IASBの前理事である山田辰己氏がディーバのイベントで講演した。強制適用の実質延期によって「現実的に対応できる」と指摘。また、武田雄治氏はすでに公表されているIFRSの有価証券報告書の分析が重要と訴えた。日本のIFRS適用判断を前に企業はどうすべきか。講演をレポートする。
連結ソリューションを提供するディーバのイベント「DIVA LIVE」が2月に都内で開催された。IASB(国際会計基準審議会)の前理事で有限責任監査法人 あずさ監査法人 パートナーの山田辰己氏と、ブログ「CFOのための最新情報」で知られるアガットコンサルティング 執行役員 公認会計士 武田雄治氏が講演した。本稿では両氏の講演をお伝えする。
山田氏は「今は何となくIFRS
について後ろ向きな意見が多い」としながらも、IFRSの任意適用を決めた中間報告で提案されていた3年程度のIFRS準備期間と比べて、自見庄三郎金融担当大臣が訴えている5〜7年の準備期間の方が「現実的に対応できると思う」と述べた。「今の方がむしろ、十分システムを作りながら、会社全体として効率的に取り組んでいける時間的な余裕ができたと思っている」。
ただ、企業会計審議会の議論自体には的外れな内容が多いと山田氏は思っていて、「現在の日本の状況は残念」と指摘した。「企業の業績を測る尺度を統一したいという意見に対して世界で反対の声はない。現在の審議会や大臣の発言は、その統一についての意見が分からない。統一に反対するのであれば、それに対する意見が必要で、個別の議論になる。切り分けて考える必要がある」(関連記事:「IFRSは製造業に向かない」を元IASB理事が検証)。
IFRS適用は今後も世界各国で進んでいく。香港、台湾、マレーシア、メキシコ、アルゼンチンなどが適用を予定していて山田氏は「まさにIFRSのラッシュが来ているのが日本の外の状況だ。日本の雰囲気だけでIFRSを判断しないでほしい」と世界と日本のIFRSについての認識の違いを訴えた。IFRS適用の判断をまだ明確にしていない米国については、「SEC(米国証券取引委員会)としての国際的な地位が落ちる可能性があるので、あまりネガティブな決定は出てこないだろうと私は思っている」と話した。
その上でSECはコンドースメントアプローチを取る可能性が高いと指摘した。「コンドースメントアプローチについて強い反対意見は出ていないと聞いている。基本的にはこのスタッフペーパーに沿ってSECが意思決定するのではないかといわれている」。
山田氏はまた日本が、日本基準のIFRSへのコンバージェンスと、指定国際会計基準によるIFRS任意適用の2つの方法を併存させていることについて「非常に面白い」と話した。コンバージェンスは2007年のIASBとASBJ(企業会計基準委員会)の東京合意を受けて進められている作業で、日本基準とIFRSとの差異をなくすことを目標にしている。
一方、指定国際会計基準は連結財務諸表規則などの改訂で導入された考え。IFRSを任意適用する企業が連結財務諸表の作成に利用することになっている。山田氏はこの2つの方法について、「もし指定国際会計基準が3600社の全上場企業に強制適用されると仮定すると、3600社はダイレクトにIFRSを使うことになる。指定国際会計基準で内外の連結財務諸表の比較可能性は担保され、そうなると日本基準のコンバージェンスは止めてしまってもよくなる」と話した。
ただ、企業会計審議会の議論や産業界の一部では、IFRSを全上場企業に強制適用せずに任意適用にしたり、株式時価総額の大きな企業だけに限定して強制適用する案が浮上している。山田氏は「こうすると、皮肉な言い方だが日本基準とIFRSのコンバージェンスを適時にやれといっているのと同じになる。なぜなら同じ市場で日本基準とIFRSが併存し、比較可能性を担保するには、日本基準が主要な会計処理でIFRSと同じでないといけないからだ」と指摘した。「極端な議論だが、その辺を考えてほしい」。
続いて基調講演を行った公認会計士の武田雄治氏は企業の対応について「IFRSの有価証券報告書を作るのが最終のゴール。先行事例はたくさんある。その事例分析がまずスタートだと思う」と話した。
IFRSでは財務諸表の開示内容が大きく変わる。特に注記情報が大幅に増大する。「今までの延長では作業ができない」(同氏)。住友商事の2011年3月期の有価証券報告書では「経理の状況」が132ページを占める。そのうち91ページは注記情報だ。IFRS適用初年度の開示のため、初度適用に関連する調整表なども含まれる。
武田氏はIFRSを適用しようとする企業が「これをすぐに作れるかというとまずは無理。有報を作成するという最終ゴールに向けて実務で何をすべきかを明確にする必要がある」と指摘する。その上で「(強制適用開始の可能性がある)2017年に何を開示するのか、そしてそれをどう開示するのかを決めて、そこからさかのぼって作業をする必要がある。IFRSは基準というよりも開示の革命だ」と話した。
武田氏はまた、IFRSの原則主義について「自分の頭でジャッジメントをすることが求められる」と述べた。武田氏は上場企業の経理部で働いた経験があり、その際に「この仕事は誰のためかということを疑問に思っていた」という。
「ものすごい工数をかけて仕事をしているが、誰のための仕事か疑問だった。経営者のためになのか。それとも単なる伝票作成屋さん、短信作成屋さんなのか。経理は本来は会社の中枢のはずで情報の製造業にならないといけない。あらゆる利害関係者に向かって情報を出していかないといけない。IFRSは経理を変える機会になる」
武田氏は企業の早めのIFRS対応開始を強調した。「まだこれからだと静観している人もいるが、まずは有報の事例を分析するところから始めてほしい。IFRSを経営と会計をつなぐ前向きなきっかけとしてほしい。延期されたからといってこの2年に何もしないと、フルマラソンを猛ダッシュで走ることになる」
イベントの冒頭ではディーバの代表取締役社長 森川徹治氏があいさつし、「私自身もIFRSをどう理解するか試行錯誤している」と語った。その上で「視座の転回が必要だと思っている」として、「レポーティングは経営層の意思決定のために出されている。経営者が短い時間で適切な意思決定をするためには、きちんと情報が提供される仕組みがないと、意思決定の品質が下がる。そのための部門は経理財務が一番だ。IFRSを適用することで、本当の意味での意思決定の情報を提供できる」と話した。
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