2025年、「AIエージェント」の時代が本格的に到来する。企業が競争力を維持するためには、AIエージェントの導入と活用に向けた適切な準備が不可欠だ。具体的にどう備えるべきなのか。
本稿は、Salesforceのソリューションエンジニアリング担当シニアバイスプレジデント兼Salesforce UKIの最高技術責任者(CTO)ポール・オサリバン氏による寄稿を基にしている。
AI(人工知能)技術は驚異的な進化を遂げている。その領域はトレンド予測やコンテンツ生成から業務自動化にまで広がり、2025年には「AIエージェント」の台頭という革命的な転換点を迎えている。これは、AIモデルが自律的に意思決定し、行動する時代に到達したことを意味する。
企業がAIエージェントの潜在的な価値を引き出し、持続的な競争力につなげるには、適切な準備が不可欠だ。本稿は、企業が備えるべき6つのポイントを解説する。
これまでのAI技術の進化を振り返ると、まず「予測AIの時代」があった。企業は蓄積したデータとAIモデルを用いて、トレンドを予測して意思決定を支援した。次に訪れたのは「生成AIの時代」だ。AIベンダーOpenAIのAIチャットbot「ChatGPT」の登場は象徴的で、新しい手法でコンテンツを生成し、ユーザーとAIモデルの関わり方を一変させた。こうした進化のはざまには、「ハイパーオートメーションの時代」が存在した。企業はAI技術を駆使して反復的なプロセスを自動化し、業務効率化を図ろうとした。しかし現実は、多大なコストや労力がかかるといった課題もあった。
そして今、AIエージェントという新たなブレークスルーが訪れようとしている。これは単なる予測や生成にとどまらず「合理的に行動するAIモデル」へと進化したものだ。AIエージェントは予測と生成の能力を併せ持ち、複数のシステムを横断して意思決定を実施し、自律的にタスクを遂行する。顧客対応のチケット管理からサプライチェーンの最適化まで、人間と同じように働くデジタルの同僚と言っても過言ではない。
AIエージェントの導入には大きな可能性がある一方で、その真価を引き出すためには以下のようなポイントに注意する必要がある。
AIエージェントを自社開発(DIY:Do-It-Yourself)する試みは、際限なくコストがかかる「財務的ブラックホール」を生み出しかねない。社内でLLM(大規模言語モデル)をゼロから構築・運用することは、大半の企業にとって非現実的だ。
その理由は、膨大なコストに加え、適切なインフラ、エンジニアリング体制、継続的なチューニング(調整)が不可欠だからだ。これらが不足すると、AIモデルの性能が低下するだけでなく、データプライバシーやセキュリティのリスクも高まる。
そのため、スケーラビリティ(拡張性)やセキュリティが確保されたエンタープライズ向けAIエージェントを活用することが重要だ。これにより、企業は不要なコストを抑えつつ、効率的にAIエージェントを導入できる。
データのサイロ化に悩む企業は少なくない。例えば、顧客とのやりとりは「Slack」、注文データはPDF、戦略資料は「Googleドキュメント」と、情報がばらばらに管理されているケースは珍しくない。
このようにデータが断片化された環境では、AIエージェントは正確な洞察を導き出せず、カスタマーエクスペリエンス(CX)も一貫性を欠くリスクがある。そのため、異なるデータソースをシームレスに統合するデータ統合ツールの導入が不可欠となる。
統合されたデータ環境では、AIエージェントは顧客の行動を包括的に理解し、文脈に応じたインテリジェンスを提供できるようになる。
AI技術の進化は、規制の整備をはるかに上回るペースで進んでいる。そのため、LLMがデータを学習に使用した場合の所有権、コンプライアンス、ガバナンスに関する課題が浮上している。
適切なガバナンス体制がなければ、企業は法的・倫理的リスクに直面する可能性がある。信頼性の高いAI運用を実現するためには、ガバナンスフレームワークの構築が欠かせない。こうした枠組みを整えることで、企業は機密データの保護と、グローバルなプライバシー規制の順守を両立できる。
企業が扱うデータの大半は、非構造化データのままで放置されている。例えば、サポートチケット、ソーシャルメディアのやりとり、メール、PDF、音声ファイルなどは、AIエージェントが直接分析できる形になっていない。
この問題を解決するためには、非構造化データを構造化するための光学文字認識(OCR)やETL(データの抽出、変換、読み込み)といったツールを活用し、非構造化データを構造化する仕組みを整える必要がある。これにより、AIが多様なデータを解析し、より高精度な洞察を提供できるようになる。結果として、顧客対応の質や意思決定の精度も向上する。
AIエージェント単独では、その真価を発揮できない。データ、ビジネスロジック、自動化、ワークフローが統合されていなければ、AIの大規模導入は困難となる。
包括的かつ柔軟なAIエコシステムを構築することで、AIエージェントは従業員、ビジネスプロセス、顧客データとシームレスに連携し、より高度で正確な意思決定を支援できるようになる。
市場には、「AIエージェント」と銘打ちながら、実際には単なる自動化に過ぎない技術が多く存在する。
本来のAIエージェントは、状況に応じた判断と適応が可能であるべきだ。しかし、多くの製品は、事前に設定されたワークフローを繰り返すだけで、人間の介入なしに独立して思考や行動をする能力がない。
そのため、企業は「AI」の名を借りた単なる自動化ツールに惑わされないよう注意し、真に戦略的価値をもたらすイノベーションに投資すべきだ。
将来的に、AIエージェントは企業にとって欠かせない存在となるだろう。人間の従業員と同様に、顧客と対話し、失敗から学び、信頼関係を築く能力も持つようになると見込まれる。
しかし、その進化にはリスクも伴う。悪意あるAIエージェントの登場や、ガバナンスの課題は避けて通れない問題だ。自律型AIシステムの倫理的・社会的影響を管理するためには、堅牢(けんろう)なデータポリシーと継続的な監視体制が不可欠だ。
AIの進化に伴い、業務プロセスやタスクの遂行方法も変化していく。今では一般的な業務のほとんどは、今後10年以内に自動化されるか、AI技術によって根本的に刷新される可能性が高い。
さらに、AIエージェントの普及は教育システムにも大きな影響を及ぼすと見込まれる。世代に関係なく、従業員はAI技術のリスク、メリット、倫理を理解することが求められる。そのためには、産業界と学術界が連携し、次世代の労働力育成に向けた協力体制の構築が不可欠だ。
最終的に、市場でリードするのは、「信頼性・安定性・スケール」を備えたエージェント型AIを実現するエコシステムと連携する企業となるだろう。
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