2011年05月24日 08時00分 UPDATE
特集/連載

【IFRS】忙しい人のためのIFRS Watch【2】2011年5月:IFRS第10号(連結財務諸表)他のレビュー完了

IFRSにかかわる組織から毎月、公表される各種文書。ムービングターゲットと言われ、変化を続けているIFRSの姿を捉えるにはこれらの文書から最新情報を得る必要がある。今月は収益に関する基準の検討の進捗や連結関連の基準の完了などを紹介する。

[榎本尚子,仰星監査法人]

 2011年は、MoUによる多くの検討項目が基準化される年である。IFRS Watch第2回は、3月中旬から4月末までのIFRS関連情報より注目すべきものをピックアップする。今回も収益に関する基準の検討の進捗や連結関連の基準の完了など、多数の注目情報がリリースされている。

記事内の略号

ASBJ:企業会計基準委員会

FASB:米国財務会計基準審議会

IASB:国際会計基準審議会

IFRS:国際財務報告基準

MoU:IFRSと米国の会計基準との間の差異に関するコンバージェンス合意

SEC:米国証券取引委員会


・2011年3月23日 顧客との契約から生じる収益-回収可能性(IASB meeting summaries and observer notesより)

 2010年6月に公表された「顧客との契約から生じる収益」の公開草案では、収益の認識金額(取引価格)を決定する際に、顧客の信用リスクが重要な場合には当該信用リスクを反映するよう収益の認識金額を減額するよう求めていた。しかし、このような処理を採用した場合には、顧客の信用リスクについて貸倒引当金の設定で対応していた会計実務とは異なる対応が求められることになる。そのため、公開草案に対するコメントの中で、顧客との契約により決定した金額で収益計上し、信用リスクの影響を別の損失として表示する方が意思決定に重要な情報を提供できるのではないかとのコメントがあった。

 このような指摘を受け、IASBおよびFASBは、以下のように暫定的に決定した。

  1. 企業は収益の認識金額(取引価格)を決定する際に顧客の信用リスクの効果を反映するべきではなく、企業は顧客との契約により決定した金額で収入を認識する。
  2. 最終的な収益基準は顧客の支払能力の評価を必要とするべきではない。
  3. 企業は顧客との契約から予想される減損のための引当金を認識するべきで、収益の認識項目とは別の損益の項目として表示するべきである。

 

・2011年4月1日 IFRS第10号他2基準のレビュー完了 (デュー・プロセス監督委員会

 デュー・プロセス監督委員会は、2011年3月16日に以下の3つの基準案のレビューを完了した。これを受けて2011年5月には、本基準が公開される予定となっている。

  • IFRS第10号 連結財務諸表
  • IFRS第11号 共同支配契約
  • IFRS第12号 非支配持分の開示

 IFRS第10号とIFRS第12号は、2008年12月に公表された公開草案第10号「連結財務諸表」を受けて、IAS第27号「連結および個別財務諸表」とSIC第12号「連結−特別目的事業体」の連結に関する規定を置き換える基準となっている。主な改正点としては、「支配」概念について一般事業体・特別目的事業体間で扱いが異なっていたものについて、統一的な考え方を用いている点が挙げられる。

 詳細は、IFRSフォーラムの「IFRSの『連結』基準、その実務ポイントは」を参照されたい。

 IFRS第11号は2007年9月に公表された公開草案第9号「共同支配契約」を受けて、IAS第31号「ジョイント・ベンチャーに対する持分」と、SIC第13号「共同支配企業−共同支配投資企業による非貨幣性資産の拠出」を置き換える基準となっている。主な改正点としては、共同支配の事業体について比例連結法を削除して、共同支配事業体の会計処理を持分法のみとする点が挙げられる。

 詳細は、IFRSフォーラムの「IFRSの『関連会社』『ジョイント・ベンチャー』とは」を参照されたい。

・2011年4月15日 顧客との契約から生じる収益-取引価格の配分 (IASB meeting summaries and observer notesより)

(1)残余法の使用について

 2010年6月に公表された「顧客との契約から生じる収益」の公開草案では、履行義務が複数存在する場合に、各履行義務につき別個に販売する場合の価格(独立販売価格)の割合に応じて契約全体の収益金額を案分することとされていた。観察可能な販売価格が存在する場合には収益金額を案分できるが、販売価格が変動するなどの理由で観察可能な販売価格が存在しない場合には契約全体の収益金額(取引価格)を複数の履行義務に配分することができず、取引価格の配分のために残余法を使用すべきではないとされていた。

 しかし、IASBおよびFASBは、複数の履行義務の基礎となる財またはサービスの独立販売価格が非常に変動しやすい場合には、独立販売価格を見積もるための最も適切な方法として残余法も使用できると暫定的に決定した。残余法を利用する場合、企業は取引価格の総額からその契約の他の商品またはサービスの独立販売価格を控除した金額で独立販売価格を決定することになる。

残余法:契約に存在する複数の履行義務のうち残存する履行義務について、基礎となる財またはサービスの販売価格の客観的で信頼性のある証拠を用いて見積もった金額と取引価格の合計額との間の差額を、既に充足した履行義務についての収益として認識する方法

