワークロード)の処理に特化したハードウェアを搭載するPC「AI PC」への注目が高まっている。クラウドサービスを用いずにローカルでAIワークロードを処理できることや、インターネット接続なしでAIモデルを稼働させられることには複数のメリットがある一方で、AI PCが“売れるのかどうか”に影響する懸念点も存在する。それは何なのか。
AI PCが従業員にもたらすメリットだけでは、IT購買担当者はAI PCの導入に乗り出さない可能性がある。IT購買担当者は従業員エクスペリエンス(業務における従業員の体験や経験)だけを根拠にPCの購入を決定するわけではない。経済性、プライバシー、セキュリティといった考慮事項も、製品選択に大きな役割を果たす。
生成AIの大きな懸念事項が、生成したデータや教師データのプライバシーとセキュリティだ。既に企業のプライバシー担当者は、生成AIに関するプライバシーの統制とポリシー策定に着手し始めている。AI PCは、エンドユーザーがローカルストレージに保持するデータとクラウドサービスに送信するデータを制御できる。そうした制御は、AIモデルのトレーニングに伴う個人情報の取り扱い、著作権や特許権侵害といった問題を避けるのに役立つ。
一部の企業は、プライバシー上の理由から生成AIの使用を禁止している。ローカルでAIモデルを稼働させることは、クラウドサービスとしてAIモデルを利用する場合よりもセキュリティやプライバシー保護を強化できる可能性がある。例えばAI技術を活用するカメラは、通話中に誰かが監視していることをエンドユーザーに警告するといった具合だ。
クラウドサービスでのAIモデル運用はコストがかさみやすい。AI技術を活用したゲーム分野のスタートアップ(新興企業)Latitudeは、そうした問題に悩まされた一社だ。ニュース放送局CNBCは、Latitudeのゲーム「AI Dungeon」が人気を博した2021年に、ゲームを稼働させるクラウドサービスのコストが急騰し、月額約20万ドルに達したことを報じた。クラウドサービスに関するコストを引き上げる要因は、クラウドサービスの利用料だけでなく、ハードウェアとソフトウェアのコストや人件費にもある。従業員が個人的に契約しているAIツールも、通信料金やセキュリティ対策にかかる料金を増加させる要因になり得る。
AIモデルをローカルで稼働させることによって、クラウドサービスのコストを削減できるという理由から、企業はAI PCを導入するようになる可能性はある。現状のAI PCは、1台当たり1000~3000ドルだ。そこに関連ツールのコストが加わるとしても、クラウドサービスで独自にAIモデルを稼働させるよりはコストを抑えられる見込みがある。こうした点は、AppleやSamsung Electronicsが生成AIに注力する大きな理由の一つだ。
今後企業がAI分野に割く予算は増加するとForresterはみる。その際に企業の投資先として候補に上るのは、クラウドサービスとして提供されるAIツールだ。これはクラウドサービスのコスト増加を招く。企業はAIワークロードをPCで実行するようにすることで、クラウドサービスのコストを削減できる可能性がある。一方で情報やデータを扱う仕事に従事するエンドユーザーにとっては、日常業務を劇的に変えるほどの機能はまだAI PCには実装されていない点には注意が必要だ。
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