2010年06月04日 08時00分 UPDATE
特集/連載

【IFRS】IFRS先行事例の研究【3】子会社判定基準の悩ましい問題

連結の範囲をどうするかはIFRS対応で突き当たりやすい壁。IFRSと日本基準に差異があることから自社に当てはめるときには留意が必要だ。原則主義に基づくIFRSでは悩ましい問題が発生する。「消極的な所有」で支配を認定された事例を解説する。

[中村正英,フューチャーワークス]

A(非連結子会社の経理担当者)

 「内部統制のときは、ウチなんか非連結なのに、わざわざ本体に呼ばれて、全社的なナントカの一環でリスクマネジメントもどきをやらされたんだよなあ」

B(連結子会社の経理担当者)

 「ウチは重要な子会社だから、いまだに本体の内部監査の人が来たり、資料を出したりしているけど、あのリスクマネジメントはもうやってないねえ」

A「なんかIFRS対応とかも、同じようなことになるんじゃないの? 最初だけ騒いで、ウチらの休日と有休が無駄に消えていくとか」

B「それじゃあ有給休暇引当金の問題だな」

企業側、監査人側が考える連結範囲

 決算はリミットがあるものですから、業務も短期集中にならざるを得ません。連結決算を行うとなると、連結財務諸表までを作成する親会社の担当者が大変なのはもちろん、連結パッケージの類を作成することになる子会社の担当者も結構な負担になります。この感覚は、実際に連結決算の実務を担当された経験がある方ならば、共感いただけるのではないでしょうか。

 ですから、なるたけ連結対象とする子会社の範囲は絞りたい、というのが会社側の本音でしょう。事業上の都合で存在する子会社ですが、会計上の都合としては連結対象にはしたくないものです。

 その一方、損失飛ばしを目的とした不当な連結外しがなされた結果、投資者に損害が生じるといった事例もよく聞きます。卸売の親会社と小売の子会社があったときに、小売の子会社は株式売却などによって連結対象から外れたけれども、実は元子会社は引き続き親会社の支配下にあり、元子会社の倉庫は親会社の在庫で埋まっていた、などということはあり得るストーリーだったりします。そしてこういった事例が発覚すると、「監査人は何を見ていたんだ!」という批判が発生することになります。

 そのため、できるだけ連結対象とする子会社の範囲は広げたい、というのが監査人側の希望になります。もっとも、内部統制が整備されていないような子会社が連結対象になってしまうと、それはそれで大変な話にはなってくるのですが……。

 そんな実務の狭間で揺れながら、「連結財務諸表原則・同注解」は、日本の実務慣行として定着しています。会計監査六法(日本公認会計士協会編集)を開くと「連結財務諸表関係」の項目だけで23項目あり、公表物の多さが一目で分かります。IFRSの特徴とされる原則主義と対照的に、現状の日本の実務は、至れり尽くせりの細則主義といえるかもしれません。

子会社判定基準の悩ましい問題

 IFRS対応で突き当たりやすい壁といわれているのが「連結範囲をどうするか」です。具体的には子会社判定基準をどのように設けるのか、という問題ではありますが、IFRSと日本基準に差異があることから、対象会社に当てはめるときには留意が必要です。

 現在の日本の子会社判定基準を問われれば「支配力基準」と回答するのが一般的ですが、IFRSでもそれは同じです。にもかかわらず、連結の範囲に差異が生じてしまう可能性があるわけで、この差異を原因とした悩ましい問題が発生し得るのではないかと考えています。

 そんな問題意識から、本連載の第3回目としまして、日本公認会計士協会の「CESR執行決定データベース」より「EECS/0407-02 消極的な所有である場合の子会社に対する支配」を取り上げます。【執行決定データベース抜粋(I)(2008年5月)参照】。今回の事例は、「消極的な所有」の状態であっても、執行者(当局)によって支配が成立していると認定された事例になります。

 前回と同じく、具体的な事例に入る前に、関連するIAS27号に少し触れておきます。

IAS27号「連結及び個別財務諸表」

 この基準書は、連結という重いテーマを取り上げているだけあり、子会社判定や連結仕訳など、記載されている内容も濃いのが特徴です。そんな中で特に取り上げておきたいのは、第4項にある「支配とは、ある企業からの便益を得るために、その企業の財務および営業の方針を左右する力をいう」という支配の定義でしょう。「その企業の財務および営業の方針を左右する力」 については、連結範囲を考えるに当たっての基本思考となります。

 続いて、今回の事例に関係して連結の範囲の規定です。

「第12項 連結財務諸表には、親会社のすべての子会社を含めなければならない」

 基本的に連結の範囲は、すべての子会社です。日本基準には重要性基準が存在していることから、重要性による除外も可能でしたが、IFRSでは子会社を連結から外したいということになれば、理屈付けが必要になります。結局は、重要性という概念を用いることになるのでしょうが、その論理構成をどのように組み立てるのか、といったところが頭の痛い部分となりそうです 。

