ITマネージャーにお勧めの1冊(書評)
『次世代ネット広告テクノロジー 究極のターゲティング』
次世代のインターネット広告は、顧客は特定しなくてもよい。本書の主張は、従来、マーケティングが追求してきた方向とは全く逆のものに思える。しかし、「行動ターゲティング」を始めとする次世代のインターネット広告手法を知ることで、その意味が理解できるはずだ。
書名:次世代ネット広告テクノロジー 究極のターゲティング
価格:1,890円(税込)
著者:横山隆治
出版社:宣伝会議
テレビコマーシャルは、もはや効果的ではなくなったと言われるようになって久しい。コマーシャルを見てほしい相手は、家に居ないで街をほっつき歩いている。たとえ家に居たとしても、テレビは見ずにインターネットで遊んでいたり。
企業は大変困る。自社の製品を売りたい、知ってもらいたいのに、どうやったらよいか分からない。考えた揚げ句、「インターネットを使って広告してみようか」となる。しかし、これもそんなに簡単ではない。インターネット広告と言えば、一昔前まではバナー広告とメール広告とが二大巨頭だった。しかし、必ずしも高い効果を上げてきたとは言えない。
「あなたが、さっき見ていたサイトに、どんなバナー広告が張ってあったか覚えていますか?」と聞いたら、多くの人が「覚えてないな……」と答えるのではないか。読んで記憶に残っているのは、サイトの本文、メインのコンテンツであって、バナーは「あそこに何かあったかもしれない」程度の認識だ。
本書は、そうした状況の中で、いわば「インターネット広告2.0」とも言うべき新しい手法を提示している。著者は、インターネット広告の代理店であるデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムの設立メンバーであり、現在同社の取締役とADKインタラクティブのCOOを兼務している。
まず、「次世代のインターネット広告は、顧客は特定しなくていい」という主張が語られる。これは、マーケティングが追求してきた方向と、一見、まったく逆の方向に見える。近年、マーケティングの世界では、顧客を特定して詳細なデータを得、最適な提案をするための手法、例えば、One to Oneマーケティングなどが提案されてきた。こうした顧客を特定する手法は、大量生産、大量消費の時代に、顧客の属性に関わりなく企業が売りたいものを売っていたことへの反省から出ている。
顧客に関して、デモグラフィック要因(何歳で、どこに住んでいて、家族構成はこう、というデータ)だけではなく、サイコグラフィック要因(趣味はこれ、価値観はこんな、というデータ)をも集め、顧客と生涯に渡ってお付き合いをしていこう、という発想である。全然、間違ってませんよね。じゃあ、本書ではなぜ、顧客は特定しなくていい、などと言うのだろう。それは、「顧客は変わる」からだ。2カ月前のわたしがイタリア料理を好きだったからといって、今日のわたしも好きとは限らない。急に、和食党になっているかもしれない。そんなわたしに、「今一押しのイタリアン」の広告を見せても、あまり心は動かないだろう。
変化する状況下で威力を発揮するのが、本書で詳細に語られる「行動ターゲティング」の手法である。これは近い過去、概ね28日以内に、ある個別の「ブラウザ」がインターネット上でどんな行動をしたかを条件に、配信する広告を決定する手法だ。インターネット上の行動に応じてダイナミックに広告を変更することができるのが特徴。急に和食党になった人は、恐らく、日本料理のお店の場所や、食材についてインターネットでいろいろ調べて回るだろうから、そのデータを基に、「今一押しの和食」の広告を出せば効果は絶大だろう。
さらに、この「行動ターゲティング」では、「ある個別のブラウザがどんな行動をしたか」をベースにするのであって、「ある個人がどんな行動をしたか」をベースにはしないことに注意が促されている。
なぜそうなのか。それには2つの理由がある。1つ目の理由は、1人の人であっても会社のブラウザから行う検索と、自宅のブラウザから行う検索には明らかに違う傾向があるということ。このような場合、1人の人であっても、別の人間ととらえて広告を配信しても何の問題もないだろう。
2つ目の理由は、広告を配信する企業は個人情報をできるだけ取らない方がよい、ということ。個人情報を入手してそれを安全に保管しようとすると、コストがかさむ。個人情報の流出事故も怖い。それに、いくら詳細に顧客データベースを作ったからといって、永遠にその人が見込み客でいてくれるわけではない。2カ月後には、ライバル企業から購入してしまっているかもしれない。それに、個人情報を取られることに、顧客は警戒感を持つようになっているという理由も大きい。
こうした理由から、「個人」ではなく、「個別のブラウザ」ベースに広告を出す方が効果的であると述べられている。
行動ターゲティングによる広告は、米国では広く展開されており、2006年の市場規模は12億ドルに達すると予測されている。日本でも、有力な広告手法として、多くの企業に取り入れられていくだろう。そのタイミングで出版された本書は、インターネット広告への取り組みに悩んでいる企業人にとって、示唆に富む一冊となっている。
ライター:進藤 美希
青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 博士課程DBAプログラム修了。現在、ソフトウェア会社勤務。NPO法人フリーソフトウェアイニシアティブ理事。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科非常勤講師。著書「オープンソースがなぜビジネスになるのか」(共著、毎日コミュニケーションズ)。
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