Appleへのバックドア要求は妥当なのか “法的な限界”を探る英政府の真の狙いiCloudデータへのアクセスを要求

英国内務省がAppleに対し、エンドユーザーのデータにアクセスできるバックドアを設けるよう要請したことを受け、Appleは異議を申し立てた。内務省の要求は妥当なのか。

2025年03月11日 06時00分 公開
[Bill GoodwinTechTarget]

 英国内務省がAppleに対し、エンドユーザーのデータにアクセスできるバックドア(侵入口)を要求したことを受け、Appleは調査権限裁定所(IPT:Investigatory Powers Tribunal)に異議を申し立てた。英国政府が国民のプライベートなデータにどこまでアクセスできるのか、法的な限界を示すことになる。

内務省の要求は妥当か

 内務省は、Appleのエンドユーザーがオンラインストレージ「iCloud」に保存している暗号化データに、英国の法執行機関や情報機関がアクセスできるよう求める「技術的能力通知」(TCN:Technical Capability Notices)を出したと報じられている。Appleはこの要請に対抗し、IPTに異議を申し立てた。

 異議申し立てを受けてIPTは、内務省のAppleに対する命令が適切かどうかを判断しなければならない。Appleのデータ暗号化機能を破ることによるセキュリティへの影響と、内務省がiCloudのデータにアクセスすることで得られる利益を天びんにかけることになる。

 すでにAppleは2025年2月、内務省の要求に従わない代わりに、iCloudのデータを暗号化して保護する機能「iCloudの高度なデータ保護」(Advanced Data Protection:ADP)を英国のエンドユーザーに提供しない方針を示した。

 ADPの提供取りやめは何を意味するのか。容疑者が海中に投げ捨てたスマートフォンのデータを警察が取得したい場合、英国の機関がAppleに対してiCloudからそうしたデータを取得するよう要請できるということだ。

 こうした点から、内務省がAppleに要請を出した真の目的が見えてくる。Appleへの要請は、英国政府が最終的なターゲットとしている「WhatsApp」「Signal」「Telegram」などのメッセージングアプリケーションに対し、TCNを行使するための“地ならし”ということだ。英国の法執行機関と内務省は、これらのサービスがテロリストや小児性愛者に悪用される可能性があると主張している。

 内務省は、Appleをテストケースに選んだのは、2016年に成立した「英国調査権限法」(Investigatory Powers Act 2016)に基づく英国政府の権限の限界を試すためだ。同法は、英国の法執行機関や情報機関が捜査のため、通信データにアクセスできる権限を付与するものだ。

 WhatsAppなどと比較すると、iCloudは内務省が標的にしやすいとみられる。iCloudのADPは、オプトイン(承諾)方式の機能だ。プライバシーやセキュリティの意識が乏しいエンドユーザーは、利用機会が限られる機能といえる。

 英国政府は、国民の反応を注意深く観察している。iCloudのプライバシー喪失について、国民が懸念を抱くかどうか、懸念を抱く場合、将来の選挙で政府与党に反対票を投じるほどの関心を持つかどうかを見極めようとしている。

米英間で生じる緊張

 英国のこの方針は米国との緊張を生んでいる。米国のドナルド・トランプ大統領は2025年2月、英国のキア・スターマー首相との会談で「そのようなことをしてはいけない」と警告したと、英国の週刊誌「The Spectator」のインタビューに答えた。

 米国の国家情報長官トゥルシー・ギャバード氏は、英国内務省のAppleへの要請は「米国民のプライバシーと自由を損なう可能性がある」と懸念を表明。米英間の情報共有を損なう可能性のある「明確で甚大な違反」だと指摘した。

 人権およびプライバシー権利擁護団体のBig Brother Watchの暫定ディレクター、レベッカ・ビンセント氏は英国Computer Weeklyに対し、Appleへの措置は数百万人に影響を与えると主張する。

 「Appleに対する圧力は憂慮すべきものだ。この法的手続きが秘密裏に進む可能性があることも同様に懸念される。このことは英国で数百万人のプライバシーに影響を与える重大な問題だ」(同氏)

 同氏は「英国政府はAppleに勝訴すれば、近い将来、他のプラットフォームにも同様の要請を出す。政府だけではなく悪意のある人々がエンドユーザーのデータにアクセスできるようになり、われわれが代償を払うことになる」と付け加えた。

 英国内務省の報道官は「われわれは、AppleにTCNの要請を出したかどうか、肯定も否定もしない」と明言を避けた。その上で「英国は児童への性的虐待やテロリズムなどの犯罪から国民を守ると同時に、国民のプライバシーも保護するという立場を取っている」と言い添えた。

 英国の安全保障担当大臣ダン・ジャービス氏は2025年2月、「プライバシーとセキュリティは相反するものではなく、両方を同時に確保しなければならないものだ」と述べている。「調査権限法はプライバシーを保護し、例外的な場合にのみ、必要かつ適切な場合に限ってデータを取得することを保証するものだ」と同氏は説明した。

 法的な異議申し立てに関する質問に対し、Appleは以下の通り回答した。

 「Appleは、エンドユーザーの個人情報に最高レベルのセキュリティを適用することに引き続きコミットしており、将来的に英国でも実現することを期待している。これまで何度も述べてきたように、われわれは製品やサービスにバックドアやマスターキーを設けたことは一度もなく、今後も決して設けることはない」

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