英国政府によるバックドア設置の要求を受け、Appleが英国で「iCloudの高度なデータ保護」の提供を終了したことで、セキュリティ専門家らに懸念が広がっている。Appleは何を主張し、専門家は何を危惧しているのか。
Appleは2025年2月、英国のエンドユーザーを対象に、オンラインストレージ「iCloud」のバックアップデータやファイル同期サービス「iCloud Drive」のデータなどを暗号化できる機能「iCloudの高度なデータ保護」(Advanced Data Protection:ADP)の提供を中止した。
ADPの提供中止は、英国政府がAppleのエンドユーザーのデータにアクセスできるバックドア(侵入口)を要求したことを受けた措置だ。Appleは英国政府の要求を退け、ADPを無効化することを選択。セキュリティの専門家の間で懸念が広がっている。
Appleは2022年、データの送信元から送信先までの通信を暗号化する「エンドツーエンドの暗号化」(E2EE)を用いてiCloudのセキュリティを強化するADPを導入した。これに対し米連邦捜査局(FBI)は、「サイバー攻撃や薬物の密売、テロに関する捜査や法執行活動の妨げになる」と批判した。一方セキュリティの専門家らは、「機密性の高いデータに対するリスクが増大する中、データセキュリティにとって重要な一歩だ」と評価していた。
しかしAppleは、英国のエンドユーザーに限ってADPの提供を停止した。iCloudのバックアップデータやiCloud DriveのデータはE2EEで保護されなくなる。
米Informa TechTargetに対し、Appleが出した声明は以下の通りだ。
当社は英国において、新規エンドユーザーへのADPの提供を停止せざるを得なくなり、既存エンドユーザー向けにもこのセキュリティ機能を無効化しなければならない。ADPはiCloudのデータをE2EEで保護する。暗号化されたデータは、所有者であるエンドユーザーが信頼できるデバイスでのみ復号できる。データ侵害やエンドユーザーのプライバシーに対する脅威が増加し続ける中、英国のエンドユーザーにADPを提供できなくなることを残念に思う。E2EEによるオンラインストレージのセキュリティ強化は、これまで以上に緊急性を帯びている。Appleは今後もエンドユーザーのデータに最高レベルのセキュリティを提供することに尽力し、将来的には英国でも実現できることを期待している。これまでも繰り返し申し上げてきた通り、当社は製品やサービスにバックドアやマスターキーを設けたことはなく、今後もそうした計画はない。
ADPの導入によって、エンドユーザーは自身のデータを“完全に”保護できるようになった。Appleがエンドユーザーの暗号化されたデータにアクセスしたり、法執行機関に暗号化されたデータを提供したりすることは不可能だ。
新規エンドユーザーへの機能提供の中止だけでなく、既存エンドユーザーに対する機能の無効化についてもハードルがある。既にADPを有効化しているエンドユーザーに対し、Appleが直接機能を無効化することはできない。既存のエンドユーザーは、Appleのガイダンスに従い、自身で機能を停止する必要がある。
権利保護団体Electronic Frontier Foundation(EFF:電子フロンティア財団)の監視訴訟ディレクターであるアンドリュー・クロッカー氏は「英国政府がバックドアを要求したために、Appleは窮地に追い込まれた」と述べる。英国のエンドユーザーに対しADPを無効化するというAppleの決定は、「現時点では合理的な対処だった」と同氏は評価する。
しかし、「英国のエンドユーザーは、悪意のある攻撃者の標的となるリスクにさらされることになる」とクロッカー氏は指摘する。「英国は自国民の安全と自由を損なう選択をした」(クロッカー氏)
権利保護団体Access Nowは2025年2月11日(現地時間)、短文投稿サイト「X」への投稿で、英国政府によるバックドアの要求に反応した。英国政府に要求の撤回を求め、Appleにはユーザープライバシーへの取り組みを堅持するよう促した。
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