多くの新機能が追加された「Microsoft Exchange Server 2010」。ユーザーがそれらの機能を十分に活用するためには、自社に最適化されたシステム環境への移行が不可欠だ。その際に注意すべき点とは?
マイクロソフトが2009年11月から正式提供を開始した、統合メッセージング基盤「Microsoft Exchange Server(以下、Exchange Server)2010」。Exchange Server 2010では、オンプレミス型とクラウドサービスを統合運用する「S+S」(Software+Service)対応やアクセス端末の多様化、データの保護や制御機能などが強化された。
マイクロソフトによると、既存のExchange Serverユーザー企業の約6割が現在、Exchange Server 2003をベースとしたシステム環境を利用しているという。その中には、ハードウェアのリプレースサイクルに合わせて、Exchange Server 2010をベースとしたシステムへの移行を検討している企業も多いだろう。
マイクロソフトの協業パートナーである、富士通のプラットフォーム技術本部 ISVセンター プロジェクト部長兼MSミドルウェア技術センター センター長代理、荒山一彦氏も「既存のExchange Serverからの切り替えタイミングに来ている」と市場動向を説明する。しかし、荒山氏は「Exchange Server 2010の新機能だけに注目すると、自社に適さないシステム環境となる可能性もある」と警鐘を鳴らす。特に「既存のバージョンから移行する場合には、意外な落とし穴がある」というのだ。
また、「既存資産を生かしながら、ユーザーの利便性を損なうことなく新しい環境へ移行するためには、ある程度の経験値とノウハウを持ったパートナーの支援がなければ難しい」とも語る。その上で「われわれは多くの導入実績や長年の経験、ノウハウを持つ“プロ”として、失敗しないシステム移行を実現できる」と自信をのぞかせる。
既存のExchange Serverからのバージョンアップにおける注意点と失敗しないためのポイントとは一体何だろうか? 本稿では、協業パートナーである富士通の活動内容とともに、同社が提案する「Exchange Server 2010の効果的な移行方法」を紹介する。
ミドルウェア分野における両社の協業は、2000年までさかのぼる。Windows Server製品群の企業向けビジネス拡大のためにグローバルで提携を結んだ両社は、製品間のシームレスな連携や技術開発および検証、プロモーションの推進などを実施してきた。
その後、富士通は2008年12月、国内SI分野における協業体制のさらなる強化を目的として「MSミドルウェア技術センター」を設置。これは、Exchange Serverや「Microsoft Office SharePoint Server」(以下、SharePoint Server)、「Microsoft SQL Server」(以下、SQL Server)といったシステム基盤製品の技術支援を行う専任部隊だ。また、同時期に設置された「MSソリューション推進室」がマーケティングとアライアンスの推進を行っている。富士通の2つの組織はマイクロソフトの「富士通アライアンス営業本部」とともに、両社が展開するソリューションビジネスを支援・促進する役割を担っている。
さらに、両社は2009年3月、エンタープライズ市場におけるソリューションビジネスでの協業を発表した。これにより、富士通のPCサーバ「PRIMERGY」をはじめとするハードウェアならびにシステム構築技術と、マイクロソフトのExchange Server、SharePoint Server、SQL Serverなどの基盤ソフトウェアを組み合わせたソリューションを開発するとともに、顧客提案からシステム実装、運用サポートなどを含めた“包括的な協業体制”を確立している。両社は同年4月からそのソリューションの提供を開始した。
富士通はExchange Server 2010開発の早期段階からマイクロソフトの技術検証プログラム(TAP)に参画し、その機能や性能の検証に携わってきた。同社は2009年5月にシンガポールで開催された技術者向けイベント「Exchange 2010 ignite」に参加し、製品概要や機能特徴などの技術情報を得て、Technical beta版を基にさまざまな検証を行った。その後、3カ月間にわたり実施した検証結果を2009年8月の「Tech・Ed 2009」において日本のユーザーに向けて発表した。また、2009年8月にリリースされたRC版を基にさらなる機能検証を積み重ねてきた。特に、富士通では「Exchange Server 2003/2007などの古いバージョンから、どういった機能の変更点があるか、またバージョンアップに伴う機能の互換/非互換があるかを評価した」と語る。
富士通はExchange Serverの初期バージョン「4.0」から日本市場での提供を開始しており、旧バージョンにおける導入実績も豊富だ。荒山氏によると「大規模かつ信頼性の高いシステムが求められる企業を中心に、年間100社の企業が富士通のソリューションを導入している」という。富士通のExchangeソリューションは、ベネッセコーポレーションや名古屋銀行、聖路加国際病院などさまざまな業界・業種での導入実績がある。また、同社が強みを持つ官公庁などの公共機関分野での導入も多い。
富士通では自社のハードウェアとの連携を兼ねて、以下の3つのポイントに着目したExchange Server 2010の検証を実施した。
従来のバージョンでは、クラスタサーバの二重化構成によるシステムの冗長化を取っていたが、Exchange Server 2010では新方式として「DAG(Database Availability Group)」を採用した。DAGではメールボックスサーバのグループ内でデータベースを複製し、障害発生時には別のサーバ上のデータベースへのフェイルオーバーが可能になった。荒山氏は「DAGを活用すると、より信頼性の高いサーバインフラの構築が可能だ」と評価する。