うっかりゼロ連結の可能性に注意

第13項 親会社がある企業の議決権の過半数を直接的にまたは子会社を通じて間接的に所有している場合には、例外的な状況において、そのような所有が支配を構成していないことが明確に立証できる場合を除いて、支配が存在すると推定される。親会社がある企業に対して所有する議決権が過半数以下の場合で、次のような力があるときにも支配が存在している。

(a)他の投資企業との合意によって、議決権の過半数を支配する力

(b)法令または契約によって、企業の財政方針および経営方針を左右する力

(c)取締役会または同等の経営機関の構成員の過半数を選任または解任する力があり、企業の支配がその取締役会または機関によって行われている

(d)取締役会または同等の経営機関の会議における過半数の投票をする力があり、企業の支配がその取締役会または機関によって行われている。

 日本基準では、自己と緊密者などを合わせても、40%未満の議決権しか有しない場合には持株比率をクリアしないことから、子会社判定はそこで終わってしまうのが一般的ではないでしょうか 。

 一方で IFRSは、この第13項が存在することから、親会社の議決権が過半数以下であっても、支配が認定されることがあり、子会社としての扱いが必要となる可能性があります。

 よって、ついうっかりでゼロ連結(議決権がゼロであっても 実質的に支配している状態)に該当してしまわないように 、定期的に連結子会社の範囲を、株式の保有の有無を問わずに検討したほうがよいでしょう。もっとも、実務上は四半期ベースで検討しているのが一般的ではあると思います。

 さて、本題である今回の事例に入ります。

 説明の前提として、発行者(企業側)をAとし、それとは別の会社をBとします。Bには取締役が7人おり、そのうち4人についてはAが指名しました。ここで、Aが指名した4人のうちの1人については、ほとんど取締役会には参加しておらず、名目取締役のような状態であります。よって、取締役会は6名による意思決定がなされていました。

 確かに、Bの取締役会はBにとっての重要機関であり、名目取締役が1人いることから 、実質的には6人で構成されていると考えることもできます。そして、Aは、そのうち3人しか指名していないことから、過半数を占めるにはいたっておりません。であるならば、IAS27号 第13項の(d)との関係より、支配が存在しているとは認められないことから、BはAの子会社に該当しなくなる。そう考えることもできるでしょう。

 しかし、執行者による執行決定は、AがBを支配している、という内容でした。

 執行者は、「Aが支配力を行使しようと思えば行使できるという事実」に着目し、そこに「消極的な所有」が成立していることから、AによってBが支配されている、と認定を行ったのでした。

消極的な所有に「それはさておき」

 この事例とIAS27号第13項との関係を考えると、「議決権比率には触れられていない」「消極的な所有」という点において、なかなか興味深いものがあります。

 議決権比率について触れていないということは、IFRSの支配検討では、親会社と資本関係がない会社も含んで検討した方がよいということになりそうです。内部統制報告制度との関係で、評価対象範囲に影響があることから、実務的にどうするのかは興味あるところです。

 また、消極的な所有という概念が出てきますが、「支配するつもりはないんですよ」という言い訳が、「それはさておき」とされてしまう可能性があります。具体的なところは実務の成熟が必要ですが、形式的には支配している状態が存在している場合には、要注意といえるでしょう。

 ここで、先だって行政処分が下された某銀行の処分理由を見ると「特定企業への融資の実行に関して、取締役の過半数を自らの推薦する者とすることを条件としたうえで、当該条件の不履行を理由として追加担保の差入れを要求」などと公表されていますが、まさに取締役過半数の指名権を有することになる契約であり、融資関係を考えるとその実効性も高いものといえます。

 その他として、普通株式を保有していなくとも、支配認定される可能性が生じるものとして、種類株式の存在を挙げておきます。いわゆる黄金株といわれる拒否権付種類株式や、役員選解任権付種類株式など、その内容によっては消極的な所有につながりかねません。

 また、普通株式へ転換できる種類株式であれば、IAS27号 第14項の検討も必要になります。

 このように、日本の会計実務では、会社法を利用することで、連結対象外とできてしまうような、テクニカルな方法が存在していることは否めません。しかしながら、これらの方法は現行の日本基準はクリアできるのかもしれませんが、差異の存在を踏まえた場合に、IFRSでもクリアできるかの保証はありません。果たしてどうなるのか留意が必要といえるでしょう。

当事例からの教訓

  • 消極的な所有に注意する
  • 普通株式がないからといって気を抜かない
  • 連結範囲の検討表における網羅性
  • 種類株式の内容に注意
  • 株主間契約や金銭貸借契約の内容に注意

中村 正英(なかむら まさひで)

株式会社フューチャーワークス 代表取締役社長 公認会計士

新日本監査法人(現新日本有限責任監査法人)において会計監査およびIPOコンサルティングに従事。

2008年に会計/ITコンサルティング会社の株式会社フューチャーワークスを設立。事業再生、決算早期化、企業組織再編、内部統制構築等のコンサルティングを行い、現在、上場企業ごとにアレンジしたIFRS導入支援サービスを手掛ける。


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