AIワークロードのコンピューティング需要は環境への負荷を増大させている。持続可能なAIインフラの構築は喫緊の課題だ。環境負荷を抑えつつ、AIモデルの性能を引き出す方法とは。
AI(人工知能)技術の急速な発展と普及に伴って、その環境負荷が新たな懸念材料として浮上してきた。AIモデルの学習やAIワークロード(AI技術関連のタスク)の処理は、莫大(ばくだい)な電力を消費する。環境への配慮とAI技術の活用を両立させる上で、企業が持続可能なAIインフラを構築するためには何が必要なのか。
AI技術のコンピューティング需要は、持続可能性への取り組みに課題を突きつけている。絶えず電力を供給して冷却する必要があるデータセンターは、技術的なアップグレード以上の改善が必要だ。データセンター運営事業を手掛けるDigital Reality Trustで、アジアパシフィック担当ディレクターサービスアーキテクトを務めるダニエル・オング氏は、デジタルアーキテクチャの根本的な転換を呼び掛けている。
モジュール(部品やブロック)を現地で組み立てて設置するモジュラー型データセンターは、スケーラビリティ、効率性、適応性を備えており、AIインフラの最前線にある。AI技術を活用したアプリケーションが多様化と複雑化を続けていることに対して、モジュール化は有効に働くとオング氏は指摘する。効率的なインフラ拡張が可能になり、費用と時間がかかる部分的なアップデート、拡張をする必要性が薄くなるからだ。
オング氏は次のように続ける。「モジュラー型データセンターは、運用コストを削減しつつ、長時間のダウンタイムを回避しながら、AI技術の要求に応えるパフォーマンスを実現する鍵になる」
モジュール化の利点は拡張性だけにとどまらない。AI技術の進歩には迅速な市場投入が不可欠だ。これに対して、モジュラーの構築に既製品のコンポーネントを用いることによって、データセンターの展開速度を早めることができる。こうした取り組みは企業によるAI技術の採用を促進し、企業の競争力強化につながる。
「エネルギー効率を優先したAIサービスを選ぶだけでなく、特殊なプロセッサやコンパクトなAIモデルを活用することで、二酸化炭素(CO2)排出量を抑えられる」とスミス氏は助言する。AI技術と脱炭素化を推進する技術を組み合わせれば、持続可能性の目標を達成しつつAI技術の導入を進めることが可能だ。
スミス氏は「インフラベンダーとAIモデルを選ぶ上では、AIモデルのトレーニングから日常的な利用に至るまで、AI技術活用のさまざまなシーンにおけるCO2排出量への影響を考慮した選択が重要になる」ともアドバイスする。それによって、企業はAI技術の革新性を取り入れながら、環境に対する責任を果たせるようになる。
Anthropicは、再生可能エネルギーの使用と、カーボンニュートラルの達成に重点を置くクラウドベンダーとの提携を優先しているAIスタートアップ(新興企業)だ。同社はクラウドコンピューティングに伴う排出を含め、CO2排出量を積極的に相殺することで、環境への影響削減を優先している。具体的には、カーボンフットプリント(人間活動が排出する温室効果ガスを二酸化炭素に換算した指標)を分析し、信頼できるカーボンクレジット(温室効果ガス削減効果をクレジットとして売買できる仕組み)に投資して排出量を相殺している。
スミス氏はAnthropicの活動を「持続可能性に向けた取り組みだ」と評価する。「こうした取り組みは、AIインフラの選択において、持続可能性の優先が環境への影響を抑え、責任ある技術を開発する上で重要なことを示す」と同氏は言い添える。
テキストや画像を自動で生成するAI技術「生成AI」は、リソースの配備、データ品質の保証、自動スケーリングといった分野で、AIインフラの強化に重要な役割を果たす。生成AIを活用することで、企業はAIモデルのコンピューティング需要に応じてクラウドサービスをスケーリングしたり、リソースの利用を最適化したりできるようになり、運用コストの削減が見込める。
生成AIはデータ生成と、データの前処理が可能だ。「これらの能力とさまざまなコーディング手法を組み合わせれば、データの品質とAIモデルの精度を向上させることができる」とスミス氏は述べる。
技術面の改善だけではなく、プログラミングのスキルや経験が限られた人でもソフトウェアを開発できるようにすることも、生成AIの機能だ。ソースコードの自動提案によって開発をスピードアップさせたり、デバッグやテストケースを生成してソフトウェアの品質を向上させたりすることができる。
「こうした包括的な取り組みは、開発と保守のプロセスを効率化するだけではなく、AI技術の革新と持続可能性を促進し、AIインフラ管理の効率性と適応性の新時代を築く」(スミス氏)
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