現在、モバイル端末の普及によって、営業職を中心に社外からメールを確認することが当たり前になった。Exchange Server 2010でもモバイル端末からのアクセス、操作が容易になっている。富士通ではPCのみならず、同社の「Windows(R) ケータイ F1100」(NTTドコモ)などのモバイル端末における遠隔地からのアクセスや動作検証を確認した。
荒山氏は「システムの冗長化だけでは安心できないという企業もいる。Exchange Server 2010のバックアップ機能の向上によって、ユーザーは安心感をより得ることができた」と説明する。富士通ではバックアップ機能「VSS(Volume Shadow Copy Service)」のExchange Server 2010における有効性の確認を行い、また遠隔サイトにおけるデータ複製の検証などを実施した。
荒山氏によると、Exchange Server 2010の導入メリットとして「セキュリティ+コンプライアンス対策の強化」「メールシステムの信頼性向上」が挙げられるという。
Exchange Server 2010では機密情報を含んだファイルを添付して送信してしまうなどの「メールの誤送信」を防ぐ機能が強化された。事前に登録したルール設定によって、キーワードやメールアドレス、ドメインなどの条件を基に、送信時のアラート機能などで重要なデータの流出を防ぐことができる。
また、製品自体のセキュリティ機能強化はもちろんのこと、「Active Directory Rights Management Services(AD RMS)」と連携し、メッセージに含まれた情報へのアクセス制限を適用できる。例えば、メールを転送した場合、メール受信者の職権に応じた閲覧のみ、転送可否、印刷可否などの設定が可能だ。
さらに、荒山氏はExchange Server 2010ではデータベースの最適化によって、そのパフォーマンスが向上し「従来のバージョンではI/Oがネックとなる事態もあったが、その負荷が軽減されていることも検証結果で示されている」と語る。マイクロソフトによると、「Exchange Server 2010ではディスクI/OがExchange Server 2007との比較で最大70%、Exchange Server 2003との比較で最大90%削減できる」という。荒山氏は「Exchange Server 2010に移行することで、従来よりもストレージ消費量も削減できるなど、適正なコストで信頼性を高めながら、よりセキュアで安心できるシステムが構築できる」と説明する。
導入メリットが多いExchange Server 2010だが、実際のシステム導入では注意すべき点も存在する。荒山氏は「既存の資産を生かしながら、新しいアーキテクチャに最適化されたシステムを設計する必要がある」点を挙げている。
Exchange Server 2003とそれ以降のバージョンでは、アーキテクチャが大幅に変更されている。その違いをよく理解しないままシステムを設計・実装してしまうと「Exchange Server 2010の機能を十分に活用できなくなる」(荒山氏)。
例えば、Exchange Server 2003までよく使われていたデータ共有機能である「パブリックフォルダ」は、アーキテクチャが変更されたExchange Server 2007以降は従来の管理方法では難しい面もある。ユーザー自身で移行作業をした場合、こうした違いを理解しないと、適切に移行できないこともある。その上で、荒山氏は「既存ユーザーがExchange Server 2010への移行による恩恵を受けるためには、ある程度プロに任せる必要がある」と語る。
富士通のプラットフォームソリューションセンターでは、規模の大小を問わず、システム構成やソフトウェアのバージョンまでを含めた、さまざまなパターンに応じた移行検証が行われている。その結果を基に事前検証済みのソリューションを提供している。既に検証済みのノウハウを活用できれば、業務の根幹を成すメッセージングシステムを安全に移行したいという企業にとっては、とても心強いといえる。
また、富士通ではマイクロソフトとの共催セミナーにおいて、自社の検証結果を踏まえた「Exchange Server 2010へのバージョンアップにおける移行テクニック」を紹介している。その中では、Exchange Server 2003のユーザーを対象として、Exchange Server 2010技術解説やその導入に向けたポイントなどを紹介している。さらに、同社では社内の技術者および営業担当者への情報共有やトレーニングを実施することで、Exchange Serverに関する技術サポートやソリューション提案力などの強化に努めるなど、実際に導入作業を行う際のサポート体制も充実している。
富士通は2010年度におけるPRIMERGYの販売台数50万台(世界)、20万台(国内)を目指している。その中核となるミドルウェアにはExchange Server、SharePoint Server、SQL Serverなどを組み込んだ高付加価値なソリューションを提供するという。
荒山氏は「今後もマイクロソフト製品の早期検証を進めることで、そのブラッシュアップに貢献していきたい」と語る。また、両社の協業体制によって「品質の良いプラットフォームに、品質の良いミドルウェアを搭載し、品質の良いシステムインテグレーションによる“三位一体のソリューション”を顧客に提供していきたい」と意気込みを述べた。
富士通では、マイクロソフトが今後提供する予定のSharePoint Server 2010やSQL Server 2008 R2などの新製品も同様に、自社製品と組み合わせたソリューションとして「リリースと同時期、またはすぐに提供を開始できる体制を整えていく」という。
提供:マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:TechTarget編集部