出社回帰をしても「オフィスもPCも昔のまま」では無意味としか言えない訳テレワークを望む従業員、出社を求める経営者

出社回帰やハイブリッドワークの普及で、企業は働く環境や、利用するPCやITツールの再考を求められている。出社回帰をするだけでは「意味がない」と指摘されるのはなぜなのか。

2024年07月26日 08時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

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 出社回帰やハイブリッドワーク(テレワークとオフィスワークの組み合わせた)の定着といった変化に伴って、企業は働く場所の他、利用するPCやITツールなどの再考を迫られている。オフィスやPCが昔のままで出社回帰をしても、業務がうまく機能するとは限らない。それはなぜなのか。企業は何を変えるべきなのか。

出社回帰をするだけでは無意味なのはなぜか?

 企業がオフィス回帰を求めるニュースが飛び交っている。その中では、従業員をオフィスにどうやって出社させるか、オフィス回帰が企業に恩恵をもたらすかどうかという観点で、さまざまな意見が生じている。

 経営層は従業員がオフィスに戻ることを望んでいる一方で、従業員は出社を望んでいない。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を機に、出社しなくても問題なく働けることに従業員は気付いた」。Gartnerのシニアディレクターアナリストを務めるランジット・アトワル氏はこう説明する。

 アトワル氏は企業に対して「ハイブリッドワークが自社にとってどのような意味を持つかを理解すべきだ」と助言する。「家でもできる業務をするために従業員に出社させることは無意味だ」というのが同氏の考えだ。

 調査会社Gartnerは2023年3月にテレワークやハイブリッドワークに関する調査結果を公開した際、欧州では対面でのコミュニケーションが好まれる傾向にあると指摘した。2023年にテレワークもしくはハイブリッドワークを実施するナレッジワーカーは、ドイツの労働者全体の49%、英国の労働者全体の67%を占める見通しだと同社は予測。ハイブリッドワークを実施する従業員が同年に増加するという見通しを示していた。

 景気が後退し、インフレが続く中では、通勤費を減らすために出社に消極的になる従業員もいれば、水道光熱費を節約する目的で出社を希望する従業員もいる。従業員にテレワークを奨励することで、オフィスの運用にかかるコストを減らしたいと考える企業もある。

従業員も企業も幸せにする「人間中心型」のハイブリッドワーク

 「たとえ従業員が個人の状況に応じた働き方を望んでいたとしても、オフィスに出勤する必要はある」とアトワル氏は指摘する。企業と従業員の要求を満たすハイブリッドワークを実現するには、オフィスを中心とするのではなく、人間を中心とした働き方を採用し、ハイブリッドワークに関する新たな基準やガイドラインを構築することが重要だと同氏は指摘する。その結果、従業員がどこで働いていても、企業は事業目標を達成できるようになるという。

 人間中心型のハイブリッドワークを実現するための場として、Gartnerは「デジタルワークプレース」(業務用のデジタル空間)を提示する。デジタルワークプレースを活用することで、企業は居住地を限定せずに従業員を採用できるようになり、従業員はオフィスで勤務しなくても一体感を持って業務を遂行できるようになると同社は説明する。デジタルワークプレースは、対面で実施する会議や出張、既存のWeb会議サービスに変革をもたらす概念でもあるという。加えて、2025年までに企業の10%が、営業活動やオンボーディング(新人の受け入れから戦力化までのプロセス)、テレワークにデジタルワークプレースを利用するようになると同社は予測する。

 Gartnerが2023年9月に公開した調査レポートによると、以下の要因を背景にして、2026年末までに従業員の64%がテレワークやハイブリッドワークで働けるようになる見通しだ。

  • デジタルの民主化
    • IT部門の担当者ではない従業員がITを活用し、業務のデジタル化を加速させる取り組み
  • デジタイゼーション
    • 業務をデジタル化すること
  • 業務の自動化

 例えばデジタルワークプレースでAI(人工知能)技術を使えば、人事部門やIT部門に寄せられる定型的な質問に自動で回答できるシステムを構築可能だ。拡張現実(AR)や仮想現実(VR)用のヘッドマウントディスプレイを使えば、従業員がテレワークをしながらオフィスにいるのと同じ感覚で会議に参加できるようになる。こうしたITの活用を通じて、密接なコミュニケーションが必要な業務では出社する必要があるという考えに一石を投じることができる。

 デジタルワークプレースの広がりは、IT部門の在り方を再検討する機会も生む。アトワル氏によると、テレワークを実施している従業員はオフィス勤務が前提だった頃と比べてITに詳しくなっている。「そうした従業員は、業務を中断する原因になっていたPCの不具合を自力で修正できるようになった」と同氏は話す。ソフトウェアのエラーを修正するためのスクリプト(簡易プログラム)やマクロをIT部門が社内ポータルサイトに用意しておけば、従業員は問題解決のために出社する必要がなくなる可能性がある。

 「CPUやメモリ、ストレージといったPCのスペックも、テレワークを実施する上では重要な問題ではなくなりつつある」とアトワル氏は話す。ソフトウェアをPCにインストールするのではなく、SaaS(Software as a Service)を利用すれば、従業員はPCのスペックにある程度左右されずにソフトウェアを使うことができる。PCのスペックに加えて、テレワークでの業務を快適にするためのモニターやキーボード、マウスといったデバイスへの予算の配置を検討することも一つの手だ。

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