(2)取引価格の配分について

 以下の両方の条件に合致する場合には、企業は取引価格の一部分(あるいはその変動額)を、1つまたは複数の履行義務に全て配分するべきである。

  • 当該契約における条件付き支払いが、企業がその履行義務を充足するための努力あるいはその履行義務の充足から得られる特定の成果と関連していること
  • 当該特定の履行義務の配分された金額(取引価格の変動額も含む)が、その契約のその他の全ての履行義務と支払条件(潜在的な条件付支払いも含む)と照らして合理的な金額であること

 

・2011年4月20日 SEC、IFRS導入に関する公開討論会を7月に開催(SECプレスリリースより)

 SECはアメリカの財務報告システムにIFRSを導入する際の障害やメリットについて討議するための公開討論会を2011年7月7日に開催するとアナウンスした。

 公開討論会は、投資家、中小公開企業、および規制当局からのそれぞれの代表者をパネリストとして招待し開催される予定である。議題は主に投資家のIFRSに対する理解、IFRS導入が中小企業へ与える影響、そしてIFRSを導入するための規制環境、などが取り上げられる予定である。

 SECは既に公開企業に対するIFRSの強制適用は早くても2015年であることを表明しており、これについての意思決定を2011年中に行うとしている。従って、公開討論会において参加者から提供される意見は、今後のSECの意思決定に大きな影響を与えるものと思われ、その内容に大きな興味が持たれるところである。

 SECは公開討論会で取り扱う内容や、参加者候補者についての意見をインターネットで募集しており、最終的な議題と参加者は、今後開催日が近くなった段階であらためて公表するとしている。公開討論会は一般公開される予定である。

・2011年4月21日 IASBとFASBがコンバージェンス・プログラムの完了へ向けての大幅な進展を報告(IASBプレスリリースより)

 IASBとFASBがコンバージェンス・プログラムの完了に向けて、以下の項目について進展と今後の予定の報告を行った(参考記事:IFRS改訂作業にさらなる遅れ、日本企業にも影響か)。

(1)5つのプロジェクトの完成

 IASBは、連結財務諸表(他の事業体に対する持分の開示を含む)、ジョイント・アレンジメント、退職後給付、公正価値測定およびその他包括利益の表示について近日中(注)に新基準を公表すると発表した。

(注)このうち、本稿執筆時点までに、退職給付、その他包括利益の表示以外の基準についてIFRS第10号〜13号として公表された。

(2)残りのMoUプロジェクトおよび保険会計に対する優先的な取り組みおよび最終確定するための時間の追加

 MoUプロジェクトの残りの3つである金融商品会計、リース会計および収益認識、IASBとFASBの合同プロジェクトである保険契約についての進展と今後のスケジュールを公表した。収益認識およびリース会計については、コメントレターの内容の反映について検討するため、2011年6月までに終了しないことが明らかにされた。これらの論点は、財務諸表の作成実務、財務指標に与える影響が大きいため、今後も動向に注目していく必要がある。また、保険契約については、IASBは、2011年末までに、FASBは2012年までに新基準を公表する予定であることが示された。

・2011年4月28日 単体財務諸表に関する検討会議が「単体財務諸表に関する検討会議」報告書(平成23年4月)を発表(ASBJ インフォメーションより)

 わが国においてはIFRSへのコンバージェンス、アドプションを進めるに当たり、連結先行(ダイナミック・アプローチ)の考え方を採用している。連結先行下での単体財務諸表をどのように取り扱うかについて課題となっているが、この点についてASBJの単体財務諸表に関する検討会議が報告書を公表した。具体的な結論は提示されてないが、以下の項目について検討された(参考記事:単体財務諸表はコンバージェンスせずが多数意見か、報告書公表)。

  • 単体財務諸表の作成目的の明確化(会社法規制、法人税法規制との関係性含む)
  • 連結財務諸表と単体財務諸表との整合性
  • 個々の会計基準
    1. 開発費
    2. のれん
    3. 退職給付(ステップ1)
    4. 包括利益

 このうち、包括利益については、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」が公表されているが、単体財務諸表への適用について1年後をめどに判断するとされている。同会議においては、当面、単体財務諸表における包括利益について表示すべきでないという意見が多く見られたと記載されている。

 本報告書では、単体財務諸表の扱いについては具体的な結論は出ていないが、日本企業のIFRS対応にとって重要なポイントであり議論動向をフォローしていく必要があるといえる。

榎本尚子(えのもとなおこ)

仰星(ぎょうせい)監査法人 パートナー 公認会計士

一橋大学商学部卒。監査法人朝日新和会計社国際事業本部アーサー・ヤング(現新日本有限責任監査法人アーンストアンドヤング)、監査法人芹沢会計事務所(現仰星監査法人)にて会計監査業務に携わる。現在は、国際業務の責任者として、国際会計基準への移行支援業務及び研修企画、所属する国際ネットワークへの対応業務、国際的な監査業務などに従事している。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)、「ケーススタディで見るIFRS」(社団法人金融財政事情研究会)がある。


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