ブログ「CFOのための最新情報」で知られる武田雄治会計士は決算早期化のエキスパートでもある。企業はどうすれば決算作業を効率化し、早期開示ができるのか。不透明感が続くIFRSへの思いも含めて、新著の読みどころを聞いた。
会計、IFRS関係の注目書籍を出版した著者に聞くインタビュー連載。第1弾はブログ「CFOのための最新情報」で知られる武田雄治会計士に、決算早期化やIFRSの今後の動向について聞いた。
――7月25日に新著『「経理の仕組み」で実現する決算早期化の実務マニュアル』を出版しました。
武田氏 以前出版した『こうすればできる! 決算早期化の仕組みと実務』の第2版的な位置付けの本です。決算早期化へのニーズは引き続き多く、これまでの決算早期化コンサルティングの体験や成功事例を盛り込み、バージョンアップしました。IFRSについても1章を割いて説明をしています。
IFRSを適用しても連結財政状態計算書(B/S)や連結包括利益計算書(P/L)を作る時間はそれほど変わらないと思いますが、注記作成に膨大な時間がかかるようになります。そのため決算早期化のニーズが今後、さらに高まるのではと予測しています。
――2月に行った「DIVA LIVE」の講演でも開示までの時間について言及していましたね(参考記事:IFRS適用「5〜7年の準備期間が現実的」)。
武田氏 30日以内に短信を開示している企業は東証上場企業のうち、2割しかありません。8割は早期化を達成できていないといえるでしょう。その8割の企業を分析すると、単体や連結財務諸表の作成ではなく、開示に膨大な工数が掛かっていることが分かります。
開示に工数が掛かるのは、連結決算終了時に連結精算表しかできていないからです。そのような企業では、連結担当者とは別の開示担当者がゼロから開示作業をスタートさせています。決算作業と開示作業が完全に分断されているのです。だから開示だけで20日もかかってしまうのです。この状況でIFRSを適用すると開示のボリュームが2〜3倍になり、45日以内の開示はまず無理でしょう。
決算発表が早い会社は最初から有価証券報告書の提出を見据えて作業をしています。ポイントは、決算開示までの「ベルトコンベアー」を作ることです。つまり今のやり方を変えて、決算や開示を単純作業化していかないといけないのです。今回の本ではそれを「マクドナルド化」と言っています。マクドナルドには、一般のレストランにいるような高度な技能を持つ調理人はいません。しかし、効率的に速く成果物を出すことができます。同じように、決算の現場でも、決算開示のプロでなくても開示作業ができるよう仕組みを作ることが重要です。新著では、有価証券報告書の提出というゴールを見据えて、ベルトコンベアー式の効率的な仕組みを作る方法を説明しています。
経理部は本来、短信作成だけでなく、あらゆる利害関係者に情報を提供するのが役割です。情報の製造業になるべきと私は思っています。伝票入力や短信作成で忙殺されるのはおかしいのです。何となく無駄な作業をしているなと日々感じている人にこそ、今回の本は読んでほしいと思います。
――IFRSについては国の方針がはっきりせず、経理の現場では戸惑いが見られます。金融庁から「中間的論点整理」が出ましたが、どう読みましたか?(参考記事:金融庁、IFRS審議のまとめを公表「任意適用の積み上げを」)
武田氏 決定事項が何もなく期待はずれでした。1年議論をしても結局は何も生まれなかったという、もどかしさを感じます。この1年はIFRS適用に動いていた会社を止めただけだったのではないでしょうか。セミナー来場者などから現場の話を聞くと、IFRSを適用したいという会社は結構あります。ただ、IFRS適用の時期と対象企業だけでも早く決まらないと、企業は予算も付けられません。
米国証券取引委員会(SEC)の最終スタッフレポートについてはメディアの報道や監査法人の説明がかなりネガティブになっています(参考記事:SEC、米国企業のIFRS適用について判断示さず)。私は本当かなと疑問に思っています。そこまで消極的な内容ではないと思いますが、日本の経営者はネガティブな内容と理解してしまうでしょう。企業の方はIFRSについての事実を見極めてほしいと思います。
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