職場における従業員のつながりが希薄化し、問題視されている。その原因は、テレワークの普及に限らない。この問題を解決するためには、どのようなアプローチが求められるのだろうか。
職場でのコラボレーション(共同作業や協力)は減少傾向にある。その主な要因として、テレワークの普及による孤立が挙げられる。それでは従業員のオフィス回帰を進めれば問題が解決するのかというと、そう単純ではない。
調査会社Gartnerのアナリストは、同社が開催する年次カンファレンス「Gartner ReimagineHR Conference」において、「コラボレーションが減少する理由は複雑で、単一の原因に帰せるものではない」と見解を示した。では、この課題を解決するにはどのような施策が効果的なのだろうか。
「ITの進化により、職場で協力を仰ぐ方法や、共同作業の在り方が変化している」。こう話すのは、Gartnerでアナリストを務めるラス・マッコール氏だ。例えば、AI(人工知能)技術が進化したことで、いまや従業員は同僚や上司ではなく、AIチャットbotなどのAIツールに頼る傾向にある。
他にも、従業員同士のつながりが断絶する要因として「世代間の感覚のずれ」がある。マッコール氏は講演の中で、とある採用担当者からの報告を引用しつつ、この問題に触れた。「大学を卒業した応募者の中には、アイコンタクトが苦手であったり、面接には不適切な服装だったり、眉をひそめるような言葉を使ったりする人もいた」。さらに驚くべきことに、応募者の20%近くが面接会場に母親や父親を連れてきたという。
これに加えて、テレワークやハイブリッドワーク(オフィスワークとテレワークの組み合わせ)の拡大も原因となる。従業員同士の自然な交流が減少し、単独で仕事を進める習慣が促進されるからだ。
一方で、多くの企業は柔軟性のある働き方を重要事項として位置付けている。オンラインストレージサービスを手掛けるDropboxもそのうちの一社だ。同社の人事担当バイスプレジデントを務めるアリソン・ベント氏は、「柔軟性と裁量を持って働ける環境は、現代において最も重要な条件だ」と話す。従業員が自分に合った働き方を選べるようになれば、生産性の向上や健康状態の改善、さらには成長にもつながる。
一方でベント氏は、「人間同士のつながりに取って代わるものはない」とも話す。Dropboxでは定期的に従業員同士が交流を深められるような取り組みを実施しているという。具体的には、四半期ごとにオフサイトでチームミーティングを開催し、「テレワークと対面の利点を組み合わせたアプローチ」を採用している。
Gartnerが2024年第2四半期(4月〜6月)に世界中の労働者約1万8000人を対象に実施した調査によると、コラボレーションに対する従業員の満足度は着実に低下している。「職場でのコラボレーションに満足している」と回答した従業員の割合は29%に過ぎず、この数字は今後も減少するとGartnerは見込む。
こうしたコラボレーションの減少に対する解決策として、Gartnerは構造化されたアプローチが重要だと提言する。その具体例として、AI技術を活用した「ナッジ」(強制せず行動を促す仕組み)の導入がある。これは従業員に同僚とのつながりをリマインドするもので、Gartnerのアナリストを務めるジェシー・ナイト氏は「同僚との関係性を高める効果的な手段だ」と説明した。
さらにナイト氏は、AI技術を活用したコラボレーションについても言及した。例えば、AI技術を用いて同僚の経歴を分析し、プロジェクトへの貢献方法を提案したり、他チームの類似プロジェクトの経験を基に次の一手を示唆したりできる。
金融サービス企業の法令順守研修担当ディレクターであるパルビーン・デサ氏も、Gartnerの提言に賛同の意を示す。デサ氏は、技術導入における人事部門とIT部門の連携の重要性を強調し、「現状は、人事部門が協議の場に加わることはほとんどない」とも指摘した。
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