多様なAIエージェントツールが登場する中で、最適なツールの選定に頭を悩ませる企業は少なくない。Adobe Summit 2025で発表されたユーザー企業の取り組みを基に、AIエージェント導入のヒントを探る。
AIエージェント(AI:人工知能)ツールが次々と登場する中、自社のITシステムにどのツールを導入すべきか、そしてどう活用すべきかの判断は容易ではない。ITの専門家でさえ、その最適解を模索している状況だ。
2025年3月にラスベガスで開催された「Adobe Summit 2025」では、ユーザー企業によるAIエージェント活用事例や、その導入を成功に導くためのヒントが紹介された。
Adobe Summit 2025において、AdobeはCDP(顧客データプラットフォーム)ツール「Adobe Experience Platform」と連携するAIエージェントを発表した。これにより同社は、AIエージェント市場への本格参入を果たした。Amazon Web
Services(AWS)やMicrosoft、Salesforce、Oracle、OpenAIなども同市場に参入している。
AdobeのCEOシャンタヌ・ナラヤン氏は基調講演で、「AI技術に対する当社のアプローチは、人間の創造性は唯一無二であるという信念に基づいている」と語った。「AI技術は人間の創造性を支援、拡張することで、生産性を高める力を持っている」(ナラヤン氏)
飲料メーカーのCoca-Colaは、Adobeの生成AIツール「Project Vision」およびAIエージェントを活用してブランドデザインに取り組んでいる。その目的は、容器のサイズや形状、言語の異なる各国市場においてパッケージブランディングの一貫性を維持しつつ、各地域のニーズに応じたラベルデザインを実現することだ。
「当社は、単にデザインを複製するのではなく、“Coca-Colaらしさ”を学習して理解するAIシステムを必要としていた」。こう話すのは、Coca-Colaのデザイン部門グローバルバイスプレジデントを務めるラファ・アブレウ氏だ。「Project Visionはこのニーズに応えるツールであり、デザイナーを代替するのではなく、デザイナーのビジョンを実現する上で役立っている」(アブレウ氏)
AIエージェント市場はいまだ模索段階にある。調査会社IDCでアナリストを務めるルー・ライネマン氏は、「アナリスト、ベンダー、そしてその顧客は現在、AIエージェントの機能の理解や顧客体験(CX)への適用、ベンダーの選定について試行錯誤を重ねている」と話す。企業の規模や製品の成熟度によって、AIエージェントの種類は異なるという。
ライネマン氏によれば、ビジネスの初期段階では、CXやカスタマーサービスが強力な差別化要素となる。一方、企業が成長し、製品やブランドが広く認知されるようになると、サービスの良しあしだけでなく、ブランドそのものの価値や信頼感を高める必要が出てくるという。
このように、AIエージェントの導入目的は企業の成長段階によって変化する。多様なニーズに応えるため、ベンダー各社は独自のAIエージェントを開発している。グローバルコンサルティング企業PerficientでAdobe担当プリンシパルを務めるロス・モナハン氏は、「例えば、SalesforceはCRM(顧客関係管理)データを軸にしたAIエージェントに注力しており、Adobeはマーケティングに焦点を当てて開発を進めている」と説明する。
「将来的にはAIエージェント同士が連携して動作する可能性もあるが、しばらくの間は各サービス内で、特定の役割に応じた機能を担う形が主流になるだろう」とモナハン氏は見込む。
調査会社Constellation Researchのプリンシパルアナリストであるリズ・ミラー氏は、「多くの組織は、最終的に複数のAIエージェントツールを併用することになる」と予測する。その取り組みを成功させる鍵は、全てのAIエージェントが共通で利用できる単一のデータスキーマ(データやデータベースの形式や構造)の整備にあるという。
「複数のAIエージェントに提供されるデータが、単一のソースから取得され、適切に管理されている状態をどう保証するか。それこそが、今まさに注意を払うべき“データのサプライチェーン”だ」(ミラー氏)
AI活用の主導権はIT部門ではなく経営層が握るべきだという意見もある。Adobeのユーザー企業である金融機関JPMorgan ChaseのCEOジェイミー・ダイモン氏は、「経営陣はデータサイエンスの細かい仕組みまで理解する必要はなく、AI技術がもたらすビジネス成果に焦点を当てるべきだ」と指摘する。
JPMorgan Chaseでは、AI技術を用いた自動化によって、顧客開拓、書類管理、広告出稿、詐欺検出など、部門や支店の垣根を超えた業務の効率化を進めている。今後は専任のAIチームが、どの業務でAI技術を活用するのかを検討する。
「AI導入が進む中で、社内から次々と素晴らしいアイデアが生まれている。AI技術は企業文化の一部として根付かせるべき存在だが、それは容易ではない。企業はAI導入を“IT部門の仕事”と捉えるのではなく、経営レベルで推進すべきだ」(ダイモン氏)
(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)
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